292 / 774
22章 獣人たちの騒がしい大祭
281
しおりを挟む
人々が熱狂する歓声が耳の奥で響いている中央で立っている2人の人物は、奇しくも同じことを思っていた。
『調子に乗りすぎた』
と。
「あなた達は何を遊んでいるのですか?そんな事すれば剣が保たないぐらいわかりませんか?」
結界を通って来たスーウェンが呆然とした二人に呆れた視線を向けていた。
「リオン、魔剣でも無いのに魔力を剣に込めるなど馬鹿のすることです。オルクスも同じ様に真似をするなんて、ご主人様は呆れて出ていってしまいましたよ」
スーウェンのその言葉に二人はシェリーがいた所に視線を向けるが、番の気配はそこにはなく、会場の外にあるようだ。
「やばい!置いていかれる」
オルクスは焦ったように出口に向かおうとし、リオンも慌ててオルクスの後を追う。スーウェンは焦っても結界に阻まれて出られないのにと思いながら後ろから付いていくのだった。
シェリーは今、フェクトス総統と向かい合っていた。会場の外に出たところで、フェクトス総統の遣いという人から呼び止められ、中央地区にあるフェクトス総統の仕事場に連れて来られてしまった。
目の前には珈琲が出され、焼き菓子も置かれている。
未だにシェリーは黒いフードを深く被っており、両隣にはカイルとグレイが座っていた。
「何か好みの物があるなら言ってください。何がいいですか?マドレーヌもありますし、チョコレートもありますよ」
ガタイのいい虎獣人がゴロゴロと喉を鳴らしながら、シェリーにお菓子を勧めている人物が、この国をまとめ上げているフェクトス総統閣下である。
シェリーの両隣からイライラという雰囲気が感じ取れる。やはり、ただの外套ごときでは、神の祝福を阻害できるはずもなかったのだ。
「お菓子はここにあるクッキーで構いません。それで、ここに呼ばれたご用件は何でしょうか?」
シェリーがここに呼ばれた用件を尋ねるが、フェクトス総統は『ああ』と言って立ち上がり、何かを取ってきてシェリーの前に出した。
「甘い物が駄目なら煎餅もありますよ」
と言って、丸い形の焼き煎餅が出てきた。これでは話が全く進まない。本当にこの祝福は弊害でしかない。
シェリーが苛立ちを感じていると、廊下をバタバタと走る音が聞こえてきたと思えば、バンと部屋の扉が開けたれた。
「フェクトス閣下!シェリーを勝手に連れて行くな!」
オルクスが文句を言いながら、入ってきた。
「どうしたのですオルクス。先ほどの試合を見ましたが、この2ヶ月で見違えるほど強くなりましたね。驚きましたよ」
フェクトス総統はシェリーから目線を外して、オルクスにニコニコと笑みを向けた。何度か会ったことのあるフェクトス総統の姿に戻ったような気がする。はぁ。とシェリーは思わずため息を出す。
「俺の質問の答えになってない!」
「ああ、そうですね。少し、確認したいことがあったのですよ」
フェクトス総統は再びシェリーに視線を向けるが、先程のシェリーに向ける視線と全く違っており、統治者の顔をしたフェクトス総統がシェリーの目の前にいた。
「次元の悪魔の出現についてお聞きしてもいいですか?」
「ダンジョンマスターから聞きましたか?」
シェリーの所に来る前後にユールクスはフェクトス総統の所に寄ったのだろう。
「ええ、ユールクス様から叱られてしまいましてね。現状を貴女から聞きたいと思ったのですよ」
現状の確認をされてもシェリーは全てを知っているわけではない。聖女として啓示を受ければその場に向かうが、悪魔の出現に対し必ずしも啓示があるとは限らない。
「現状と申しましても、私は私の知ることしか知りませんよ。」
「かまいません」
「そうですか。ラース公国で二度出現を認めています。一度目は頭部のない武力特化型の一体のみでした。そして、二度目は武力特化型と機動力特化の魔眼型。今回は怒気の誘発の魔眼だったようです」
シェリーの横でギリと音が聞こえた。しかし、シェリーは聞こえないふりをする。
「低級の悪魔が3体と聞きましたが、どうやって倒したのです?ああ、これは興味本位なだけです」
「どうやってですか?一体はカイルさんの一撃で、機動力特化の魔眼型は炎王にお願いしました。それも直ぐに片がついたようで、多分斬り伏せられたように見えました。3体目はディスタさんが倒したので詳しくは知りません」
「もしかして、ディスタと言うのは風竜ディスタですか?」
「竜人でしたが、どう呼ばれているかは知りません」
シェリーの返答にフェクトス総統は頭を抱えている。
「竜人と龍人だなんて参考にもならない」
その口からうわ言の様に愚痴がこぼれ落ちた。いきなりの次元の悪魔からの襲撃に対してどう対応したのか知りたかったのかもしれないが、この大陸に殆ど存在しない竜人が二人と種族自体が殆ど存在しない龍人が悪魔を倒したとしたら、それは参考にもならないだろう。
_______________
補足
アルテリカの火の結界の解除方法は、とある物を用いれば簡単に解除できる物となっております。ただ、それは一部の者にしか知らされていません。ですから、今回も試合が終われば直ぐに解除する予定ではありました。
『調子に乗りすぎた』
と。
「あなた達は何を遊んでいるのですか?そんな事すれば剣が保たないぐらいわかりませんか?」
結界を通って来たスーウェンが呆然とした二人に呆れた視線を向けていた。
「リオン、魔剣でも無いのに魔力を剣に込めるなど馬鹿のすることです。オルクスも同じ様に真似をするなんて、ご主人様は呆れて出ていってしまいましたよ」
スーウェンのその言葉に二人はシェリーがいた所に視線を向けるが、番の気配はそこにはなく、会場の外にあるようだ。
「やばい!置いていかれる」
オルクスは焦ったように出口に向かおうとし、リオンも慌ててオルクスの後を追う。スーウェンは焦っても結界に阻まれて出られないのにと思いながら後ろから付いていくのだった。
シェリーは今、フェクトス総統と向かい合っていた。会場の外に出たところで、フェクトス総統の遣いという人から呼び止められ、中央地区にあるフェクトス総統の仕事場に連れて来られてしまった。
目の前には珈琲が出され、焼き菓子も置かれている。
未だにシェリーは黒いフードを深く被っており、両隣にはカイルとグレイが座っていた。
「何か好みの物があるなら言ってください。何がいいですか?マドレーヌもありますし、チョコレートもありますよ」
ガタイのいい虎獣人がゴロゴロと喉を鳴らしながら、シェリーにお菓子を勧めている人物が、この国をまとめ上げているフェクトス総統閣下である。
シェリーの両隣からイライラという雰囲気が感じ取れる。やはり、ただの外套ごときでは、神の祝福を阻害できるはずもなかったのだ。
「お菓子はここにあるクッキーで構いません。それで、ここに呼ばれたご用件は何でしょうか?」
シェリーがここに呼ばれた用件を尋ねるが、フェクトス総統は『ああ』と言って立ち上がり、何かを取ってきてシェリーの前に出した。
「甘い物が駄目なら煎餅もありますよ」
と言って、丸い形の焼き煎餅が出てきた。これでは話が全く進まない。本当にこの祝福は弊害でしかない。
シェリーが苛立ちを感じていると、廊下をバタバタと走る音が聞こえてきたと思えば、バンと部屋の扉が開けたれた。
「フェクトス閣下!シェリーを勝手に連れて行くな!」
オルクスが文句を言いながら、入ってきた。
「どうしたのですオルクス。先ほどの試合を見ましたが、この2ヶ月で見違えるほど強くなりましたね。驚きましたよ」
フェクトス総統はシェリーから目線を外して、オルクスにニコニコと笑みを向けた。何度か会ったことのあるフェクトス総統の姿に戻ったような気がする。はぁ。とシェリーは思わずため息を出す。
「俺の質問の答えになってない!」
「ああ、そうですね。少し、確認したいことがあったのですよ」
フェクトス総統は再びシェリーに視線を向けるが、先程のシェリーに向ける視線と全く違っており、統治者の顔をしたフェクトス総統がシェリーの目の前にいた。
「次元の悪魔の出現についてお聞きしてもいいですか?」
「ダンジョンマスターから聞きましたか?」
シェリーの所に来る前後にユールクスはフェクトス総統の所に寄ったのだろう。
「ええ、ユールクス様から叱られてしまいましてね。現状を貴女から聞きたいと思ったのですよ」
現状の確認をされてもシェリーは全てを知っているわけではない。聖女として啓示を受ければその場に向かうが、悪魔の出現に対し必ずしも啓示があるとは限らない。
「現状と申しましても、私は私の知ることしか知りませんよ。」
「かまいません」
「そうですか。ラース公国で二度出現を認めています。一度目は頭部のない武力特化型の一体のみでした。そして、二度目は武力特化型と機動力特化の魔眼型。今回は怒気の誘発の魔眼だったようです」
シェリーの横でギリと音が聞こえた。しかし、シェリーは聞こえないふりをする。
「低級の悪魔が3体と聞きましたが、どうやって倒したのです?ああ、これは興味本位なだけです」
「どうやってですか?一体はカイルさんの一撃で、機動力特化の魔眼型は炎王にお願いしました。それも直ぐに片がついたようで、多分斬り伏せられたように見えました。3体目はディスタさんが倒したので詳しくは知りません」
「もしかして、ディスタと言うのは風竜ディスタですか?」
「竜人でしたが、どう呼ばれているかは知りません」
シェリーの返答にフェクトス総統は頭を抱えている。
「竜人と龍人だなんて参考にもならない」
その口からうわ言の様に愚痴がこぼれ落ちた。いきなりの次元の悪魔からの襲撃に対してどう対応したのか知りたかったのかもしれないが、この大陸に殆ど存在しない竜人が二人と種族自体が殆ど存在しない龍人が悪魔を倒したとしたら、それは参考にもならないだろう。
_______________
補足
アルテリカの火の結界の解除方法は、とある物を用いれば簡単に解除できる物となっております。ただ、それは一部の者にしか知らされていません。ですから、今回も試合が終われば直ぐに解除する予定ではありました。
0
お気に入りに追加
1,016
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!
杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!!
※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。
※タイトル変更しました。3/31
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる