上 下
415 / 774
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

403

しおりを挟む

「なに?なに?方法って!」

 陽子は前のめりになってシェリーに聞いてくる。

「ただ、問題がありまして、私にはその次元の悪魔に対する嫌悪感というものがわかりません。あの中にある核は気持ち悪いとは思いましたが、次元の悪魔自身に何か感情を持つことはありませんでした」

「え?そうなの?」
「えー!!陽子さん悪魔を見た時ガクガクブルブルだったよ?」

 今まで口を挟まずに二人の会話を聞いていたカイルと陽子の驚きの声が重なる。

「じゃ、それはいいから、どういう方法?」

「一つは私のスキル『夢の残像』。ただ、これは情景を再現するだけです。ですが、第3者の介入により神らしき物体を威圧もそのまま再現できました」

 神らしき物体。勿論それはシェリー曰く謎の生命体であり、この世界では白き神と言われる存在だ。

「もう一つ、炎王の魔術『空中楼閣の幻夢』。これも情景を再現するものです」

「ん?ササっち、同じ術を2つ使うって事?」

「確証はないのですが、炎王は完全体の悪魔と戦ったことがあると言っていましたので、その情景は再現できると思います。その魔術の干渉を受ければ私のスキルで嫌悪感でしたか?再現できるのではと考えたのですが?」

 2つは同じようなスキルと魔術だ。互いが互いに干渉しあえば、相乗効果が生まれ、より現実味を帯びた情景ができるのではとシェリーは考えたのだ。しかし、考えただけなので、正に絵に描いた餅。現実味のない話だ。

「できるかわからないけど、やってみようってことだね!オーケー!じゃ、緊急連絡『エンエン!至急陽子さんのところに転移をお願いします!』」

 陽子は何らかの方法で炎王に連絡をとっているようだ。

「『····えー?今すぐだよ?』――――『急ぎ、急ぎ』」

 どうやら、連絡を取っている炎王は渋っているようだ。それはそうだろう。いきなり連絡をしてきて、来いと言われても『はい、そうですか』とはならない。

「『え?何の用って?陽子さんがすっごく困っているから、エンエンの力が必要なんだよ』····来てくれるって!ササっち!」

 そう言って陽子は立ち上がって、リビングの周りに何も物が置いていない場所まで移動する。
 しかし、陽子のあの言い方だと、とても緊急性のある用だと勘違いしてしまう言い方だったのではないのだろうか。
 この件に関して緊急性があるかと問われれば全くない。シェリーは炎王が用件の内容を聞いて、きっと陽子は怒られるのだろうと思っていると、陽子の側に転移の陣が展開された。

「あっ」

 思わずシェリーの声が漏れる。それは駄目だと。
 その時、転移陣が歪みキャンセリングされたように、たち消えようとしたところで、空間が割れ黒髪の人物が転がり出てきた。

「あっぶねぇー。あ?ってここ佐々木さんの家じゃねぇーか!」

 転がり出ていた人物が周りを見渡し、シェリーの姿を捉え、文句を言っている。

「およ?エンエン。何かあった?」

 空間を割るように出てきた人物は勿論、先程陽子と連絡を取っていた炎王である。その炎王の姿に陽子は不思議そうな顔をして尋ねた。

「陽子さん!この家は結界が張ってあるから、転移は出来ないと前に言っていたよな!さっき本当に死ぬかと思ったぞ!」

 この屋敷の全体にオリバーが作った結界が張り巡らせてある。これはオリバーが許可を出していない者の侵入を拒むものだ。その結界を炎王は転移で侵入して来ようとしたところで、転移陣ごと跳ね返されそうになり、力技で結界を通り抜け滑り込んできたのだ。

 炎王に文句を言われた陽子はあっと声を漏らし軽い感じで謝る。

「ごめん。ごめん。忘れてたよ」

 全く謝っているように聞こえない。

「で。用件はなんだ?くだらないことだったら怒るぞ」

「炎王。お茶を入れるので座ってください」

 イライラした感じで言葉を放つ炎王にシェリーは座るように促し、カイルの膝の上から立ち上がり、キッチンに向かって行った。


リビング side

 炎王はふと周りを見渡して首を傾げる。そして、一人掛けのソファに腰を下ろしながら、カイルに尋ねた。

「なぁ、リオンはどこに行ったんだ?」

 最もな質問だ。番であるシェリーの側に己の血族であるリオンの姿が見えないとすれば、何かあったのではと思うのは当然のこと。
 その炎王の質問に対し、カイルはため息を吐きながら答える。

「はぁ、彼女のダンジョンで鍛えてもらっているが、あまり良くないらしい」

 カイルの言葉に『ああ』と声を漏らし、陽子を見る炎王。

「もしかして、その事で呼ばれた?」

「そうだよ。陽子さん、困っているんだよ」

「で、具体的に何が駄目なんだ?」

 炎王はこのようなことになることを、予想していたのだろう。己が鍛えたリオンをかばう言葉もなく陽子の行動に理解を示したのだった。
 
 
___________________

補足
 炎王と陽子の連絡は念話で行われています。
 そして、炎王は場所ではなく、人の魔力を目印にして転移をしています。外交官の青鳥族のメリナの横に転移陣が現れたり、今回陽子の隣に転移陣が現れたのは、その人物を目印にしていたからです。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。 「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。 しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。 これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。

異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!

杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!! ※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。 ※タイトル変更しました。3/31

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...