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21章 聖女と魔女とエルフ

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 ニールのお小言をオリビアのエルフに対する挑発的な言葉によって回避したシェリーはさっさと家に戻ることにした。
 家の門を潜ったところで玄関前に人影があることに気がつく。よく見ると青い髪に青い三角の耳が付いていることから、第6師団の副師団長であるルジオーネだと思われる後ろ姿だった。

 その人物もこちらに気がついたようで、振り返りこちらに歩いてきた。

「誰も出てこないので、どうしようかと困っていたのですが、出掛けていたのですか」

 こちらに近づきながら青狼獣人であるルジオーネが言ってきた。

「師団長さんは今日は来ていませんよ」

 シェリーは別の用があって訪ねて来ているであろうルジオーネに敢えて、昨日2回も来たクストは来ていないと言った。流石に2度も訪ねて来られてウザかったのだ。

「団長ですか・・・昨日は追い返したそうですね。こちらとしても一昨日の詳細を知っておかないと王都を守る側としては困るのですよ」

「被害は出ていないので問題ないのでは?副師団長さんはそんな事をいいに来たのですか?」

 シェリーの言葉にルジオーネのコメカミがピクリと動く。

「どこが問題がないのですか?毎回何かと騒がせている貴女がそう言い切っている事自体が問題なのでは?それから招待状です」

 ルジオーネはシェリーに一通の封筒を差し出してきた。それは白い封筒に金縁の装飾が描かれており、宛名は次期聖女宛になっていた。そこは普通なら名前を記すべきではないのだろうか。

 裏に返すと蝋印も差出人の名前も無かった。なんだこれは?

「これは誰からですか?」

 シェリーはこの怪しい封筒の裏をルジオーネに見せながら尋ねる。

「レイグレシア・シュエーレン猊下からですよ」

 ルジオーネから出た名前は教会を纏め上げる教皇であり、エルフ族の長でもある者の名だった。
 その名前にシェリーは不快感を示し、後ろにいたスーウェンに封筒を手渡す。封筒を受け取ったスーウェンは封筒を開けずに中を透かすように見る。

「何か術が掛けられているようです。転移魔術だと思われます。多分、開封すると特定の場所に飛ばされるのでしょう」

 エルフ族が使いそうな手だと、シェリーは目を細めて金縁の封筒を見る。恐らくイーリスクロムはエルフ側に聖女情報を何も与えていなかったのだろう。
 与えていればこのような事は無駄だと理解できたであろうに、イーリスクロムは人が悪い。

 そして、相も変わらずエルフ族は聖女と言うものを手に入れようと強硬手段を使ってくる。1000年前、暴君に国を滅ぼされるまでに至った事をまた繰り返そうとしている。何も変わらない愚かな種族だ。

「それで、3日後の予定は決められましたか?それものエルフ側から取りやめると連絡がありましたか?」

 シェリーと封筒に目線を向けていたルジオーネに聞いて見ると、ルジオーネは驚いた様に目を見開く。

「流石に取りやめるとは言ってきませんでしたが、都合がつかなくなったそうです。・・・そうですか。転移で聖女を強制連行すれば、会談自体の意味がなくなりますね」

 ルジオーネはシェリーとスーウェンとのやり取りの中でシェリーの言わんとしている事を理解してくれたようだ。

 シェリーはスーウェンから封筒を受け取り、ルジオーネに差し出す。

「ルジオーネさん、『聖女候補は差出人が書かれておらず、怪しい魔術が施された物は受け取れないと言っていた』と言って返却してもらえません?」

「わかりました。この事は国王陛下に報告させていただきます。」

 封筒を渡されたルジオーネはそう言って、シェリーの横を通って帰っていく。
 この事がエルフ側に伝われば慌てて日程調整をしてくることだろうとシェリーは思いながら、玄関扉を開け中に入っていった。




 結局、あれから3日後にシェリーは王城に来ていた。シェリーの返答に聖女を誘拐まがいな事をして連れ去ろうと考えていたエルフ側は焦り、言っていたことを覆して、再度、予定していた日に会談する場を設けようと言ってきたのだ。

 そして、シェリーは、いやシェリーとそのツガイたちは王城の一室に案内されていた。

「どんな話になるんだろうね」

 シェリーを膝の上に乗せているカイルが言った。

「どうせ、ろくでも無い話だろう?」

 シェリーの横でお茶を飲んいるオルクスが言った。

「父が本当にすみません」

 シェリーの向かい側で項垂れているスーウェンが言った。

「初代様もエルフ族にはいい印象を持っていなかったな」

 項垂れているスーウェンの横に座っているリオンが言った。

「今思ったんだたけど」

 オルクスと反対側に座っているグレイがボソリ言った。そんなグレイに4人の視線が向けられる。

「シェリーの見た目が変わってしまったから余計にややこしくならないか?」

 エルフ族の族長のボコられる姿を目の前で見ていた4人の思いが重なった。無理矢理にでもオリバーを連れてくれば良かったと。

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