番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
387 / 796
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

376

しおりを挟む
 三人の否定する言葉が重なった。
 一番トップである国王を殴るということは、国に対して敵意があるとみなされる。子供であれ、そのようなことをすれば始末をされる立場になるだろう。

「だからね。これでも僕は一国の王なんだよ」

 どこかで聞いた言葉がイーリスクロムから出てきた。

「だから、なんです?これぐらいでくたばる王なら、居ないほうがいいのでは?」

「いい加減にしろよ!」
「ラースだから、こちらが手を出せないと思っているのですか!」

 シェリーの言葉に二人の青狼獣人がいきり立つ。やはり、ラースであることで、シェリーに手を出すことをためらっていた部分はあるようだ。

「一国の王だろうが、間違った事には注意する者は必要ですよね。そう、今回の事は国で解決すべき事だったのではないのですか?裏でマルス帝国が動いていることぐらい掴んでいたのではないのですか?」

「間違っていた?適材適所だよね。この国で冒険者なんてしているのだから、僕が指示することも可能だって知っているはずだよね?」

 イーリスクロムはニヤニヤと相変わらず笑って答える。間違ったことなどしていないと。

「第7師団の半分を失って、ビビっただけでは?」

「ああ、それは失敗したって認めるよ。僕の読みが甘かったってね。まさか、第7師団が住人を制圧できないなんて、思わなかったよ。彼は師団長としては未熟だったね」

 やはりイーリスクロムは街がどのような状態であったかを知っていたのだ。

「ちっ!」

 その言葉にシェリーは舌打ちをする。やはり今回の事は完璧にはめられたのだと。

「だからね。君たちに頼んだのだけど、うまくいったみたいだね。それで、詳しい情報を教えてもらえるかな?」

「その前に私のルーちゃんを解放してください」

「おや?」

 イーリスクロムは心外だと、かたをすくめる。まるで人質でも取っているかのような言い方だと。

「ルーク君は今は広報部に行ってもらっているはずだよ?広報部は全師団と繋がりがあるからね。勉強になっているはずだよ。そうだよね?」

 イーリスクロムはクストにも確認の意味を込めて尋ねる。それに対しクストも『そのようになっております』と肯定する。

 ルークの事は真面目に研修の様な形で行なっていることにシェリーは少し安堵した。それに、広報部のサリーのところなら、悪い扱いはしないだろうと。

「なら、いいです。今回の原因はコレになります」

 そう言ってシェリーはユーフィアに渡した同じ小瓶をテーブルの上に置く。灰色の液体が入った小瓶だ。

 そして、青い光沢のある液体が入った小瓶を横に並べた。
 三人の目が2つの小瓶に向けられる。こんなモノで今回の事件を引き起こせるのかと言う不信な目だ。

「この青い方は別の形で目にしていると思います。私よりユーフィアさんの方が詳しいので、説明をお願いします」

 シェリーの言葉にユーフィアの肩が跳ね上がる。ユーフィアの挙動に隣にいるクストが気が付きシェリーを睨みつけた。

「おい。ユーフィアに何を言わす気だ。嬢ちゃんが説明しろ!」

 シェリーを威圧するクストにユーフィアが慌てて止めに入る。クストの手を取って首を横に振った。

「クスト。いいの。この青い液体は奴隷の反抗心を押さえつける物なの。逆らうと痛みを伴う様に、主人となる者の血を混ぜて額に石の形として神経を侵食する魔道具なの」

「ユーフィア。こいつの質問になんて答えなくていい」

 己の創り出した物をユーフィアが声を押し殺しながら言う姿に、クストは何も話さなくていいと抱きしめる。そして、シェリーに対し唸り声を混ぜながら威嚇する。

「またか!また、ユーフィアを苦しめようとするのか!」

 シェリーも、またかと言いたかったが、言葉を飲み込み、代わりにため息がこぼれ出た。

「はぁ。だから、師団長さんの横やりが入らない状態で話したかったのですよ。今回の事はユーフィアさんは無関係というわけにはいきません」

 そう今回の事件をイーリスクロムに説明するにはユーフィアが必要なのだ。シェリー自身どうしてあの様に街の住人が操られたか分からなかったが、ユーフィアは灰色の液体を見ただけで、これがどういう物か理解していた。

 因みにシェリーの眼で見てみるとこういう感じだ。


【意思なき隷属の触媒】
 主の指示を忠実に行動する。意思をなくし生きる屍とする。ただ、指示が無ければ生きることの最低限の行動を取ることができる。

 このモノに対しての説明でしかない。ユーフィアは意思を奪うと言った。恐らくユーフィアには違う観点でこのモノを視ていたのだろう。

 シェリーは灰色の液体を示して言った。

「コレを作った者はユーフィアさんが帝国に残していった魔道具に関する書物を参考に作っています」

「おい!嘘をつくな!ユーフィアがあの帝国に残している本に奴隷に関する事は無いはずだ!全てユーフィアの手元にある!」

 クストは言い切った。帝国に残している書物に奴隷に関する物はないと。恐らく書物は無いのかもしれない。だからこそ、この様なモノが出来上がってしまったのだろう。

「はぁ。私は参考にと言いました。記した書物が無くても、奴隷の制御石を作る原盤と言っていいものは帝国に残ってますよね。それを勇者と同じ召喚者に作らせているのです。魔術の基礎がない召喚者に」

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。 私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。 その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。 完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

処理中です...