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25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気
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しおりを挟む「姉さんはユーマのところに行ってしまうの?」
ルークは目に涙を溜めながらシェリーに尋ねる。シェリーはというと、ルークに言われた言葉に不快を顕わにする。
「は?なぜ?」
ルークの前では優しい姉の姿をしているシェリーだが、思わず素の口調で話してしまった。
ルークの言葉にオリバーは『ああ』と言葉を漏らしながら、シェリーと違い感情が直ぐに表に出る息子に苦笑いをうかべながら言う。
「ルーク。シェリーはナオフミのところには行くことはないので、泣くようなことはあるまい。シェリーはナオフミの事を死ぬほど嫌っているのでな」
「ナオフミ?」
ルークは心当たりのない名前に首を傾げる。そのときにぽろりと涙がこぼれ落ちた。サリーがここにいようものなら、美少女ルークちゃんの泣き顔!!と沸き立っていそうだが、シェリーはそっとルークの涙を拭う。
「そうだ。勇者ナオフミだ」
「勇者ナオフミ」
ルークはオリバーの言葉を繰り返す。その名は歴史書に名を記された人物だ。その人物が姉の父親だと改めて姉を見る。なぜ、そのような姉がここにいるのかわからないと。勇者を嫌う意味がわからない。世界を救ったと言われる勇者を。
「シェリーはルークの命をナオフミから守ったのだ。簡単にはシェリーはルークを置いての去ることはするまい」
その言葉にルークは目を瞠る。
姉が自分の命を守った?いや、そもそもなぜ自分が勇者から命を狙われているのか。
「なんで、僕は勇者に殺されそうになったの?」
知らない人物から、それも世界を救ったと言われる勇者から命を狙われるなど、ただごとではない。
「ふむ」
オリバーは息子であるルークからの最もな疑問に返す言葉を考える。別に己の行った事を恥じてのことではない。あの時は、それが一番正しいと思って行ったことだからだ。
では、オリバーがなぜ言葉にすることを戸惑っているかといえば、世界はどこまで許容するかと考えているのだ。
オリバーはふと視線を壁際に向ける。同じくシェリーも壁際に視線を向け、ため息を吐き出した。
二人の行動に家族の問題に傍観者でいようとしていたカイルが慌てシェリーの側に寄り、床に膝を付いていたシェリーを抱え、ルークの隣の空いていた椅子に座る。勿論椅子に座るのはカイルでシェリーはカイルの膝の上だ。
カイルは目にすることのできない存在に警戒感を顕わにした。
カイルの行動に何があったのかと不思議な顔をするルークにオリバーは語りだす。
「ルーク。この世には己だけの番が存在することを知っているかね?」
ルークは当たり前の事を聞かれて、オリバーに頷く。番とは己の唯一であると。
「ルークもいつか唯一に出会う事があるだろう。きっとそれは素晴らしい事で、世界が光り輝いて見えることだろう。しかし、それは世界が敵だと思う瞬間でもあった」
オリバーはビアンカと出会った瞬間のことを語っているのだろう。なぜなら、そのときには聖女と勇者が番だと皆に祝福された後だったのだ。己の番の側に番だと名乗る者がいる。それはこの世の全てを恨んだのかもしれない。
聖女は己の唯一だ。と
「俺の番は聖女ビアンカだった」
「え?聖女様は勇者様の」
番だということは有名なことだと。聞いたことがあると。ルークが思ったところで、隣にいる姉であるシェリーを見る。父親が勇者だと。ということは、姉であるシェリーは勇者と聖女の子ということになる。
「そうだ。聖女ビアンカは勇者ナオフミの番。そして、俺の番。あと一人は誰だったかね、シェリー」
「賢者ユーリウス」
「そうそう、狂人の賢者ユーリウスの三人だ。それは世界を恨みたくなるだろう?」
オリバーは淡々と語る。世界の楔から解き放たれたオリバーにとっては、今更何も感じないが、当時は本当に世界を恨むほどの闇を心の内に抱えていたのだろう。
「だから、俺はナオフミが居ない隙きを狙って、ビアンカとその娘のシェリーを攫った」
自分の父親の犯罪を聞かされたルークは思わず立ち上がり、両隣にいる父親と姉を交互に見る。言わば、犯罪者と被害者が同居しているのだ。
「ルーク。座りなさい」
シェリーに言われルークは大人しく椅子に腰を下ろす。
その姿にオリバーは苦笑いを浮かべた。いつかは話そうとは思ってはいたが、やはりオリバーのしたことに正当性などない。人からは受け入れがたい事柄だ。
「丁度、ルークが産まれるとなった時にナオフミの襲撃を受けた」
オリバーは首を覆ったシャツの第一ボタンを外し、首を顕わにする。そこには茨の紋様が首を一周するように施されていた。その茨をオリバーは触り、続きを話す。
「そこで俺はナオフミに殺された。この首をバッサリ切られて」
では、ここにいる父親はなんなのだという視線をルークは向ける。
「普通なら生まれたばかりのルークもナオフミに殺されていただろうが、シェリーはルークを死んだこととした。だから、ナオフミにルークが生きている事が知られれば、殺しに来るかもしれないから、ユーマという子供に近づくのは俺は勧めない」
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