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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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無事に第一層門を突破したシェリーは次なる難関を前にし、軍の施設の一つの建物の扉に備え付けられているドアノッカーを叩く。
「どのようなご用件でしょうか?」
ドアノッカーの側に付けられたスライド式の覗き穴が開けられ、中から声をかけられた。
「師団長さんと面会をお願いします」
ここの第3師団はいつもながら警戒心というものが、ありありとみられる。度々シェリーが連行された第6師団なんて、扉ののぞき穴を使っているところなど、みたことなんてないというのに。
「お約束はおありで?」
「無いですけど、師団長さんに『銀糸の妖精』の写真で取り引きをしませんか?と、お尋ねしてください」
「·····ギンシ?ヨウセイ?····尋ねて参りますので少々お待ち下さい」
中の人物はきっと意味がわかっていないのだろう。スライド式の覗き穴を閉じて、去っていく足音が中から聞こえてくる。
「シェリーは第3師団長と知り合い?」
カイルが不機嫌そうに尋ねる。確かにただの写真で取引きをしようというのは、それなりにお互い仲がいい関係ではないと成り立たない。
しかし、シェリーは否定をする。
「いいえ。広報のサリーさんの仕事兼趣味につき合わされただけで、顔見知り程度です」
サリーの仕事兼趣味とは、広報としての仕事とイケメン観察と写真集めである。
だから、第3師団長と顔見知り。しかしそれだけで、このような交渉が成り立つのだろうか。
「『銀糸の妖精』ってさっきシェリーが変わった魔道写真機を向けていたギルドの職員のことだよね?その人が第3師団長と知り合い?」
「いいえ。全く」
「····」
ギルド職員であるエリサも知り合いではない。だが、シェリーはいつもはしない行動をとり、エリサに写真を撮っていいかと言っていたはずだ。
そして、エリサの様子から一度や二度というより、それなりに写真を撮ることを頼んでいる様子ではあった。
カイルの不機嫌さが徐々に悪化していく。ただでさえ今の状態のシェリーを他人に会わせたくないというのに、写真で交渉をと言いながらも、シェリーと第3師団長との仲が親しいものではないのかと、悪い方へ考えがいってしまうのだ。
隣の不機嫌さにシェリーはため息を吐く。本当にどうでもいい事を気にするなんてと。
しかし、ここでユーフィアのところと同じように凍りつかされてしまっては、交渉もなにも出来なくなるので、シェリーはカイルに少し屈むようにと仕草で現す。
屈んだカイルに内緒話をするように手を添えて小声でシェリーは言った。
「実は第3師団長さんとエリサさんはツガイなのですが、試しに師団長さんにエリサさんの写真をみせてみると、とても面白かったので、第3師団長さんへの頼み事のときにはエリサさんの写真を交渉材料にすることにしているのです」
面白い。シェリーはそう言った。シェリーの目で見ると誰と誰が番だとわかってしまう。そこで、試してみたのだ。本人同士が会わずに写真という姿を写したもので、番かどうかわかってしまうのかと。
そして、シェリーとしての評価が面白いだったのだ。
しかし、そこでカイルが疑問に思ったことを口にする。
「こんなに近いと流石にわかるよね」
ここは第一層でエリサがいる場所は西区の第三層だ。離れているとはいえ同じ王都内だ。自分の番が王都内にいることぐらいわかるだろうと。
「さぁ?私にはわからないことなので、そのような事を私に聞かれても答えられません」
シェリーのツガイ感知能力は皆無だ。隣にいても相手をツガイだとわからないシェリーにとっては、理解ができない感覚である。
そのような事を話していると、固く閉ざされていた第三師団の詰め所の入り口の扉がそっと開いた。そこから手だけが出てきて、手招きをするような動作でシェリー達に中に入るように促している。
「面白いでしょ?」
そう言ってシェリーは足を進め、扉の方に向かっていく。どうやら、師団長自身が出迎えに出てきたようだ。
扉の中に入ると、シェリーとカイルに手招きをした人物が待ち構えていた。その人物は薄暗い廊下に立っており、人差し指を口の前に持っていき、喋らないようにと促す。そして、そのまま背を向けて歩き出した。
シェリーは黙ってその後を付いていき、一つの部屋に通された。そこは師団長の執務室のようだ。部屋の奥には書類が整然と積み上げられた机に、手前には応接用の長椅子とローテーブルが置かれていた。
シェリーとカイルが中に入ると、扉のところに控えていた男性が音を立てないようにそっと扉を閉めて、内鍵を閉めた。
そして、足早に長椅子の所に行き、そわそわしながら腰を降ろした。
「ま、まぁ、掛けてくれ」
そう言って軍服を着ている男性が言う。ブルーグレーの髪に紫の瞳が印象的で、見た目も20代半ばの色気がある人族の男性だが、行動があまりにも挙動不審だ。
その挙動不審の人物の前にシェリーとカイルは腰をおろす。
「で、その····なんだ。あ、いや」
言動もおかしい人物にシェリーは一枚の写真を見せる。すると、すぐさま手を出そうとする怪しい人物にシェリーは待ったをかける。
「師団長さん。まだです。まだ、何も話してはないですよ。座ってください」
その言葉に腰を浮かせていた師団長と呼ばれた人物は再び腰を降ろした。
師団長という立場の人物が、部外者と言っていいシェリーの言葉に従ったのだ。これはある意味恐ろしいことではないのだろうか。
「どのようなご用件でしょうか?」
ドアノッカーの側に付けられたスライド式の覗き穴が開けられ、中から声をかけられた。
「師団長さんと面会をお願いします」
ここの第3師団はいつもながら警戒心というものが、ありありとみられる。度々シェリーが連行された第6師団なんて、扉ののぞき穴を使っているところなど、みたことなんてないというのに。
「お約束はおありで?」
「無いですけど、師団長さんに『銀糸の妖精』の写真で取り引きをしませんか?と、お尋ねしてください」
「·····ギンシ?ヨウセイ?····尋ねて参りますので少々お待ち下さい」
中の人物はきっと意味がわかっていないのだろう。スライド式の覗き穴を閉じて、去っていく足音が中から聞こえてくる。
「シェリーは第3師団長と知り合い?」
カイルが不機嫌そうに尋ねる。確かにただの写真で取引きをしようというのは、それなりにお互い仲がいい関係ではないと成り立たない。
しかし、シェリーは否定をする。
「いいえ。広報のサリーさんの仕事兼趣味につき合わされただけで、顔見知り程度です」
サリーの仕事兼趣味とは、広報としての仕事とイケメン観察と写真集めである。
だから、第3師団長と顔見知り。しかしそれだけで、このような交渉が成り立つのだろうか。
「『銀糸の妖精』ってさっきシェリーが変わった魔道写真機を向けていたギルドの職員のことだよね?その人が第3師団長と知り合い?」
「いいえ。全く」
「····」
ギルド職員であるエリサも知り合いではない。だが、シェリーはいつもはしない行動をとり、エリサに写真を撮っていいかと言っていたはずだ。
そして、エリサの様子から一度や二度というより、それなりに写真を撮ることを頼んでいる様子ではあった。
カイルの不機嫌さが徐々に悪化していく。ただでさえ今の状態のシェリーを他人に会わせたくないというのに、写真で交渉をと言いながらも、シェリーと第3師団長との仲が親しいものではないのかと、悪い方へ考えがいってしまうのだ。
隣の不機嫌さにシェリーはため息を吐く。本当にどうでもいい事を気にするなんてと。
しかし、ここでユーフィアのところと同じように凍りつかされてしまっては、交渉もなにも出来なくなるので、シェリーはカイルに少し屈むようにと仕草で現す。
屈んだカイルに内緒話をするように手を添えて小声でシェリーは言った。
「実は第3師団長さんとエリサさんはツガイなのですが、試しに師団長さんにエリサさんの写真をみせてみると、とても面白かったので、第3師団長さんへの頼み事のときにはエリサさんの写真を交渉材料にすることにしているのです」
面白い。シェリーはそう言った。シェリーの目で見ると誰と誰が番だとわかってしまう。そこで、試してみたのだ。本人同士が会わずに写真という姿を写したもので、番かどうかわかってしまうのかと。
そして、シェリーとしての評価が面白いだったのだ。
しかし、そこでカイルが疑問に思ったことを口にする。
「こんなに近いと流石にわかるよね」
ここは第一層でエリサがいる場所は西区の第三層だ。離れているとはいえ同じ王都内だ。自分の番が王都内にいることぐらいわかるだろうと。
「さぁ?私にはわからないことなので、そのような事を私に聞かれても答えられません」
シェリーのツガイ感知能力は皆無だ。隣にいても相手をツガイだとわからないシェリーにとっては、理解ができない感覚である。
そのような事を話していると、固く閉ざされていた第三師団の詰め所の入り口の扉がそっと開いた。そこから手だけが出てきて、手招きをするような動作でシェリー達に中に入るように促している。
「面白いでしょ?」
そう言ってシェリーは足を進め、扉の方に向かっていく。どうやら、師団長自身が出迎えに出てきたようだ。
扉の中に入ると、シェリーとカイルに手招きをした人物が待ち構えていた。その人物は薄暗い廊下に立っており、人差し指を口の前に持っていき、喋らないようにと促す。そして、そのまま背を向けて歩き出した。
シェリーは黙ってその後を付いていき、一つの部屋に通された。そこは師団長の執務室のようだ。部屋の奥には書類が整然と積み上げられた机に、手前には応接用の長椅子とローテーブルが置かれていた。
シェリーとカイルが中に入ると、扉のところに控えていた男性が音を立てないようにそっと扉を閉めて、内鍵を閉めた。
そして、足早に長椅子の所に行き、そわそわしながら腰を降ろした。
「ま、まぁ、掛けてくれ」
そう言って軍服を着ている男性が言う。ブルーグレーの髪に紫の瞳が印象的で、見た目も20代半ばの色気がある人族の男性だが、行動があまりにも挙動不審だ。
その挙動不審の人物の前にシェリーとカイルは腰をおろす。
「で、その····なんだ。あ、いや」
言動もおかしい人物にシェリーは一枚の写真を見せる。すると、すぐさま手を出そうとする怪しい人物にシェリーは待ったをかける。
「師団長さん。まだです。まだ、何も話してはないですよ。座ってください」
その言葉に腰を浮かせていた師団長と呼ばれた人物は再び腰を降ろした。
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