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23章 孤独な世界と絆された世界
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─黒の聖女へ─
神からの祝福に困っているのでしょ?本当に神ってクソよね。やはりこの世界で一番素晴らしい神はルーチェ様のみ。ルーチェ様ほど慈悲深い神はいないわ。
今回はそうね。故郷の花が咲き満ちた朔月の頃、黒龍から頼みごとをされるわ。とても困っているみたいだから手を貸してあげるといいわ。でも、根本的な解決には至らないから助言だけね。
時を同じくして、蜘蛛の姫にも頼まれごとをされるわ。これだけ言えば貴女ならわかるでしょ?上手く交渉して姫の糸と剣を手に入れるのよ。
それから、これから貴女の故郷は色々大変になってくるわ。だから、大公を引っ張って来なさい。これが一番ベストの未来。
「は?」
シェリーは思わず声をもらした。最初の2つはいい。炎王が頼み事をしてくるのと蜘蛛の姫に上手く交渉しろということだ。
炎王は恐らく聖水に関わることで、何かしらあるのだろう。あの炎国の巫女が聞いてきたぐらいだ。
蜘蛛の姫の事もアリスが以前言っていた事に関わってくる事柄なのだろう。
しかし、しかしだ。シェリーの故郷と言われると違和感しか感じないが、ラース公国のことだ。
大公を引っ張ってくるというのは、ありえない。あのミゲルロディアを連れ戻して来いとアリスは言っているのだ。確かにオーウィルディアは冒険者気質のため、大公の器では無いのだろう。本人もそれがよくわかっているため大公代理としての立場を崩していない。何れ、あの母親の血を引く子供の誰かに引き継ぐつもりのようだ。
シェリーは岩壁に刻まれた文字がおかしいのでは無いかと手で払って見るが、刻まれた文字に変わりはない。
これは何かの間違いだろうか。シェリーは岩壁から少し離れ、文字を眺めて考える。ミゲルロディアが魔人でなければ、理に適っている。
現状のラース公国は国土の半分が焦土化している状況だ。それも先日は悪魔が3体も出現した。あのナオフミとビアンカは己の後始末をしてもらわなければならないので、この前のように当てにはできない。そして、竜人のディスタが居るにしてもオーウィルディアが大公代理としているよりも、ミゲルロディアが大公として国をまとめた方が良いに決まっている。
問題は魔人であるミゲルロディアが大公として立てるかだ。ミゲルロディアの魔人化する原因を作った2人はもうこの世にはいない。ミゲルロディアに番がいた事実を知るものは、あの場にいた者達だけ。番のことに関して口にしそうな第3夫人はギラン共和国に戻った。
ミゲルロディアを暴走に走らす要因は皆無と言っていい?
「シェリー。何か悪いことでも書いてあったのかな?」
カイルがシェリーの顔を覗き込むようにして聞いてきた。
悪いこと?どちらかと言うと理解不能なことだ。
「『祝福』『神』など単語は読めるが、見たことがない文字がありすぎるな」
シェリーの見ていた岩壁の文字をリオンは読み解こうとしていたが、炎王が言っていたように政治に使う文字しか教えてはいないようだ。
「はぁ。アリスの戯言のような未来視を信じるかどうか精査していただけです」
シェリーはため息を吐きながら答える。こればかりは、シェリーの独断で決められることではなかった。
『何が書いてあったのかなー?』
黒い鳥は興味津々で聞いてきた。それに対しシェリーは淡々と答える。
「大したことではありません」
「あんなに真剣に見ていて、大したことはないってことないよな」
グレイが心配そうな顔をしていた。この事に対してグレイはどう思うだろうか。己の魔人化した父親を連れ戻すという突拍子もない未来視に対して、彼は受け入れられることはできるのだろうか。
シェリーが重い口を開く。
「ミゲルロディア大公閣下を連れ戻して再びその座につけるようにと。はっきり言って現実的ではないのですが、国として考えるのであれば、一理あります。しかし、周りの環境はそれを受け入れがたいでしょう」
その言葉にグレイは大きく目を見開く。
「父上を連れ戻す?」
「ご主人様、本当にそのような事が書かれているのですか?魔人を国の主に掲げるようにと」
スーウェンもシェリーの言葉に驚いたように尋ねる。魔人を国のトップに掲げるなど狂気沙汰のことだ。ただ、アリスの最後の言葉が気になる。
『これが一番ベストの未来』
それ以外の未来はベターかワーストだと言っているのだ。
「ただ、未来視は絶対ではない。アリスは一番ベストの未来と言っている。これが国にとってなのか個人に対してかはわからない」
「これはシェリー宛の未来視なんだよね。じゃ、シェリーにとって最も良い未来なんだろうね」
カイルがそのような事を言ってきた。シェリーにとって一番良い未来が、ミゲルロディアを大公に戻すことだと?シェリーは実際のことは知らないが、以前オーウィルディアが言っていた。
『シェリーちゃんの魔眼の威力を見ていると兄上を思い出すわ。魔術は全然駄目だったけど、兄上の魔眼はとても強力なのよ。兄上が目の前に立てば、もう頭を地べたにつけて許しを請いたいぐらいなのよ』
それはきっと完全体の悪魔に対抗できるほどの威力なのだろう。
神からの祝福に困っているのでしょ?本当に神ってクソよね。やはりこの世界で一番素晴らしい神はルーチェ様のみ。ルーチェ様ほど慈悲深い神はいないわ。
今回はそうね。故郷の花が咲き満ちた朔月の頃、黒龍から頼みごとをされるわ。とても困っているみたいだから手を貸してあげるといいわ。でも、根本的な解決には至らないから助言だけね。
時を同じくして、蜘蛛の姫にも頼まれごとをされるわ。これだけ言えば貴女ならわかるでしょ?上手く交渉して姫の糸と剣を手に入れるのよ。
それから、これから貴女の故郷は色々大変になってくるわ。だから、大公を引っ張って来なさい。これが一番ベストの未来。
「は?」
シェリーは思わず声をもらした。最初の2つはいい。炎王が頼み事をしてくるのと蜘蛛の姫に上手く交渉しろということだ。
炎王は恐らく聖水に関わることで、何かしらあるのだろう。あの炎国の巫女が聞いてきたぐらいだ。
蜘蛛の姫の事もアリスが以前言っていた事に関わってくる事柄なのだろう。
しかし、しかしだ。シェリーの故郷と言われると違和感しか感じないが、ラース公国のことだ。
大公を引っ張ってくるというのは、ありえない。あのミゲルロディアを連れ戻して来いとアリスは言っているのだ。確かにオーウィルディアは冒険者気質のため、大公の器では無いのだろう。本人もそれがよくわかっているため大公代理としての立場を崩していない。何れ、あの母親の血を引く子供の誰かに引き継ぐつもりのようだ。
シェリーは岩壁に刻まれた文字がおかしいのでは無いかと手で払って見るが、刻まれた文字に変わりはない。
これは何かの間違いだろうか。シェリーは岩壁から少し離れ、文字を眺めて考える。ミゲルロディアが魔人でなければ、理に適っている。
現状のラース公国は国土の半分が焦土化している状況だ。それも先日は悪魔が3体も出現した。あのナオフミとビアンカは己の後始末をしてもらわなければならないので、この前のように当てにはできない。そして、竜人のディスタが居るにしてもオーウィルディアが大公代理としているよりも、ミゲルロディアが大公として国をまとめた方が良いに決まっている。
問題は魔人であるミゲルロディアが大公として立てるかだ。ミゲルロディアの魔人化する原因を作った2人はもうこの世にはいない。ミゲルロディアに番がいた事実を知るものは、あの場にいた者達だけ。番のことに関して口にしそうな第3夫人はギラン共和国に戻った。
ミゲルロディアを暴走に走らす要因は皆無と言っていい?
「シェリー。何か悪いことでも書いてあったのかな?」
カイルがシェリーの顔を覗き込むようにして聞いてきた。
悪いこと?どちらかと言うと理解不能なことだ。
「『祝福』『神』など単語は読めるが、見たことがない文字がありすぎるな」
シェリーの見ていた岩壁の文字をリオンは読み解こうとしていたが、炎王が言っていたように政治に使う文字しか教えてはいないようだ。
「はぁ。アリスの戯言のような未来視を信じるかどうか精査していただけです」
シェリーはため息を吐きながら答える。こればかりは、シェリーの独断で決められることではなかった。
『何が書いてあったのかなー?』
黒い鳥は興味津々で聞いてきた。それに対しシェリーは淡々と答える。
「大したことではありません」
「あんなに真剣に見ていて、大したことはないってことないよな」
グレイが心配そうな顔をしていた。この事に対してグレイはどう思うだろうか。己の魔人化した父親を連れ戻すという突拍子もない未来視に対して、彼は受け入れられることはできるのだろうか。
シェリーが重い口を開く。
「ミゲルロディア大公閣下を連れ戻して再びその座につけるようにと。はっきり言って現実的ではないのですが、国として考えるのであれば、一理あります。しかし、周りの環境はそれを受け入れがたいでしょう」
その言葉にグレイは大きく目を見開く。
「父上を連れ戻す?」
「ご主人様、本当にそのような事が書かれているのですか?魔人を国の主に掲げるようにと」
スーウェンもシェリーの言葉に驚いたように尋ねる。魔人を国のトップに掲げるなど狂気沙汰のことだ。ただ、アリスの最後の言葉が気になる。
『これが一番ベストの未来』
それ以外の未来はベターかワーストだと言っているのだ。
「ただ、未来視は絶対ではない。アリスは一番ベストの未来と言っている。これが国にとってなのか個人に対してかはわからない」
「これはシェリー宛の未来視なんだよね。じゃ、シェリーにとって最も良い未来なんだろうね」
カイルがそのような事を言ってきた。シェリーにとって一番良い未来が、ミゲルロディアを大公に戻すことだと?シェリーは実際のことは知らないが、以前オーウィルディアが言っていた。
『シェリーちゃんの魔眼の威力を見ていると兄上を思い出すわ。魔術は全然駄目だったけど、兄上の魔眼はとても強力なのよ。兄上が目の前に立てば、もう頭を地べたにつけて許しを請いたいぐらいなのよ』
それはきっと完全体の悪魔に対抗できるほどの威力なのだろう。
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