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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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「また、問題児ですか」
ルジオーネはため息を吐きながらシェリーを見る。
まぁ。死んだはずの己の祖を目の前に存在させているのだ。歴史に名を刻んだ人物を存在させることぐらい出来るのかもしれない。
「おい、できたぞ」
クロードは書き上げた紙をシェリーに差し出した。この国の王であり、師団を采配する権力をもつ、そこでむせているイーリスクロムではなく、シェリーに差し出したのだ。
「クロードさん。なぜ、日本語で書いているのですか?」
紙には箇条書きで第0師団の内容が日本語で書かれていたのだ。この世界の言葉ではなく。日本語でだ。
「ん?そんなものこの色を見ればわかるだろう?まともな教育が受けれると思っているのか?」
クロードは己の黒い髪を指し示した。お前もわかっているだろう?と、言わんばかりにだ。
黒狼とは呼ばれてはいるが、クストやルジオーネを見てわかるようにクロードは青狼獣人なのだ。青狼獣人の中で黒を持って生まれた狼獣人。
カウサ神教国の悪しき習慣が根付いしまった結果だ。彼もまたその悪しき習慣に苦しめられたのだろう。
シェリーは日本語で書かれた紙を受け取り、別の紙にこの世界の言葉で書き写す。
「嬢ちゃんはまともな教育を受けられたんだな」
この世界の言葉を書いているシェリーを見て、クロードは良かったと笑う。しかし、シェリーは無表情のまま答えた。
「この世界の常識というものは残念ながら持ち合わせていません。文字は幼い頃にばあやに教えてもらったから書けるだけです」
室内でもフードを深く被り、そのフードから溢れるのは黒い色をした髪。
「なんだ。何も変わらないのか。まぁ、そうだよな。変わらないよな。なぁ。ルジオーネ。青狼族は何人生き残った?あの討伐戦で何人が生き残った?」
クロードは突然、己の一族の人数の確認をした。今の話から何が関係するのかとルジオーネは首を傾げながら答える。
「討伐戦で生き残った者は自分とクストの二人です。残りは戦に赴かなかった子供だった者が5人。クストの子が2人。青狼族は9人しか存在しません」
悔しそうに答えるルジオーネに対して、答えを聞いたクロードは笑った。楽しそうに笑った。
「ハハハハ。そうか。そうか。俺を苦しめた青狼共を戦に引き連れていった甲斐はあったということか」
楽しそうに、青狼族を死地に追い詰めたと言うクロードを見てルジオーネは目を見開く。
「な、なぜ···?」
ルジオーネはなぜそのような事を言うのかと問いたいのだろう。
「なぜ?なぜか?それは決まっているだろう?復讐だ!歩けないか歩けるかぐらいの俺をナヴァル家から一族から追い出し、ギランの金狼のところで名を上げれば、手の平を返したように当主に迎えるだ?テメェら頭湧いてんのか?って聞き直したほどだ」
歩けるか歩けない頃というと、一歳になるかならないかという歳だ普通なら覚えてはいないだろう。
クロードは追い出されたと言っているが、捨てられたと言った方がいい状態だったのではないのだろうか。
しかし、彼は転生者だった。幼い頃から大人の精神を持ち、生き抜き、恐らくその時の金狼の族長にでも拾われたのだろう。
あの国は英雄信仰がある。英雄アマツの側に居た黒豹獣人しかり、黒龍炎王しかり。彼らには黒狼のクロードを受け入れる器があったのだ。
もし、そのままギラン共和国にクロードがいれば、きっと彼は一族の者に復讐をしようとは思わなかったのではないのだろうか。
「私の父も母もクストの母も父も貴方の復讐のために死んだというのですか?」
「ああ、そうだ」
ルジオーネの喘ぐように言葉にクロードは肯定を示した。
「俺は獣人として戦いの中で死なせてやっただけ、優しいぞ。ローリリアも戦って死ねる事を喜んでいたしな。ただ、一族を引き連れて行っただけだ。
強ければ生き残る。弱ければ死ぬ。復讐というには優しい優しい。可愛い子供達を峡谷に突き落とすようなものだ。
幼い俺を海に投げ捨てるよりも優しい選択死だ」
優しい選択死。クロードはそう言うが、10年にも及ぶ討伐戦で生き抜く事ができた者はホンの一握りの存在だけだ。
「はぁ。しかし今思えば、彼も転生者だったのだろう?あの龍の旦那も」
そう言って、クロードは一振りの刀を空間から取り出す。
「考えればわかることなのに、余裕がなかったんだろうな。龍の旦那は俺の事がわかっていてこの刀を渡したんだろうな」
「炎王は『紅玉の君だとわかったからな。戦地で命を落とす彼に何かをしてやりたかった』と言っていました」
シェリーの言葉にクロードは目を見開く。
「なんだ。アレを見たのか。アリスの予言のアレを。はぁ、俺ってどれだけ余裕なかったんだろうな」
そう言いながらクロードは刀を脇に置き、お菓子を口にしていた。
ナオフミが言っていた。シェリーが、佐々木がこの世界にいると知ったから世界を壊すのを止めたと。
炎王は死にゆくクロードに少しでも力になるようにと刀を渡し、陽子が孤独にならぬように理由をつけて取引に行く。
陽子も何かと理由をつけてシェリーの所に遊びに行く。
クロードもまた、炎王と繋がりを得られることができたのなら、違った未来もあったのかもしれない。炎王が抗ったように、アリスの未来視から外れる未来を得られることもできたかもしれない。
ルジオーネはため息を吐きながらシェリーを見る。
まぁ。死んだはずの己の祖を目の前に存在させているのだ。歴史に名を刻んだ人物を存在させることぐらい出来るのかもしれない。
「おい、できたぞ」
クロードは書き上げた紙をシェリーに差し出した。この国の王であり、師団を采配する権力をもつ、そこでむせているイーリスクロムではなく、シェリーに差し出したのだ。
「クロードさん。なぜ、日本語で書いているのですか?」
紙には箇条書きで第0師団の内容が日本語で書かれていたのだ。この世界の言葉ではなく。日本語でだ。
「ん?そんなものこの色を見ればわかるだろう?まともな教育が受けれると思っているのか?」
クロードは己の黒い髪を指し示した。お前もわかっているだろう?と、言わんばかりにだ。
黒狼とは呼ばれてはいるが、クストやルジオーネを見てわかるようにクロードは青狼獣人なのだ。青狼獣人の中で黒を持って生まれた狼獣人。
カウサ神教国の悪しき習慣が根付いしまった結果だ。彼もまたその悪しき習慣に苦しめられたのだろう。
シェリーは日本語で書かれた紙を受け取り、別の紙にこの世界の言葉で書き写す。
「嬢ちゃんはまともな教育を受けられたんだな」
この世界の言葉を書いているシェリーを見て、クロードは良かったと笑う。しかし、シェリーは無表情のまま答えた。
「この世界の常識というものは残念ながら持ち合わせていません。文字は幼い頃にばあやに教えてもらったから書けるだけです」
室内でもフードを深く被り、そのフードから溢れるのは黒い色をした髪。
「なんだ。何も変わらないのか。まぁ、そうだよな。変わらないよな。なぁ。ルジオーネ。青狼族は何人生き残った?あの討伐戦で何人が生き残った?」
クロードは突然、己の一族の人数の確認をした。今の話から何が関係するのかとルジオーネは首を傾げながら答える。
「討伐戦で生き残った者は自分とクストの二人です。残りは戦に赴かなかった子供だった者が5人。クストの子が2人。青狼族は9人しか存在しません」
悔しそうに答えるルジオーネに対して、答えを聞いたクロードは笑った。楽しそうに笑った。
「ハハハハ。そうか。そうか。俺を苦しめた青狼共を戦に引き連れていった甲斐はあったということか」
楽しそうに、青狼族を死地に追い詰めたと言うクロードを見てルジオーネは目を見開く。
「な、なぜ···?」
ルジオーネはなぜそのような事を言うのかと問いたいのだろう。
「なぜ?なぜか?それは決まっているだろう?復讐だ!歩けないか歩けるかぐらいの俺をナヴァル家から一族から追い出し、ギランの金狼のところで名を上げれば、手の平を返したように当主に迎えるだ?テメェら頭湧いてんのか?って聞き直したほどだ」
歩けるか歩けない頃というと、一歳になるかならないかという歳だ普通なら覚えてはいないだろう。
クロードは追い出されたと言っているが、捨てられたと言った方がいい状態だったのではないのだろうか。
しかし、彼は転生者だった。幼い頃から大人の精神を持ち、生き抜き、恐らくその時の金狼の族長にでも拾われたのだろう。
あの国は英雄信仰がある。英雄アマツの側に居た黒豹獣人しかり、黒龍炎王しかり。彼らには黒狼のクロードを受け入れる器があったのだ。
もし、そのままギラン共和国にクロードがいれば、きっと彼は一族の者に復讐をしようとは思わなかったのではないのだろうか。
「私の父も母もクストの母も父も貴方の復讐のために死んだというのですか?」
「ああ、そうだ」
ルジオーネの喘ぐように言葉にクロードは肯定を示した。
「俺は獣人として戦いの中で死なせてやっただけ、優しいぞ。ローリリアも戦って死ねる事を喜んでいたしな。ただ、一族を引き連れて行っただけだ。
強ければ生き残る。弱ければ死ぬ。復讐というには優しい優しい。可愛い子供達を峡谷に突き落とすようなものだ。
幼い俺を海に投げ捨てるよりも優しい選択死だ」
優しい選択死。クロードはそう言うが、10年にも及ぶ討伐戦で生き抜く事ができた者はホンの一握りの存在だけだ。
「はぁ。しかし今思えば、彼も転生者だったのだろう?あの龍の旦那も」
そう言って、クロードは一振りの刀を空間から取り出す。
「考えればわかることなのに、余裕がなかったんだろうな。龍の旦那は俺の事がわかっていてこの刀を渡したんだろうな」
「炎王は『紅玉の君だとわかったからな。戦地で命を落とす彼に何かをしてやりたかった』と言っていました」
シェリーの言葉にクロードは目を見開く。
「なんだ。アレを見たのか。アリスの予言のアレを。はぁ、俺ってどれだけ余裕なかったんだろうな」
そう言いながらクロードは刀を脇に置き、お菓子を口にしていた。
ナオフミが言っていた。シェリーが、佐々木がこの世界にいると知ったから世界を壊すのを止めたと。
炎王は死にゆくクロードに少しでも力になるようにと刀を渡し、陽子が孤独にならぬように理由をつけて取引に行く。
陽子も何かと理由をつけてシェリーの所に遊びに行く。
クロードもまた、炎王と繋がりを得られることができたのなら、違った未来もあったのかもしれない。炎王が抗ったように、アリスの未来視から外れる未来を得られることもできたかもしれない。
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