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21章 聖女と魔女とエルフ

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 族長の不調にこの場に留まることを良しとしなかった者達によって強制的に会談は中断された。さっさとこの場を去ろうとするエルフ達にシェリーはユーフィアから小箱が入った鞄を受け取り、怯えの見える族長に近づく。

 その前に藍色を持つエルフが立ちふさがるが、シェリーは構わず鞄を差し出す。

「末の御子様の薬代の代わりとして、御子息を薬師と名乗る者に差し出したそうですけど、本当は彼らが望んでいたのはレイグレシア・シュエーレン猊下だったそうですよ」

 シェリーからは藍色のエルフが邪魔で族長の姿を見ることはできないが、そのシェリーの言葉に目の前の藍色のエルフがハッとした表情をする。何か心当たりでもあるのだろう。

「しかし、あなた方が白き神と崇めている神が少し手を加えたことで、レイグレシア・シュエーレン猊下からスーウェンザイル・シュエーレンを交渉材料にするようにと意思の改変をしたそうです。良かったですね」

 何が良かったのかシェリーは言わない。ただ、藍色のエルフは片膝を付き恭しくシェリーから鞄を受け取る。彼にはシェリーの言わんとしている事が理解できたのだろう。
 そして、彼らはの姿は扉の向こうに消えていった。



「それで、君は何をしたのかな?」

 後ろからイーリスクロムが近づいてきた。あのエルフの族長が怯えと言っていい表情を見せたのだ。どう見てもシェリーが何かをしたと思われても仕方がない状況なのかもしれない。
 シェリーは振り向いてイーリスクロムと向き合う。

「私は何もしていませんよ。まぁ、言葉で脅しましたが」

 シェリーの言葉に理解できないと首を横に振るイーリスクロム。

「私ではなく、同居人の魔導師をブチ切れさせたレイグレシア・シュエーレン猊下に問題があったと思われます」

 悪いのはシェリーではなく、エルフの族長だとイーリスクロムに訴えるが、イーリスクロムはシェリーのその言葉よりも別のところで引っかかったようで。

「オリバーを怒らせた!やめてくれ。国が滅んでしまうじゃないか」

「安心してください。その時は魔導は一切使わずにボコボコにしてましたから」

 シェリーは安心して欲しいと言葉にしているが、あのオリバーの行動は一種の拷問だろ表現しても過言ではないだろう。
 そして、シェリーの言葉を否定するような言葉が投げかける。

「あれのどこが安心できるっていうんだ?ナオフミとオリバーは怒らすなと言うのが暗黙の了解だって知らないのか?」

 あの場にいて一部始終を見ていたクストからの反論だった。

「知りませんよ。そんなもの」

 討伐戦を共にしてきた者達にとって常識なのかもしれないが、シェリーの知ったことではない。

「はぁ。で、今回の交渉は決裂ってことか。君の要望だけが通ったって感じだね。あの液体は何だったのかな?」

 イーリスクロムがため息を付きながらシェリーに聞いてきた。それに対してシェリーはクストを見る。

「ユーフィアさんの同席の許可のついでに説明しておいてくださいと言いましたよね。何度か面会許可を願っても受け入れてもらえなかったからと」

「説明はした」
「君、その言い方はまるで僕が悪いみたいじゃないか」

 クストとイーリスクロムから同時に言われたシェリーはため息を吐く。
 ユーフィアのことになるとダメダメ軍人に成り下がるクストに説明を頼んだのが間違いだったとシェリーは理解した。きっと同席をするということのみを伝えたのだろう。

 しかし、今回は何もかもが急すぎた。こういう場はもう少し余裕をもって設けてほしい。
 改めて、シェリーはイーリスクロムに向かって言う。

「8年前にそちらの師団長さんから報告があった件になります。眠り病にかかった者に青い薬を与える代わりに身近な者を借金奴隷として連れ去っていくという事柄を覚えていますか?」

「覚えているよ。何も知らなかった事に憤りを感じる事件だった・・・いや、今も戻って来ていない人がいるから過去のことではないね」

「ええ、その青い薬の代わりになるものをユーフィアさんに作ってもらいました。それを大陸全土にあるエルフ族が管轄する教会で配ってもらうというものです」

「とてつもなく壮大な計画だね。普通一国だけで終わるような話だと思うけど?」

 シェリーの言葉に遠い目をするイーリスクロム。しかし、シェリーは不快そうにイーリスクロムを睨む。

「一国?それに何の意味があるのですか?それだと結局、他の国の奴隷が増えるだけですよね。マルス帝国に何の痛手にもならない。」

「なんか、着々と君の計画が進められていっていることに驚きを隠せないよ。モルテの件でもそうだけどね。まぁ、奴隷としてこの国を去る国民が居なくなる事には一国の王として感謝をする」


 そう言って、イーリスクロムはシェリーに頭を下げた。一国の国王として今はただの平民の立場でしか無いシェリーに頭を下げたのだった。
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