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25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気
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ルークは聞き間違えかと瞳を瞬く。3つの子供が家族の為に食事なんて作れるはずはないと。
「これは本当は俺が話すべきのことじゃのは理解している。だが、シェリーは決して君には話はしないだろう」
「なぜ?」
何故と問われてもカイルにはシェリーの心は推し量れない。そのことをカイルが口にすることは間違っているため、ルークの言葉にはカイルは答えず、凍った朝食をフォークで刺し口にする。
そして、ただ事実のみを言葉にした。
「シェリーは番というものを嫌っている」
シェリーの番であるカイルから出た言葉にルークは目を丸くする。殆どこの屋敷から出ることがなかったルークでも番というものの話を耳にした事がある。皆が羨ましいだとか、幸せだとか否定的な言葉は一切出てくることはなかった。
だから、ルークは決めつけていた、姉にはカイルという番がおり、幸せになっていると、なら、自分の存在なんてものはいらないのではと内心思っていた。
「シェリーは母親から虐待を受けていた。いや、それは正確じゃないな。母親の番に近づいて、母親から番に近づくなと暴力を受けたと言い換えた方が正確か」
「母親から暴力を?」
「母親の聖女は一国の姫だった。子育てどころか生活能力もない。だから、シェリーはばあやに育てられたと言っていた。そのばあやも魔王討伐戦で大怪我を負って満足に体が動かない人だったらしい。だから、シェリーは幼い頃から家事の一切を請け負っていた」
ルークにとって、シェリーはいつもにこにこと笑っている姉だった。その姉の過去というものがここまで酷いものだと思いもよらなかったのだ。
「こんなこと、シェリーは絶対に君には話さないだろう?」
「父さんは·····父さんが姉さんを助けた?」
それは母親の暴力からシェリーを助けたのかという意味なのだろう。
「それはどうだろうか」
カイルはそれに対して、答えを持ち合わせてはいない。
「え?でも····だからこそ、姉さんは父さんと暮らしているんじゃ」
ルークは血も繋がっておらず、シェリーとその母親を犯罪まがいに攫ったオリバーだが、シェリーをその母親の暴力から守ったために、シェリーとオリバーは家族として暮らしているのだと考えたのだ。
「はっきり言えば」
カイルは己の気持ちを言葉にする。
「はっきりと言えば、ルーク。俺は君に殺したいほどの憤りを感じている」
それはそうだろう。己の番いであるシェリーを悲しませ、絶望の淵に立たせているのだから。
「シェリーの弟だろうが関係など無い。ただ、君の首に手を掛けないのは、君に何かあればシェリーが悲しむからだ。番であるシェリーが君の事をどうでもいいと思っているのであれば、今の君は生きていなかっただろう。番とはそういう者だ」
カイルの心はこの室内そのものだ。生きる者を拒むかのような氷結の世界。
だから、カイルは言葉にしないが、オリバーはシェリーに対して手を差し伸べたことはなかったと言っているのだ。
「父さんは姉さんを助けなかった?なら、なんで一緒に暮らしているのだろう?」
「そんな事決まっている。君だ。ルーク」
ユーフィア・ナヴァルが物を作ることにこの世界で生きる意味を見出したように、シェリーは産まれたばかりの弟を育てることに生きる意味を見出した。
「俺は言ったよな。番であるシェリーが君を大切にしているから、俺は手を出さないと」
「じゃ、なぜ何も教えてはくれなかったのです。僕が大切だと言うならなぜ!」
何も教えなかった。正確には普通に暮らすのであれば知る必要性がないモノばかりだ。そもそもだ。今回、ルークの異父兄弟にあたるユウマに出会わなければ、知らなくても問題が無かったことだ。ルークの家族としての世界はルークと姉と父親で完結していた。
異父兄弟という綻びが次々とルークにとって不可解な事を呼び起こしたに過ぎない。
「では、君がラース公国の大公の甥だという事を君の友達にわざわざ言うのか?」
「え?大公の甥?」
ルークの反応があまりにもおかしいことにカイルは眉をひそめる。
「シェリーと君はラース公国に行って、大公に面会して継承権の放棄をしたと聞いたが、ミゲルロディア大公閣下に直接あったのだろう?」
この事は複数の人物が言っていたことなので、間違いはないはずだが、ルークには覚えがないのだろうか。
「ラースの魔眼を持っているんだ。その目を持っているのならラース公国と繋がりがあるのは一目瞭然だ。わざわざ言う必要もない。そして、黒を持つ人族は勇者ナオフミとその血族のみだ。なら初めから導き出される答えなんて言うまでもなく、一つしかない」
カイルは教えてくれなかったと拗ねている子供にわかりやすく言ったのだ。そんな事は教えなくても考えればわかることだと。
「シェリーは黒を持つ勇者とラース公国の姫君の聖女の娘だと。黒を持った少年は勇者の子だと。誰の目にも一目瞭然だ。現にこの国はシェリーの行動に注意を払っている」
普通は門兵に師団長を据えることはしない。しかし、第6師団長にしろ第5師団長にしろ、この西区第2層で行き来する門を担当しているのだ。
「ルーク。君は今まで見たいものだけしか見て来なかった。だから、知らない。だから、わからない。答えなんて初めから君の目の前にあったものだ」
__________
補足 1
ルーク君。普通に極寒のなか、カイルと話していますが、魔術で暖をとってます。
補足 2
ルーク君。大公の甥と聞いて驚いていますが、大きいオッサンがオネェ言葉を話ている人物と怖そうで偉そうな人物が伯父あることは理解しています。大きいオッサンが冒険者だと本人から聞いていますが、偉そうな人物からは『君の伯父だ』としか聞いていませんでした。
伯父=ラース公国の偉い人とは感じていても
伯父=大公とは思っていませんでした。
ルークが城の中をオーウィルディアに案内中に、従兄弟にあたるギルバート(兄)とグレイ(弟)を紹介されており、その間に小難しい話はミゲルロディアとシェリーの間で完結していました。
「これは本当は俺が話すべきのことじゃのは理解している。だが、シェリーは決して君には話はしないだろう」
「なぜ?」
何故と問われてもカイルにはシェリーの心は推し量れない。そのことをカイルが口にすることは間違っているため、ルークの言葉にはカイルは答えず、凍った朝食をフォークで刺し口にする。
そして、ただ事実のみを言葉にした。
「シェリーは番というものを嫌っている」
シェリーの番であるカイルから出た言葉にルークは目を丸くする。殆どこの屋敷から出ることがなかったルークでも番というものの話を耳にした事がある。皆が羨ましいだとか、幸せだとか否定的な言葉は一切出てくることはなかった。
だから、ルークは決めつけていた、姉にはカイルという番がおり、幸せになっていると、なら、自分の存在なんてものはいらないのではと内心思っていた。
「シェリーは母親から虐待を受けていた。いや、それは正確じゃないな。母親の番に近づいて、母親から番に近づくなと暴力を受けたと言い換えた方が正確か」
「母親から暴力を?」
「母親の聖女は一国の姫だった。子育てどころか生活能力もない。だから、シェリーはばあやに育てられたと言っていた。そのばあやも魔王討伐戦で大怪我を負って満足に体が動かない人だったらしい。だから、シェリーは幼い頃から家事の一切を請け負っていた」
ルークにとって、シェリーはいつもにこにこと笑っている姉だった。その姉の過去というものがここまで酷いものだと思いもよらなかったのだ。
「こんなこと、シェリーは絶対に君には話さないだろう?」
「父さんは·····父さんが姉さんを助けた?」
それは母親の暴力からシェリーを助けたのかという意味なのだろう。
「それはどうだろうか」
カイルはそれに対して、答えを持ち合わせてはいない。
「え?でも····だからこそ、姉さんは父さんと暮らしているんじゃ」
ルークは血も繋がっておらず、シェリーとその母親を犯罪まがいに攫ったオリバーだが、シェリーをその母親の暴力から守ったために、シェリーとオリバーは家族として暮らしているのだと考えたのだ。
「はっきり言えば」
カイルは己の気持ちを言葉にする。
「はっきりと言えば、ルーク。俺は君に殺したいほどの憤りを感じている」
それはそうだろう。己の番いであるシェリーを悲しませ、絶望の淵に立たせているのだから。
「シェリーの弟だろうが関係など無い。ただ、君の首に手を掛けないのは、君に何かあればシェリーが悲しむからだ。番であるシェリーが君の事をどうでもいいと思っているのであれば、今の君は生きていなかっただろう。番とはそういう者だ」
カイルの心はこの室内そのものだ。生きる者を拒むかのような氷結の世界。
だから、カイルは言葉にしないが、オリバーはシェリーに対して手を差し伸べたことはなかったと言っているのだ。
「父さんは姉さんを助けなかった?なら、なんで一緒に暮らしているのだろう?」
「そんな事決まっている。君だ。ルーク」
ユーフィア・ナヴァルが物を作ることにこの世界で生きる意味を見出したように、シェリーは産まれたばかりの弟を育てることに生きる意味を見出した。
「俺は言ったよな。番であるシェリーが君を大切にしているから、俺は手を出さないと」
「じゃ、なぜ何も教えてはくれなかったのです。僕が大切だと言うならなぜ!」
何も教えなかった。正確には普通に暮らすのであれば知る必要性がないモノばかりだ。そもそもだ。今回、ルークの異父兄弟にあたるユウマに出会わなければ、知らなくても問題が無かったことだ。ルークの家族としての世界はルークと姉と父親で完結していた。
異父兄弟という綻びが次々とルークにとって不可解な事を呼び起こしたに過ぎない。
「では、君がラース公国の大公の甥だという事を君の友達にわざわざ言うのか?」
「え?大公の甥?」
ルークの反応があまりにもおかしいことにカイルは眉をひそめる。
「シェリーと君はラース公国に行って、大公に面会して継承権の放棄をしたと聞いたが、ミゲルロディア大公閣下に直接あったのだろう?」
この事は複数の人物が言っていたことなので、間違いはないはずだが、ルークには覚えがないのだろうか。
「ラースの魔眼を持っているんだ。その目を持っているのならラース公国と繋がりがあるのは一目瞭然だ。わざわざ言う必要もない。そして、黒を持つ人族は勇者ナオフミとその血族のみだ。なら初めから導き出される答えなんて言うまでもなく、一つしかない」
カイルは教えてくれなかったと拗ねている子供にわかりやすく言ったのだ。そんな事は教えなくても考えればわかることだと。
「シェリーは黒を持つ勇者とラース公国の姫君の聖女の娘だと。黒を持った少年は勇者の子だと。誰の目にも一目瞭然だ。現にこの国はシェリーの行動に注意を払っている」
普通は門兵に師団長を据えることはしない。しかし、第6師団長にしろ第5師団長にしろ、この西区第2層で行き来する門を担当しているのだ。
「ルーク。君は今まで見たいものだけしか見て来なかった。だから、知らない。だから、わからない。答えなんて初めから君の目の前にあったものだ」
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補足 1
ルーク君。普通に極寒のなか、カイルと話していますが、魔術で暖をとってます。
補足 2
ルーク君。大公の甥と聞いて驚いていますが、大きいオッサンがオネェ言葉を話ている人物と怖そうで偉そうな人物が伯父あることは理解しています。大きいオッサンが冒険者だと本人から聞いていますが、偉そうな人物からは『君の伯父だ』としか聞いていませんでした。
伯父=ラース公国の偉い人とは感じていても
伯父=大公とは思っていませんでした。
ルークが城の中をオーウィルディアに案内中に、従兄弟にあたるギルバート(兄)とグレイ(弟)を紹介されており、その間に小難しい話はミゲルロディアとシェリーの間で完結していました。
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