番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気

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「ラースの嬢ちゃん。どういうことだ?勇者という不安材料があるというのに、ミゲルもラースは抱え込む気か?」

「私の口からはなんとも言えません」

 シェリー自身が交渉してミゲルロディアに戻って来てもらったというのに、シェリーはいけしゃあしゃあとごまかした。

「いや、駄目だ。ちょっと、上で説明しろ。流石にこれは無視はできないぞ」

「嫌です。それよりダンジョンの入り口を開けてもらえません?」

「だから、前から言っているよな。自分の要望だけ言うなってな」

 少年と言っていい姿のシドが、子供に言い聞かせるようにシェリーに言う。両手をズボンのポケットに突っ込んで、シドは顎で二階に上がるよにシェリーに促し、背を向けて階段に向かっているシドの肩をシェリーはガシリと掴んで引き止めた。

 シェリーはシドに近づいて小声で話す。

「今は弟がいるから駄目です」

 その言葉にシドはルークに視線を向け、シェリーに視線を向ける。

「ん?お前。おかしなことになっているのか?」

 シェリーの顔を見たのにシドは普通の態度だった。呪いと言ってい神の祝福の影響を受けていないようだ。

「なんか、お前を見ているとゾワゾワする」

 そう言いながら、シドはシェリーから距離をとった。どうやら、影響を受けていないわけではないようだ。その言葉にシェリーはフードを深く被る。

「ですから、色々あったのですよ。恐らく、もうすぐギルドマスターが来ると思いますので、先にダンジョンの扉を開けてもらえません?国の事はオーウィルディア様にお尋ねください」

「まぁいい。ダンジョンの入り口に行く間にリュエルがここに来る理由を説明しろ」

 シドはそのまま歩きだす。そして、シェリーはルークの手を取ってシドの背中を追って行った。



「あ?オルクスを?いくらなんでも無謀だろう?」

 シドがシェリーからの説明を聞いた反応がこれだ。今は、ダンジョンの入り口に向かうべく傭兵団の建物のただの壁だったところから地下へ続く階段を降りていっているのだ。
 2体の悪魔討伐に4人を向かわせた事を聞いて、オルクスでは『次元の悪魔』に勝てないとシドは判断したようだ。
 自分の部下だったオルクスの実力はシドが一番よくわかっている。

「あいつ、根本的に馬鹿だから突っ込んでいって終わりだろ?」

 いや、実力云々ではなく、オルクスの性格を指摘した発言だったようだ。

「それぐらいわかっている。しかし、戦ってみないと、自分の実力というものがわからないだろう?」

 カイルがシドの言葉に答える。馬鹿につける薬はないと言わんばかりだ。

「グレイシャルもなぁ。クロードのところの若造ならまだしも、強くなろうって意欲がないよなぁ」

 第6師団長のクストと比べられるグレイが可哀想だというものだ。クストは、一族と国を背負って討伐戦を戦い抜いたのだ。そんなクストとナディアの所為で甘々に育てられたグレイは比較にすらならない。

「しかし、またしても『次元の悪魔』かぁ。マリアが戻って来ないかなぁ?無理だよな」

 己の主を見つけた狼獣人に戻って来いというものは無理な話だろう。彼女はユーフィアに仕えることを選んだのだから。

「一族の招集かけようか」

 独り言をボソボソと言い出したシドの背中を見ながら、シェリーは一番やる気がないのはシドではないのだろうかと思うのだった。




 行き先を両開きの扉で遮られたところで、シドは足を止めた。それまで、ボソボソと独り言を言い続けていたのだ。

「行きは開けてやるが、帰りはギルドの方から出てくれ。そろそろ俺も腰を上げないといけないようだから、長としての仕事をしないといけないようだしな」

 なんだかイヤイヤ感がみてとれる。よく今まで一族をまとめられていたと、感心してしまう程だ。
 シドによって開けられた扉の中にシェリー達は入っていく。そして、思い出したかのようにシドがシェリーに言った。

「ああ、そう言えばさっきの話のやつだが、国境を物理的に封鎖した話だ」

 ユールクスが悪魔の侵入を防ぐ為に物理的に国境を封鎖したいと言っていた話のことだろう。

「英雄ソルラファールの伝承にある。氷の精霊が奴隷商を国に入れないために数ヶ月にわたって国境を封じたという話だ。初代炎王様が関わっているから詳しくは初代様に聞いてみるといい」

 そう言ってシドはダンジョンと傭兵団本部を隔てる扉を閉めていった。

 炎王。確かに炎王の側には精霊がいる。それも英雄が存在していた時代だということは1000年前のことだろう。国境といっても数メルメートルという距離ではなく、海から山脈までは数十キロメルはあるのだ。
 普通はその距離の封鎖などできやしない。精々国境線を引くぐらいなものだ。

 しかし、その距離を封鎖するような力を持った精霊が炎王の側にいるとは、なんと恐ろしいことだろうか。

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