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22章 獣人たちの騒がしい大祭
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『裏ダンジョンをご利用のお客様はこちらです。ご準備はお済みですか?』
先程とは違う添乗員姿のレイスの女性がシェリーとカイルの前に顕れた。ふよふよと浮いているレイスの女性の透けた制服に視線を固定しながらシェリーは頷く。
レイスの女性が小旗を持っていない方の手を赤レンガの外壁側に手を差し出すと、ぽっかりと黒い穴が空いた。
『気をつけて行ってらっしゃいませ』
小旗を振って送り出すレイスの女性を背にシェリーは裏ダンジョンの入口に入っていった。
シェリーは長く息を吐き出す。あの表の彼の世界のとある都市を真似たところより、魔物の巣と言っていい裏ダンジョンの方がまともに息が出来るというのは、未だに未練がましく心の何処かで願っているのだろう。あの謎の生命体が見せた光景は偽物で今も夢を見続けているのではないかと。
いい加減、認めなければならないこともわかっている。頭ではわかってはいるが、いつも心が邪魔をする。
「シェリー。大丈夫?」
心配そうな顔でカイルはシェリーを見ている。
「問題ありません。それで私は何をするのですか?」
シェリーはここでの役割を確認した。ついてきて欲しいと言われたが、ここは裏ダンジョンだ言葉通りではないだろう。
「道案内をお願いしようかな?」
そう言いながらカイルは大剣を横に向かって一振りする。そこには胴と首が離れながら倒れて行こうとする獣のような姿の魔物がいた。
「この前来た感じたと魔物には対処できそうだけど、道が複雑すぎて迷いそうだったからね」
「わかりました」
そのシェリーの言葉を聞くとカイルは身を返しながら大剣を下から上に振り上げ、魔物の悲鳴と同時に駆け出した。
表ダンジョン Side
「以前も思ったがあの1階層はなんだ?」
リオンが刀を振り下ろしながら聞いてきた。しかし、その答えを持つものはおらず、誰も答えない。
「わかりませんが、異質ではありましたね」
スーウェンが炎の魔術を放ちながら言う。
「エルフでもわからないのか?」
リオンが不思議そうに尋ねる。
「エルフでもって、私もわからないモノはわかりませんよ。ただ、異質なモノといえば炎国も異質ですよね」
「そうか?」
「この大陸の国々と比べるとかなり変わった文化をお持ちですよね」
「あ!」
オルクスが何かを思い出したかのように声を上げた。その足元には焼け焦げた黒い塊が落ちている。
「オルクスどうしたんだ?」
グレイが何かあったのかと振り返る。
「鍛冶師ファブロの剣!欲しいって言ったのにまだ行けてない!」
「お前なぁ」
炎国の事を話していたのでオルクスが思い出してしまったのだろう。呆れるようなグレイの声が聞こえる。
「そう言えば世界には時々異質なモノが存在していますね」
話を戻すようにスーウェンが言う。
「炎国もそうですが、この首都ミレーテもそうですね。このような街並みは大陸中を探しても何処にもありません」
スーウェンは何かをためらう様に今まで魔術を紡いていた手を止めた。言葉にするのを戸惑っているようにもみえる。
「この世界に時々、異分子が生まれるそうです。その者たちは『変革をもたらす者』と言われています」
「『変革をもたらす者』だと?」
「ええ、先日お会いしたユーフィア・ナヴァルさんがそうです。エルフ族は昔からそのような者達を見つけ次第排除してきました」
「え?排除?」
グレイが驚いたように声を上げるが、剣を振る動作にブレはなく、確実に魔物を仕留めている。
「私の予想ではありますが、初代炎王は『変革をもたらす者』ではないのですか?」
「ああそうだ」
リオンは少し戸惑いながら話しているスーウェンを横目で見て答えた。そんなリオンの横にオルクスがいつの間にが現れて言葉を放つ。
「初代様を殺すのか?」
スーウェンを見る視線に殺気を乗せている。そんな視線を受けたスーウェンは思わず一歩下がり首を横に振る。
「いいえ。多分、それは過去に起こったことだと思います。オリビアさんがおっしゃっていた言葉からそうではないのでしょうか?」
「ああ」
スーウェンの問いにリオンは肯定を示す。
「私が知るのはユーフィア・ナヴァルさんの時のみです。父の態度を見てわかったと思いますが、下手に手を出してしてやられたのはエルフ側なのです」
その時の事を思い出したのかスーウェンの顔色が悪くなっている。
「『変革をもたらす者』は世界の異分子だと言われています。なぜならこの世界ではない記憶を持っているからです。ですから、1階層の事を知りたければ、初代炎王にお聞きすればいいと思います」
「初代様がこの世界ではない記憶を持っている?」
リオンは考えるように首を傾げている。が、そこにグレイから文句が振ってきた。
「お前ら!話すのはいいが、手を動かせ!俺だけじゃ倒しきれないのはわかっているだろ!」
32階層の神殿のような建物の中にグールがひしめき合っている。現在地は32階層に入ったばかりなので、グールは正面にしかいない。それを前衛3人、後衛1人でたおしていたのだが、3人が話を始め、手が止まってしまったので、前衛のグレイ1人が残されてしまった。それはブチギレもするだろう。
「悪い悪い」
本当に悪いと思っているのかと疑問に思ってしまうほど、軽い謝罪でオルクスが白い稲妻を纏って駆け出した。
先程とは違う添乗員姿のレイスの女性がシェリーとカイルの前に顕れた。ふよふよと浮いているレイスの女性の透けた制服に視線を固定しながらシェリーは頷く。
レイスの女性が小旗を持っていない方の手を赤レンガの外壁側に手を差し出すと、ぽっかりと黒い穴が空いた。
『気をつけて行ってらっしゃいませ』
小旗を振って送り出すレイスの女性を背にシェリーは裏ダンジョンの入口に入っていった。
シェリーは長く息を吐き出す。あの表の彼の世界のとある都市を真似たところより、魔物の巣と言っていい裏ダンジョンの方がまともに息が出来るというのは、未だに未練がましく心の何処かで願っているのだろう。あの謎の生命体が見せた光景は偽物で今も夢を見続けているのではないかと。
いい加減、認めなければならないこともわかっている。頭ではわかってはいるが、いつも心が邪魔をする。
「シェリー。大丈夫?」
心配そうな顔でカイルはシェリーを見ている。
「問題ありません。それで私は何をするのですか?」
シェリーはここでの役割を確認した。ついてきて欲しいと言われたが、ここは裏ダンジョンだ言葉通りではないだろう。
「道案内をお願いしようかな?」
そう言いながらカイルは大剣を横に向かって一振りする。そこには胴と首が離れながら倒れて行こうとする獣のような姿の魔物がいた。
「この前来た感じたと魔物には対処できそうだけど、道が複雑すぎて迷いそうだったからね」
「わかりました」
そのシェリーの言葉を聞くとカイルは身を返しながら大剣を下から上に振り上げ、魔物の悲鳴と同時に駆け出した。
表ダンジョン Side
「以前も思ったがあの1階層はなんだ?」
リオンが刀を振り下ろしながら聞いてきた。しかし、その答えを持つものはおらず、誰も答えない。
「わかりませんが、異質ではありましたね」
スーウェンが炎の魔術を放ちながら言う。
「エルフでもわからないのか?」
リオンが不思議そうに尋ねる。
「エルフでもって、私もわからないモノはわかりませんよ。ただ、異質なモノといえば炎国も異質ですよね」
「そうか?」
「この大陸の国々と比べるとかなり変わった文化をお持ちですよね」
「あ!」
オルクスが何かを思い出したかのように声を上げた。その足元には焼け焦げた黒い塊が落ちている。
「オルクスどうしたんだ?」
グレイが何かあったのかと振り返る。
「鍛冶師ファブロの剣!欲しいって言ったのにまだ行けてない!」
「お前なぁ」
炎国の事を話していたのでオルクスが思い出してしまったのだろう。呆れるようなグレイの声が聞こえる。
「そう言えば世界には時々異質なモノが存在していますね」
話を戻すようにスーウェンが言う。
「炎国もそうですが、この首都ミレーテもそうですね。このような街並みは大陸中を探しても何処にもありません」
スーウェンは何かをためらう様に今まで魔術を紡いていた手を止めた。言葉にするのを戸惑っているようにもみえる。
「この世界に時々、異分子が生まれるそうです。その者たちは『変革をもたらす者』と言われています」
「『変革をもたらす者』だと?」
「ええ、先日お会いしたユーフィア・ナヴァルさんがそうです。エルフ族は昔からそのような者達を見つけ次第排除してきました」
「え?排除?」
グレイが驚いたように声を上げるが、剣を振る動作にブレはなく、確実に魔物を仕留めている。
「私の予想ではありますが、初代炎王は『変革をもたらす者』ではないのですか?」
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リオンは少し戸惑いながら話しているスーウェンを横目で見て答えた。そんなリオンの横にオルクスがいつの間にが現れて言葉を放つ。
「初代様を殺すのか?」
スーウェンを見る視線に殺気を乗せている。そんな視線を受けたスーウェンは思わず一歩下がり首を横に振る。
「いいえ。多分、それは過去に起こったことだと思います。オリビアさんがおっしゃっていた言葉からそうではないのでしょうか?」
「ああ」
スーウェンの問いにリオンは肯定を示す。
「私が知るのはユーフィア・ナヴァルさんの時のみです。父の態度を見てわかったと思いますが、下手に手を出してしてやられたのはエルフ側なのです」
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「お前ら!話すのはいいが、手を動かせ!俺だけじゃ倒しきれないのはわかっているだろ!」
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