番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

２２章 獣人たちの騒がしい大祭

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「はぁ。あれから２０年しか経っていないのに再び次元の悪魔が出現するとは、このことにシーランはどう動いていますか？」

「ですから、私はただの一般人なので、一国の思惑など知りはしないですよ」

　シェリーはしれっと言う。これほど国の中枢の人物たちと関わっておきながら、一般人だと。その言葉にフェクトス総統は呆れたような目をシェリーに向ける。

「一般人は直接私に交渉などしてきませんよ。マルス帝国の件に関しても、炎国の事に関してもです」

「シーラン王国に関してはイーリスクロム陛下に直接お聞きしてください。用件がそれだけなら失礼してよろしいでしょうか？」

　そう言ってシェリーは立ち上がろうとする。しかし、フェクトス総統は慌てて引き止め、シェリーに問いかける。

「待ってください。この後の予定はどうされますか？できればもう少しミレーテにとどまってもらえませんか？」

　何を思ってかフェクトス総統はシェリーをこのミレーテにとどまってくれるように言う。しかし、シェリーは席を立ち、フェクトス総統を見下ろす。

「嫌ですよ。この後はエルトに行く予定ですから、これはダンジョンマスターからの指示です」

「それなら仕方がない···ですか。『深淵の庭園』に行くつもりで？」

「ダンジョンの名前までは聞いていません」

　シェリーは西のダンジョンに行くようにしかユールクスから言われていないので、ダンジョンの名までは知らない。しかし、二人の会話に横槍が入る。

「「「え？ダンジョン？」」ですか？」

　全くもって知らされていなかったスーウェンとオルクスとリオンからの疑問符だった。

「シェリーどういう事？ダンジョンに行くなんて聞いていない」

　慌てて、シェリーの前に来てオルクスは先程の事を確認する。リオンは柄しか無くなってしまった刀に目をやる。先程壊してしまった刀にだ。
　スーウェンは困ったような表情をしている。流石にダンジョンに行った後にまた別のダンジョンに潜るとは思ってみなかったことなのだろう。

「昨日ユールクスさんから言われたことなので、言ってはいません」

　シェリーは悪びれもなく淡々と言う。そして、何かを思い出したかのようにフェクトス総統に視線を向けたまま尋ねる。

「フェクトス総統閣下。ダンジョンにある碑文の場所を知りませんか？」

「碑文？『深淵の庭園』の碑文ですか？裏ダンジョンの最下層とは聞いています」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

　そう言ってシェリーはここから出ていこうとするが、目の前にはオルクスがおり、阻まれてしまっている。

「シェリー。実は新しい剣が欲しいんだ」

　オルクスは壊れてしまった剣の代わりの物が欲しいとシェリーに訴えるが、シェリーは冷たい視線をオルクスに向けながら

「お好きにどうぞ」

　と突き放す。

「シェリーも一緒に来てほしいな？」

　オルクスはニコニコとシェリーに一緒に行動して欲しいと頼んでいるがシェリーの目は冷たいままだ。

「は？お二人で遊んでいたので壊れたのですよね。それに私は関係ないですよね」

「「うっ」」

　シェリーの突き放す言葉にオルクスとリオンの声が漏れる。カイルはやっぱりこうなったかと苦笑いをしており、スーウェンは未だに困った顔をしている。

「遊んでいた！アレが！」

　フェクトス総統が思わず声を上げた。どうみても全力で剣を交えていたように思えたのだ。いつもの口調ではなく素が出てしまっている。

「もしかして少し見ない間に英雄クラスになっているのか？」

　なんて独り言を言っている。

「シェリー、出来れば炎国に戻って刀を取ってきたいんだが、一緒に炎国に来てくれないか？」

　この感じだと同じ様に言われることは承知の上だが、武器がないとどうにもならないのは事実なので、リオンも刀を手に入れたいと言葉にしてみる。

「普通の刀に膨大な魔力を通したら壊れることには変わりないですよ」

「あ····うん」

　シェリーに指摘され普通の刀しか持っていないことをリオンは思い出したように、言葉を濁した。

「シェリー。昨日は１日だけっていうから、問題なかったけど、数日ダンジョンに潜るなら色々必要だと思うんだ。だから、えーと···オルクスとリオンの剣も必要だと思う」

　グレイがシェリーの考えを変えられないか、何かの言葉を探すように言う。
　シェリーはそんなグレイを見る。

「で？」

「え？あ···。あ！オルクスが前から欲しいって言っていた鍛冶師の所に行くのはどうかな？」

「···」

　シェリーはグレイを見ているようだが、視線が微妙にずれており、そこに何かが居るように目を細めて見ていた。
　グレイはシェリーの無言の圧力に居心地が悪く視線を泳がせていた。以前も己が意図しないのに神言を口にしていたことがあったので、今度は何があるのかと内心ビクビクしていたのだ。

「まぁいいでしょう。フェクトス総統閣下、それでは失礼します」