番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
389 / 796
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

378

しおりを挟む
「それって今あの帝国で使われている制御石とどう違うのかな?君は奴隷の反抗心を押さえつける物と言ったけど、僕には同じように聞こえるのだけど?」

 イーリスクロムがユーフィアの答えに疑問を持つ。結局どちらも奴隷を制御するモノに違いはない。

「違います!全く違います!私はこんな恐ろしいモノは作りません!」

 ユーフィアが感情的になってイーリスクロムの言葉に憤る。
 恐ろしいモノ。だが、他人の目から見ればその二つに違いなどありはしない。人の尊厳というものを無視をして、他者の命令に従わせようとするものだからだ。
 しかし、目の前の人物がこの国の王であることを思い出し、ユーフィアは身を小さくして謝罪する。

「申し訳ございません。しかし、これはなんと表現すればいいのか困りますが、ゾンビと言えば理解出来ますか?」

 ユーフィアの言葉にイーリスクロムは首を傾げる。ゾンビというモノがこの国に存在するのであれば理解できるかもしれない。若しくはユールクスの『王の嘆き』ダンジョンに行けば理解できただろう。
 しかし、通常では遭遇することのないモノの名を言われてもわからないのは仕方がない。

「陛下。生きた屍という表現ではどうでしょうか?」

 シェリーが口を挟んだ。ユーフィアはゾンビというモノをどう表現すればいいのか悩んでおり、頭を抱えだしたからだ。
 本当に魔道具のこと以外はさっぱりのようだ。

「生きた屍?屍が生きているのか?」

「そうですね。死体がふらふらとさまよっており、命令があれば腕がもげようが、足が取れようがお構いなしに襲って来るのです。それを生きた人に再現した魔道具と言えばわかりますか?」

「そうそう!それ!」

 ユーフィアがシェリーの言葉に同意を示す。そして、ユーフィアは青い液体の入った小瓶を示して言った。

「これは確かに反抗心を押さえつけると言いましたが、命令に背くことはできます。酷い痛みを耐えればということを付け加えますが」

 ユーフィアとシェリーの説明にイーリスクロムは何かを考えるように腕を組んで明後日の方向に視線を向ける。
 シェリーはそれに構わず話を続ける。

「と、言う感じでモルディールの街の住人全てが生ける屍化し、侵入者に対して襲っていたのだと思われます。
 今現在、全ての住人の制御石を取り除いてはいますが、どういう後遺症があるかわからないので、それは国として予後のフォローをしてもらえればと思っています」

「後遺症があるようなモノなのか?」

 シェリーの言葉にイーリスクロムが疑問を呈する。
 後遺症。奴隷となった者にそのような言葉を聞いたことがないと。

「さぁ?それは知りませんが、連絡が取れなくなって、ひと月程ですか?人として生きる事ができなかったのですから、不調が出てきてもおかしくないかと?詳しいことはユーフィアさんに見てもらった方がいいですね」

 シェリーは確証の無いことを国王の前で発言するが、元々国が始末をつけるべき事柄だ。今後の事を調べるぐらいはして欲しいと、匂わせているのだ。

「それから、第7師団長さんが、マルス帝国の奴らを連れて来ると思いますので、しっかりと取り調べをして、次の実験に備えてほしいです」

「実験?またこのような事があると君は考えているのか?」

 イーリスクロムの言葉にシェリーは鼻で笑う。どうして、今回だけで済むと思っているのかと。

「実験ですよ。実験。どれぐらいの実用性があるのか検証中だったのではないのでしょうか?どうですか?エルフの方?」

 シェリーは気を取り戻し、黙ってことの成り行きをみていたエルフ族の女性に問いかける。この人物は召喚者と親しい人物だ。何かしらの情報は持っているだろう。
 一斉に視線を向けられたエルフ族の女性はビクッと震え、身を縮こませた。

「あ、ええ。その通りです」

 シェリーの予想どおり肯定の答えが返ってきた。胸糞悪いことだが、大体の想像はついてしまうと、シェリーは更に質問を続ける。

「その結果は帝国側にとって満足できるものでしたか?恐らく違ったのではないのですか?」

「はい。その通りです」

 また、肯定する返事が返ってきた。

「帝国への報告には使い勝手が悪いから改善するようにと報告をしておりました」

 使い勝手が悪い。何を目的として言っているのかはわからないが、ラースの魔眼の能力を再現しようとしているとすれば、かなり劣化していると言えよう。

 以前、シェリーの魔眼に操られたカイルとスーウェン、そしてイーリスクロムを見てわかるように、己の力の全てを出し切り相手に叩きつけた。ただ、この時は魔眼の暴走であり、施行者からの指示は示されていなかった。
 本来なら、統制された軍隊の様に施行者の意思を反映できる。暴君レイアルティス王の侵略をラース大公が防いだように、人を操ることができるのだ。

 それを目指そうとしているのであれば、何と恐ろしい事だろう。ラースの者達は女神ナディアの監視があるため、無闇矢鱈むやみやたらに力を振るうことはない。だが、この制御石を使用するならば、誰でも人を意のままに操り支配下に置くことができる。

 マルス帝国はどこへ向かおうとしているのだろうか。
 人族至上主義。一部の者だけが上位者として存在し、後は奴隷として存在する世界でも作ろうとしているのだろうか。


しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。 私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。 その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。 完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

処理中です...