上 下
420 / 774
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

408

しおりを挟む

「陽子さん。せめて声ぐらいかけてくれ」

 そう言いながら炎王は土を払いながら、立ち上がる。シェリーは陽子と4人の姿を見て深くため息を吐き、まだ料理の途中なのにと遠い目をしている。

「だけどね!陽子さんはもう頭にき····」

 突然、怒りを顕わにしていた陽子が固まってしまった。いや、頭を抱えジリジリと後退している。

「いや、ちょっと待って」

 陽子は怯えたように、言葉を漏らす。

「そ、それは陽子さんが悪かったから、そんなに怒らないで欲しいよー」

 陽子は誰かに怒られているようだ。

「ダメダメダメ!!ダンジョンを壊すのだけはやめて~!!わ、わかったよ。もう勝手なことは陽子さんしないよ」

 そう言いながら陽子は空間に手を突っ込んで引っ張り込む。と、同時に壁側まで瞬間移動をしたように消えて現れた。陽子が居た場所には陽子の方を睨みつけているカイルが立っていた。

「今度、シェリーを勝手に連れ出したら、ダンジョンの地上から30階層までぶち抜くからな」

 カイルのその言葉に陽子は張り子の赤べこのようにコクコクと頷いた。陽子にしてみればとんでもない脅しだ。赤猿キングコングでさえ7階層を縦に破壊したのだ。竜人カイルであればいともたやすく30階層まで貫通させてしまうだろう。

「で、シェリーを無理やりここに連れてきた理由は何だ」

 4人に囲まれてしまっているシェリーを見ながらカイルは陽子に問う。そのカイルの言葉に対し陽子は姿勢をシャキンと正して答えた。

「ステータスのシークレットの見方を彼らに教えて欲しかっただけです!陽子さんの見てるステータスはちょっと違うからね」

「普通にステータスの裏をみればいいだけだろ」

 陽子の言葉をカイルはぶった切る。しかし、陽子は首を横に振った。

「それが彼らにはわからなかったんだよ」

「陽子さん。それぐらいなら、いつもフラフラしている炎王でもできます。私は鍋に火をかけているので戻っていいですか?」

 陽子の頼み事にシェリーは炎王に押し付けようとしている。そして、シェリーの陽子を見る目は腐った魚の目をしていた。

「うっ」

 そんな目を向けられた陽子は思わず一歩下がろうとしたが、背後が壁のためこれ以上下がれない。

「佐々木さん、俺は暇人じゃない。これでも一国を治めているんだ。陽子さん、色々やりっ放しでこっちに来たから、もう戻るからな」

 炎王は疲れた感じでシェリーに言い。壁に張り付いている陽子を一瞥して、来るように言われた用件は終わったので帰る意思を示した。
 それには陽子も慌てて、炎王の前に瞬時に現れ、引き止める。

「待って!待って!このまま帰られると陽子さんが困っちゃうよ。話が通じない事が多いんだよ。絶対、翻訳機能が機能していないと思うんだよ」

 いや、恐らく陽子の求めているものを彼らが理解できていないだけだろう。

「大丈夫だ」

 そう言って炎王は魔力を練り上げて転移をする準備をしているところに、陽子が炎王の腕を掴み転移を阻止する。

「大丈夫じゃないよー。せめて、ステータスの説明をして···ササっち!戻ろうとしないで!」

 陽子が炎王を引き止めている間に、シェリーは魔石を地面に落として転移陣を敷いていた。

「夕食を作っている途中なので」

 シェリーはその言葉と共に陽子の前から消えていった。勿論シェリーの転移陣にはちゃっかりと5人のツガイたちが乗り込んでいた。



「なぜ、君たちも戻って来ているんだ」

 シェリーの屋敷のリビングに転移で戻ってきたカイルの第一声がこれだった。

「シェリーのご飯が食べたい。カイルばかり食べてずるい」

 オルクスの反論だ。その横でグレイも頷いている。因みにシェリーはさっさとキッチンにこもってしまった。

「昼過ぎにシェリーが作ったものをヨーコさんに渡していたが?」

「あれだけじゃ全然足りない」

 シェリーが作った重箱を陽子はどこかの空間に仕舞ったようだったが、ちゃんと彼らの口には入ったようだ。

「じゃ、食べたら戻れ」

 4人に冷たい視線を向かながらカイルは言う。しかし、4人は不服そうな顔をしてる。それはそうだろう。己の番であるシェリーをカイルが独り占めをしてるのだから。

「ヨーコさんの及第点は悪魔に勝てるぐらいに力をつけることだ。今の君たちは先程のモノに勝てるのか?」

「なぜ、カイルが先程あった事を知っている」

 リオンがカイルを睨みつけるような鋭い視線を向かながら問う。普通ならダンジョンにいた彼らの行動はカイルにはわからないはずなのだから。

「それはヨーコさんが仕組んで、シェリーと炎王とオリバーの力を組み合わせることで再現したものだからだ。あれは勇者ナオフミと瞋恚しんいの悪魔の戦いだそうだ」

 カイルの言葉に3人は息を飲む。あれが作られたものなのかと。ただグレイだけはそういう事だったのかと、一人納得していた。

「ですが、幻影というにはあまりにも、その場にいたような感覚でした。あのように現実的に見せる幻影の魔術も魔導術も存在しません」

 スーウェンは術で再現するなどありえないと首を横に振った。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。 「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。 しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。 これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。

処理中です...