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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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「それって今あの帝国で使われている制御石とどう違うのかな?君は奴隷の反抗心を押さえつける物と言ったけど、僕には同じように聞こえるのだけど?」
イーリスクロムがユーフィアの答えに疑問を持つ。結局どちらも奴隷を制御するモノに違いはない。
「違います!全く違います!私はこんな恐ろしいモノは作りません!」
ユーフィアが感情的になってイーリスクロムの言葉に憤る。
恐ろしいモノ。だが、他人の目から見ればその二つに違いなどありはしない。人の尊厳というものを無視をして、他者の命令に従わせようとするものだからだ。
しかし、目の前の人物がこの国の王であることを思い出し、ユーフィアは身を小さくして謝罪する。
「申し訳ございません。しかし、これはなんと表現すればいいのか困りますが、ゾンビと言えば理解出来ますか?」
ユーフィアの言葉にイーリスクロムは首を傾げる。ゾンビというモノがこの国に存在するのであれば理解できるかもしれない。若しくはユールクスの『王の嘆き』ダンジョンに行けば理解できただろう。
しかし、通常では遭遇することのないモノの名を言われてもわからないのは仕方がない。
「陛下。生きた屍という表現ではどうでしょうか?」
シェリーが口を挟んだ。ユーフィアはゾンビというモノをどう表現すればいいのか悩んでおり、頭を抱えだしたからだ。
本当に魔道具のこと以外はさっぱりのようだ。
「生きた屍?屍が生きているのか?」
「そうですね。死体がふらふらとさまよっており、命令があれば腕がもげようが、足が取れようがお構いなしに襲って来るのです。それを生きた人に再現した魔道具と言えばわかりますか?」
「そうそう!それ!」
ユーフィアがシェリーの言葉に同意を示す。そして、ユーフィアは青い液体の入った小瓶を示して言った。
「これは確かに反抗心を押さえつけると言いましたが、命令に背くことはできます。酷い痛みを耐えればということを付け加えますが」
ユーフィアとシェリーの説明にイーリスクロムは何かを考えるように腕を組んで明後日の方向に視線を向ける。
シェリーはそれに構わず話を続ける。
「と、言う感じでモルディールの街の住人全てが生ける屍化し、侵入者に対して襲っていたのだと思われます。
今現在、全ての住人の制御石を取り除いてはいますが、どういう後遺症があるかわからないので、それは国として予後のフォローをしてもらえればと思っています」
「後遺症があるようなモノなのか?」
シェリーの言葉にイーリスクロムが疑問を呈する。
後遺症。奴隷となった者にそのような言葉を聞いたことがないと。
「さぁ?それは知りませんが、連絡が取れなくなって、ひと月程ですか?人として生きる事ができなかったのですから、不調が出てきてもおかしくないかと?詳しいことはユーフィアさんに見てもらった方がいいですね」
シェリーは確証の無いことを国王の前で発言するが、元々国が始末をつけるべき事柄だ。今後の事を調べるぐらいはして欲しいと、匂わせているのだ。
「それから、第7師団長さんが、マルス帝国の奴らを連れて来ると思いますので、しっかりと取り調べをして、次の実験に備えてほしいです」
「実験?またこのような事があると君は考えているのか?」
イーリスクロムの言葉にシェリーは鼻で笑う。どうして、今回だけで済むと思っているのかと。
「実験ですよ。実験。どれぐらいの実用性があるのか検証中だったのではないのでしょうか?どうですか?エルフの方?」
シェリーは気を取り戻し、黙ってことの成り行きをみていたエルフ族の女性に問いかける。この人物は召喚者と親しい人物だ。何かしらの情報は持っているだろう。
一斉に視線を向けられたエルフ族の女性はビクッと震え、身を縮こませた。
「あ、ええ。その通りです」
シェリーの予想どおり肯定の答えが返ってきた。胸糞悪いことだが、大体の想像はついてしまうと、シェリーは更に質問を続ける。
「その結果は帝国側にとって満足できるものでしたか?恐らく違ったのではないのですか?」
「はい。その通りです」
また、肯定する返事が返ってきた。
「帝国への報告には使い勝手が悪いから改善するようにと報告をしておりました」
使い勝手が悪い。何を目的として言っているのかはわからないが、ラースの魔眼の能力を再現しようとしているとすれば、かなり劣化していると言えよう。
以前、シェリーの魔眼に操られたカイルとスーウェン、そしてイーリスクロムを見てわかるように、己の力の全てを出し切り相手に叩きつけた。ただ、この時は魔眼の暴走であり、施行者からの指示は示されていなかった。
本来なら、統制された軍隊の様に施行者の意思を反映できる。暴君レイアルティス王の侵略をラース大公が防いだように、人を操ることができるのだ。
それを目指そうとしているのであれば、何と恐ろしい事だろう。ラースの者達は女神ナディアの監視があるため、無闇矢鱈に力を振るうことはない。だが、この制御石を使用するならば、誰でも人を意のままに操り支配下に置くことができる。
マルス帝国はどこへ向かおうとしているのだろうか。
人族至上主義。一部の者だけが上位者として存在し、後は奴隷として存在する世界でも作ろうとしているのだろうか。
イーリスクロムがユーフィアの答えに疑問を持つ。結局どちらも奴隷を制御するモノに違いはない。
「違います!全く違います!私はこんな恐ろしいモノは作りません!」
ユーフィアが感情的になってイーリスクロムの言葉に憤る。
恐ろしいモノ。だが、他人の目から見ればその二つに違いなどありはしない。人の尊厳というものを無視をして、他者の命令に従わせようとするものだからだ。
しかし、目の前の人物がこの国の王であることを思い出し、ユーフィアは身を小さくして謝罪する。
「申し訳ございません。しかし、これはなんと表現すればいいのか困りますが、ゾンビと言えば理解出来ますか?」
ユーフィアの言葉にイーリスクロムは首を傾げる。ゾンビというモノがこの国に存在するのであれば理解できるかもしれない。若しくはユールクスの『王の嘆き』ダンジョンに行けば理解できただろう。
しかし、通常では遭遇することのないモノの名を言われてもわからないのは仕方がない。
「陛下。生きた屍という表現ではどうでしょうか?」
シェリーが口を挟んだ。ユーフィアはゾンビというモノをどう表現すればいいのか悩んでおり、頭を抱えだしたからだ。
本当に魔道具のこと以外はさっぱりのようだ。
「生きた屍?屍が生きているのか?」
「そうですね。死体がふらふらとさまよっており、命令があれば腕がもげようが、足が取れようがお構いなしに襲って来るのです。それを生きた人に再現した魔道具と言えばわかりますか?」
「そうそう!それ!」
ユーフィアがシェリーの言葉に同意を示す。そして、ユーフィアは青い液体の入った小瓶を示して言った。
「これは確かに反抗心を押さえつけると言いましたが、命令に背くことはできます。酷い痛みを耐えればということを付け加えますが」
ユーフィアとシェリーの説明にイーリスクロムは何かを考えるように腕を組んで明後日の方向に視線を向ける。
シェリーはそれに構わず話を続ける。
「と、言う感じでモルディールの街の住人全てが生ける屍化し、侵入者に対して襲っていたのだと思われます。
今現在、全ての住人の制御石を取り除いてはいますが、どういう後遺症があるかわからないので、それは国として予後のフォローをしてもらえればと思っています」
「後遺症があるようなモノなのか?」
シェリーの言葉にイーリスクロムが疑問を呈する。
後遺症。奴隷となった者にそのような言葉を聞いたことがないと。
「さぁ?それは知りませんが、連絡が取れなくなって、ひと月程ですか?人として生きる事ができなかったのですから、不調が出てきてもおかしくないかと?詳しいことはユーフィアさんに見てもらった方がいいですね」
シェリーは確証の無いことを国王の前で発言するが、元々国が始末をつけるべき事柄だ。今後の事を調べるぐらいはして欲しいと、匂わせているのだ。
「それから、第7師団長さんが、マルス帝国の奴らを連れて来ると思いますので、しっかりと取り調べをして、次の実験に備えてほしいです」
「実験?またこのような事があると君は考えているのか?」
イーリスクロムの言葉にシェリーは鼻で笑う。どうして、今回だけで済むと思っているのかと。
「実験ですよ。実験。どれぐらいの実用性があるのか検証中だったのではないのでしょうか?どうですか?エルフの方?」
シェリーは気を取り戻し、黙ってことの成り行きをみていたエルフ族の女性に問いかける。この人物は召喚者と親しい人物だ。何かしらの情報は持っているだろう。
一斉に視線を向けられたエルフ族の女性はビクッと震え、身を縮こませた。
「あ、ええ。その通りです」
シェリーの予想どおり肯定の答えが返ってきた。胸糞悪いことだが、大体の想像はついてしまうと、シェリーは更に質問を続ける。
「その結果は帝国側にとって満足できるものでしたか?恐らく違ったのではないのですか?」
「はい。その通りです」
また、肯定する返事が返ってきた。
「帝国への報告には使い勝手が悪いから改善するようにと報告をしておりました」
使い勝手が悪い。何を目的として言っているのかはわからないが、ラースの魔眼の能力を再現しようとしているとすれば、かなり劣化していると言えよう。
以前、シェリーの魔眼に操られたカイルとスーウェン、そしてイーリスクロムを見てわかるように、己の力の全てを出し切り相手に叩きつけた。ただ、この時は魔眼の暴走であり、施行者からの指示は示されていなかった。
本来なら、統制された軍隊の様に施行者の意思を反映できる。暴君レイアルティス王の侵略をラース大公が防いだように、人を操ることができるのだ。
それを目指そうとしているのであれば、何と恐ろしい事だろう。ラースの者達は女神ナディアの監視があるため、無闇矢鱈に力を振るうことはない。だが、この制御石を使用するならば、誰でも人を意のままに操り支配下に置くことができる。
マルス帝国はどこへ向かおうとしているのだろうか。
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