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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

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 シェリーはカイルを連れて冒険者ギルドまで来ていた。ここに来るまでカイルはとてもご機嫌だった。珍しくシェリーから昼食を食べに行こうと誘われたからだ。そんなことはめったに無い。というか無い。
 シェリーはツガイというモノに無関心であり、どこかに行こうとは誘うことはなかったのだ。それが、カイルをクストから引き剥がすためとはいえ、番であるシェリーからの誘いだ。それはもう有頂天になるだろう。

「なんだ?気味が悪いぐらいに機嫌がいいな」

 相変わらず特殊依頼の受付けに座って、タバコを吹かしているニールからの言葉だ。そして、その隣にはオリビアがちょこんと座っている。

「シェリーから昼食を食べに行こうって誘われたからね」

「誘われたって?シェリーはここしか食べに来ないだろう?いつもと変わらないだろうに」

 ニコニコと答えるカイルに対し、仏頂面で紫煙を吐きながら何を言っているんだと言わんばかりのニール。
 そう、シェリーは外食と言っても、ギルド併設の食堂にしか食べに来ない。

「で、報告は?」

 ニールは今回の依頼の用紙を二人に見せながら、聞く。転移でこの王都に戻ってきたので、モルディールから戻って来なかった冒険者たちはまだ帰ってはきていない。

「問題なくモルディールのギルドマスターと連絡を取れました」

 そう言ってシェリーは席を立とうとする。しかし、ニールはその言葉では納得しない。当たり前だ。

「シェリー。報告を」

 だから、シェリーは一枚の紙を取り出し、一言書いてニールに差し出す。

『狐には話をしている』

 狐。勿論、九尾の狐であるイーリスクロムのことだ。それを見たニールの眉間にシワが寄る。そして、ため息を吐きながら背もたれに背を預け、天井を見上げる。

 そして、なにかに視線を向けたあとに、前を向いた。

「問題ない。ここには職員しか居ない。そもそも、この時間に暇そうにうろうろしているヤツには仕事を与えている。話せ」

 恐らくニールはシェリーが何かを警戒して言わないでいるのだろうと気が付き、周りにいる人を確認したのだろう。

「帝国がモルディールの住人を使って実験を行っていました。奴隷の制御石を劣化させたものを使い、人々を生きた屍として操る実験です。恐らく目指すところはラースの魔眼並の制御力でしょうか?」

 シェリーの報告に目を見張ったニールは問題は解決しているだろうが、念の為に確認をする。

「モルディールの住人は?」

「全て解放しています。この件は元々は国の後始末ですよね。そのあとの事は国に任せています。しかし、ニールさん。今後はルーちゃんを使わないでもらえますか?ルーちゃんはルーちゃんの道を歩いてほしいのです」

 やはりバレてしまったかと、苦笑いを浮かべるニール。しかし、シェリーにバレることも見越していたニールだ。シェリーに平然として答える。

「ルー坊の為になるように軍に話をつけてやったんだぞ。普通なら親が軍部にいるとかじゃない限り、軍部に顔つなぎなんてできないぞ。それも一週間の体験プラン付きでだ。いたれりつくせりだ」

 それを言われてしまえばシェリーは具の音も出ない。シェリーも軍に知っている者は多数いるが、問題を起こすシェリーとしての顔見知りだ。ルークの為になる繋がりではないのだ。

「ですから、私を使う為にルーちゃんを利用しないでくださいと言っているのです!」

 そう言って、シェリーは食堂の方に向かって行った。




「ニール」

 その場に残っていたカイルがニールに問いかける。

「第0師団って知っているか?」

 第0師団。その言葉にニールはニヤリと笑った。

「今更、その名を出して来るヤツはいないと思ったが。帝国の脅威に対応する師団。通称、黒の師団」

「知っているのか」

「ああ、俺の父も祖父もその師団にいたからな。俺が騎士団に入った頃には存在はしていなかったが」

 ニールは苦笑いのまま答える。恐らく己も父や祖父と同じように第0師団に配属されると思っていたが、蓋を開けてみれば、その師団は綺麗サッパリと存在していなかった。まるで、元から存在していなかったように。

「で、今更なんでその名が出てくる?まさか再編しようというのか?」

 ニールの疑問にカイルは頷く。

「ぷっ。くっはははははは。今更。今更、再編するのか?黒の師団をか?今更?俺が居たときには無かったくせにか?力が全てだという奴らにやらすのか?黒の師団を?」

 ニールは笑う。カイルに向かって笑う。いや、人族は力が弱いと馬鹿にしてきた者達に向かって笑っているのだろう。

 そして、周りにいたギルドの職員が驚きの目でニールを見る。いつも仏頂面で仕事をし、番が見つかったというのに、いつもと変わらず鬼のように仕事に没頭するニールが笑っていると。

「いや、シェリーに人選を任されている」

 カイルの言葉にニールは笑うのを止め、真剣な目で目の前のカイルを見た。

「おい、第0師団を作れって言ったやつは誰だ。今の王は存在すら知らないだろう。軍部の上層部は力が全てだというやつがほとんどだ。いったい誰が言い出した」

「雷牙の黒狼と呼ばれていたらしい」

「ぷっ。はははははははっ。カイル、その冗談はきついな。英雄の中の英雄の名だろそれ。『雷牙の黒狼』は討伐戦で死んだ。その名を語った馬鹿はどこのどいつだ!」

 ニールにとってもクロードは英雄らしい。今ある師団の基礎を作り、第一線を降りるまで統括師団長に座していた人物だ。尊敬に値する人物なのだろう。

「クロード・ナヴァル。彼も怒っていたね。対帝国専用の師団が存在しないって。それで、師団をまかせられる人材を知らないか?あまりシェリーの手を煩わせたくないからね」

 人族であり、軍部に繋がりをもつニールなら師団を任せられる人を知っているのではとカイルは考えていたのだ。番であるシェリーと関わりを持つ人は少ない方がいいと。 


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