320 / 774
23章 孤独な世界と絆された世界
309
しおりを挟む
炎王はユールクスに会いに行ってくると言って、転移で去っていった。シェリーが頼んだお米の件でダンジョン産の米を出してくれるように口添えをしてくれるのだろう。
「ダンジョンマスターは鳥なのか?」
シェリーの隣で黒い鳥を肩に乗せたオルクスが話している。始め、黒い鳥はシェリーの肩に止まろうとしたのだが、5人のツガイの視線を受けて急遽オルクスの方に方向転換したのだ。賢明な判断だ。
『鳥じゃないよロロだよ』
姿は鳥なのに鳥であることを否定しているダンジョンマスターは翼で方向を指しながら道案内をしてくれている。
「あ!マスター様、こんにちは」
『コンニチハ』
「マスター様、今日は良い天気ですね」
『そうだねー』
町の人々は黒い鳥とすれ違う度に声を掛けていっている。人々の生活の中にこのダンジョンマスターは混じって過ごしているのだ。
そもそもだ。ダンジョンマスターがダンジョンの外に出てウロウロしているのがおかしい。
ただ、この姿を見るとシェリーは無性になんとも言えない衝動に駆られた。陽子はこの姿を目にすればどうするだろうかと。
「町の皆さんと仲がいいのですね」
シェリーは思わずそんな言葉が出ていた。その言葉に黒い鳥は首を傾げている。
『仲がいい?んーちょっと違うかなー。僕と町の人々は持ちつ持たれつっていう関係かなー?』
黒い鳥は翼をバタバタとして周りを見るように示した。
『見て貰えばわかるけど、ここは魚人の町なんだよー』
確かに、すれ違う人々は肌に薄い鱗を纏い、手には水かきが在るのが伺える。
『町の人にダンジョンで漁をしてもらって、僕はダンジョンを維持していく。そして、この町がダンジョンだから、ダンジョンの中にいる人は守ってあげる。ただ、それだけの関係だよー』
ダンジョンマスターはまるで希薄な関係だと言わんばかりだ。人々は生きる為にダンジョンを利用し、ダンジョンマスターはダンジョンを維持していくために、人々を守る。だたそれだけだと。
「海が目の前にあるのにダンジョンで漁をするのか?」
グレイが不思議そうに聞いてきた。ラース公国は東側にしか海がなく、グレイは恐らく海というものをよくわかっていないのだろう。
「海で漁をしようとすれば色々大変だからだろ?」
四方を海に囲まれた炎国の王太子だったリオンが言う。
「グレイは船に乗ったことはないのか?」
オルクスが不思議そうに聞いている。
西側から北にかけて海に面しているギラン共和国は帝国の動きを注視するために海運にも注視しているとフェクトス総統から聞いたことがあるとシェリーは船が浮かぶ湾に視線を向ける。
「無いけど?」
グレイはそう答えるが、そもそもラース公国は海運に力を入れてはいないので、国が所有している船はない。グレイが無いと答えるのは当たり前なのかもしれない。
そんな話を横で聞きながら、シェリーは湾に入って来る船を眺める。帆はなく、外洋船のフェリーを連想させる形に見える。
それ程大きくはなく100メル程の長さで、魔石を動力源をした船だと一度説明を受けたことがあるなとシェリーが思っていると、その船の横に波が沸き立ち、船を丸呑みできるほどの大きさのサメの姿をしたモノが船に襲いかかろうと海から飛び上がった。が、そのすぐ背後に現れたサメの魔物よりも巨大なヒレの付いた蛇に頭から咥えられ海に沈んでいった。
確かにあんな物がいる海で安全には漁はできないだろう。
「船の上で戦うのは中々骨が折れるからな」
その光景を遠目で見ていたオルクスが言った。グレイも同じ方向を見ており、『ああ』と声をもらして納得している。百聞は一見に如かずと言うことだ。
『ここの海は深いからね。大きなモノが寝床にしようとよく入り込むんだよー。悪さをしなければ、放置するけど、ああやって悪さをするヤツは食っちゃうんだー』
ダンジョンマスターは本当にこの町の人を守っているようだ。あの蛇のような魔物がダンジョンマスターの手の物だったのだろう。
あのユールクスでさえ、ここまでのことをして、己のダンジョンと言うべき国で暮らす人々を守ろうとはしていない。彼が動くとすればきっと人々が対処の難しい脅威に対してのみだろう。
「なぜ、あなたはそこまでして人々を守るのですか?」
これはダンジョンとしては歪な在り方ではないのだろうか。ダンジョンとは餌を用意し、獲物が食いつくのを待つが如く、人を獲物と見るのが普通だろう。でなければ、ダンジョンを維持することはできない。
『え?なぜかー?』
黒い鳥は考えたことも無かったと言わんばかりに首を傾げている。
『それは僕が生きていくためだ。徐々に死に向かって行くのは気が狂いそうになる』
その言葉はダンジョンマスターの本心なのだろう。今までと声質が違っていた。
「ダンジョンマスターは鳥なのか?」
シェリーの隣で黒い鳥を肩に乗せたオルクスが話している。始め、黒い鳥はシェリーの肩に止まろうとしたのだが、5人のツガイの視線を受けて急遽オルクスの方に方向転換したのだ。賢明な判断だ。
『鳥じゃないよロロだよ』
姿は鳥なのに鳥であることを否定しているダンジョンマスターは翼で方向を指しながら道案内をしてくれている。
「あ!マスター様、こんにちは」
『コンニチハ』
「マスター様、今日は良い天気ですね」
『そうだねー』
町の人々は黒い鳥とすれ違う度に声を掛けていっている。人々の生活の中にこのダンジョンマスターは混じって過ごしているのだ。
そもそもだ。ダンジョンマスターがダンジョンの外に出てウロウロしているのがおかしい。
ただ、この姿を見るとシェリーは無性になんとも言えない衝動に駆られた。陽子はこの姿を目にすればどうするだろうかと。
「町の皆さんと仲がいいのですね」
シェリーは思わずそんな言葉が出ていた。その言葉に黒い鳥は首を傾げている。
『仲がいい?んーちょっと違うかなー。僕と町の人々は持ちつ持たれつっていう関係かなー?』
黒い鳥は翼をバタバタとして周りを見るように示した。
『見て貰えばわかるけど、ここは魚人の町なんだよー』
確かに、すれ違う人々は肌に薄い鱗を纏い、手には水かきが在るのが伺える。
『町の人にダンジョンで漁をしてもらって、僕はダンジョンを維持していく。そして、この町がダンジョンだから、ダンジョンの中にいる人は守ってあげる。ただ、それだけの関係だよー』
ダンジョンマスターはまるで希薄な関係だと言わんばかりだ。人々は生きる為にダンジョンを利用し、ダンジョンマスターはダンジョンを維持していくために、人々を守る。だたそれだけだと。
「海が目の前にあるのにダンジョンで漁をするのか?」
グレイが不思議そうに聞いてきた。ラース公国は東側にしか海がなく、グレイは恐らく海というものをよくわかっていないのだろう。
「海で漁をしようとすれば色々大変だからだろ?」
四方を海に囲まれた炎国の王太子だったリオンが言う。
「グレイは船に乗ったことはないのか?」
オルクスが不思議そうに聞いている。
西側から北にかけて海に面しているギラン共和国は帝国の動きを注視するために海運にも注視しているとフェクトス総統から聞いたことがあるとシェリーは船が浮かぶ湾に視線を向ける。
「無いけど?」
グレイはそう答えるが、そもそもラース公国は海運に力を入れてはいないので、国が所有している船はない。グレイが無いと答えるのは当たり前なのかもしれない。
そんな話を横で聞きながら、シェリーは湾に入って来る船を眺める。帆はなく、外洋船のフェリーを連想させる形に見える。
それ程大きくはなく100メル程の長さで、魔石を動力源をした船だと一度説明を受けたことがあるなとシェリーが思っていると、その船の横に波が沸き立ち、船を丸呑みできるほどの大きさのサメの姿をしたモノが船に襲いかかろうと海から飛び上がった。が、そのすぐ背後に現れたサメの魔物よりも巨大なヒレの付いた蛇に頭から咥えられ海に沈んでいった。
確かにあんな物がいる海で安全には漁はできないだろう。
「船の上で戦うのは中々骨が折れるからな」
その光景を遠目で見ていたオルクスが言った。グレイも同じ方向を見ており、『ああ』と声をもらして納得している。百聞は一見に如かずと言うことだ。
『ここの海は深いからね。大きなモノが寝床にしようとよく入り込むんだよー。悪さをしなければ、放置するけど、ああやって悪さをするヤツは食っちゃうんだー』
ダンジョンマスターは本当にこの町の人を守っているようだ。あの蛇のような魔物がダンジョンマスターの手の物だったのだろう。
あのユールクスでさえ、ここまでのことをして、己のダンジョンと言うべき国で暮らす人々を守ろうとはしていない。彼が動くとすればきっと人々が対処の難しい脅威に対してのみだろう。
「なぜ、あなたはそこまでして人々を守るのですか?」
これはダンジョンとしては歪な在り方ではないのだろうか。ダンジョンとは餌を用意し、獲物が食いつくのを待つが如く、人を獲物と見るのが普通だろう。でなければ、ダンジョンを維持することはできない。
『え?なぜかー?』
黒い鳥は考えたことも無かったと言わんばかりに首を傾げている。
『それは僕が生きていくためだ。徐々に死に向かって行くのは気が狂いそうになる』
その言葉はダンジョンマスターの本心なのだろう。今までと声質が違っていた。
0
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる