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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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しおりを挟む「陽子さん。せめて声ぐらいかけてくれ」
そう言いながら炎王は土を払いながら、立ち上がる。シェリーは陽子と4人の姿を見て深くため息を吐き、まだ料理の途中なのにと遠い目をしている。
「だけどね!陽子さんはもう頭にき····」
突然、怒りを顕わにしていた陽子が固まってしまった。いや、頭を抱えジリジリと後退している。
「いや、ちょっと待って」
陽子は怯えたように、言葉を漏らす。
「そ、それは陽子さんが悪かったから、そんなに怒らないで欲しいよー」
陽子は誰かに怒られているようだ。
「ダメダメダメ!!ダンジョンを壊すのだけはやめて~!!わ、わかったよ。もう勝手なことは陽子さんしないよ」
そう言いながら陽子は空間に手を突っ込んで引っ張り込む。と、同時に壁側まで瞬間移動をしたように消えて現れた。陽子が居た場所には陽子の方を睨みつけているカイルが立っていた。
「今度、シェリーを勝手に連れ出したら、ダンジョンの地上から30階層までぶち抜くからな」
カイルのその言葉に陽子は張り子の赤べこのようにコクコクと頷いた。陽子にしてみればとんでもない脅しだ。赤猿でさえ7階層を縦に破壊したのだ。竜人であればいともたやすく30階層まで貫通させてしまうだろう。
「で、シェリーを無理やりここに連れてきた理由は何だ」
4人に囲まれてしまっているシェリーを見ながらカイルは陽子に問う。そのカイルの言葉に対し陽子は姿勢をシャキンと正して答えた。
「ステータスのシークレットの見方を彼らに教えて欲しかっただけです!陽子さんの見てるステータスはちょっと違うからね」
「普通にステータスの裏をみればいいだけだろ」
陽子の言葉をカイルはぶった切る。しかし、陽子は首を横に振った。
「それが彼らにはわからなかったんだよ」
「陽子さん。それぐらいなら、いつもフラフラしている炎王でもできます。私は鍋に火をかけているので戻っていいですか?」
陽子の頼み事にシェリーは炎王に押し付けようとしている。そして、シェリーの陽子を見る目は腐った魚の目をしていた。
「うっ」
そんな目を向けられた陽子は思わず一歩下がろうとしたが、背後が壁のためこれ以上下がれない。
「佐々木さん、俺は暇人じゃない。これでも一国を治めているんだ。陽子さん、色々やりっ放しでこっちに来たから、もう戻るからな」
炎王は疲れた感じでシェリーに言い。壁に張り付いている陽子を一瞥して、来るように言われた用件は終わったので帰る意思を示した。
それには陽子も慌てて、炎王の前に瞬時に現れ、引き止める。
「待って!待って!このまま帰られると陽子さんが困っちゃうよ。話が通じない事が多いんだよ。絶対、翻訳機能が機能していないと思うんだよ」
いや、恐らく陽子の求めているものを彼らが理解できていないだけだろう。
「大丈夫だ」
そう言って炎王は魔力を練り上げて転移をする準備をしているところに、陽子が炎王の腕を掴み転移を阻止する。
「大丈夫じゃないよー。せめて、ステータスの説明をして···ササっち!戻ろうとしないで!」
陽子が炎王を引き止めている間に、シェリーは魔石を地面に落として転移陣を敷いていた。
「夕食を作っている途中なので」
シェリーはその言葉と共に陽子の前から消えていった。勿論シェリーの転移陣にはちゃっかりと5人のツガイたちが乗り込んでいた。
「なぜ、君たちも戻って来ているんだ」
シェリーの屋敷のリビングに転移で戻ってきたカイルの第一声がこれだった。
「シェリーのご飯が食べたい。カイルばかり食べてずるい」
オルクスの反論だ。その横でグレイも頷いている。因みにシェリーはさっさとキッチンにこもってしまった。
「昼過ぎにシェリーが作ったものをヨーコさんに渡していたが?」
「あれだけじゃ全然足りない」
シェリーが作った重箱を陽子はどこかの空間に仕舞ったようだったが、ちゃんと彼らの口には入ったようだ。
「じゃ、食べたら戻れ」
4人に冷たい視線を向かながらカイルは言う。しかし、4人は不服そうな顔をしてる。それはそうだろう。己の番であるシェリーをカイルが独り占めをしてるのだから。
「ヨーコさんの及第点は悪魔に勝てるぐらいに力をつけることだ。今の君たちは先程のモノに勝てるのか?」
「なぜ、カイルが先程あった事を知っている」
リオンがカイルを睨みつけるような鋭い視線を向かながら問う。普通ならダンジョンにいた彼らの行動はカイルにはわからないはずなのだから。
「それはヨーコさんが仕組んで、シェリーと炎王とオリバーの力を組み合わせることで再現したものだからだ。あれは勇者ナオフミと瞋恚の悪魔の戦いだそうだ」
カイルの言葉に3人は息を飲む。あれが作られたものなのかと。ただグレイだけはそういう事だったのかと、一人納得していた。
「ですが、幻影というにはあまりにも、その場にいたような感覚でした。あのように現実的に見せる幻影の魔術も魔導術も存在しません」
スーウェンは術で再現するなどありえないと首を横に振った。
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