番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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21章 聖女と魔女とエルフ

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 大事おおごと。確かに大事おおごとの話ではある。マルス帝国がどの程度手を伸ばしているかはわからないが、規模的にはこの大陸中と言っていいだろう。

「そもそもだ。ナヴァル夫人は何を作ろうとしているんだ?あの方は技術者であって、薬師ではないだろう」

「眠り病の薬ですよ。教会を通してばら撒くつもりです。その為には3日後までにある程度、用意してもらわないと困りますので」

「おい、その言い方だとシェリーが一枚噛んでいるように聞こえるが?」

 ニールのその言葉にシェリーは普段見られない満面の笑みを浮かべ

「ええ、帝国を潰す第一歩ですから」

 そう言い切った。その言葉を聞いたニールは背もたれに重心を掛け、天井を仰ぎ見た。そして、ブツブツと独り言を漏らしている。『一個人で国を潰すなんて本気だったのか』なんて言葉が聞こえてきた。

「もし、武力が必要ならお声をかけてくださいませ。王后様の仮は返さないといけませんから」

 今までニールの横で黙って聞いていたオリビアがシェリーに言ってきた。炎国の王后であるリリーナがマルス帝国の手の者によって死の呪いと言っていいモノに侵されたことはオリビアに取って腹立たしい事だったようだ。

 そんなオリビアに対してシェリーはいつもの無表情に戻り、声を掛ける。

「必要ならお声を掛けさせていただきます」

「ええ、必ずお声をくださいませ。すべてを灰燼に帰すまで力を振るって差し上げます」

 そう言ってオリビアは口が裂ける程の笑みを見せた。
 美人の鬼族の笑みは恐ろしいなと、シェリーはニールに視線を向けるとそんなオリビアを暖かい目で見ていた。

 ああ、ツガイというものに囚われるとニールもそんな顔をするのだなと思いながら、シェリーはニールに言う。

「今回の依頼料は半額でいいので、帰っていいですか?」

 シェリーのその言葉にニールは眉間にシワを寄せながら

「その前に何をしようとしているのか話せ。シェリーが動くと被害が酷くなる」

 と確認してきた。シェリーが関わる事柄を把握しておきたいのだろう。

「失礼ですね。今回はただ眠り病の薬を教会を通じて配るだけです。それ以上でもそれ以下でもないですよ」

「本当にそれだけか?教会ということはエルフが関わってくるのだろう。それだけでも問題になりそうな気がするが?」

 ニールはシェリーの後ろにいるスーウェンに視線を向ける。ニールが教会にエルフにシェリーが関わることに否定的な態度を示していると、シェリーはいつも通り淡々と言う。

「手遅れです。中央教会のエルフの方々は(謎の生命体によって)再起不能になりましたし、族長を(オリバーが)ボコっていましたし、最終的に(オリバーが)脅迫紛いに約束を取り付けましたから」

 シェリーの言葉を聞いたニールは顔を歪めカウンターに手を叩きつけ、立ち上がり、シェリーにカウンター越しに詰め寄る。

「ちょっと待て!なぜ、もう問題を起こしているんだ!」

「多少は仕方がないと思います」

「多少?何処が多少なんだ!おい、カイルこれは本当の話か?問題ばかり起こすシェリーを止められなかったのか?」

 ニールはシェリーの隣でニコニコと二人の話を聞いていたカイルに視線を向ける。
 ニールから矛先を向けられたカイルは心外だという顔をする。

「仕方がなかったと思うよ」

 カイルもシェリーと同じ答えを口にする。それを聞いたニールはカイルの言葉に、呆れるように目の前のシェリーのツガイを見る。
 一つ大きなため息を吐き、ニールは椅子に座り、独り言のような愚痴をこぼした。『絶対に普段のカイルなら、そんな勝手な事を許さないだろうに、シェリーの側にいる弊害か。絶対にエルフ族に喧嘩を売っているよな』なんて事を言っている。
 頭が痛いと言わんばかりに、右手で頭を押さえているニールにオリビアが声を掛ける。

「ニール様がエルフ如きに頭を悩ませることはありませんわ。所詮我ら一族を前に手を引いた者達です。恐るに足りません。」

 オリビアのその言葉にニールは『そうか』と理解を示した。先程まで歪んだ顔をしていたのにも関わらず、オリビアにニコリと微笑む。

 先程のニールの独り言をそのまま返したいぐらいだとシェリーは思う。普段のニールなら自分が納得できるまで、シェリーを責めるのに、番であるオリビアの一言に理解を示した。
 普通ならありえないことだ。それもオリビアはエルフ族に対して喧嘩を売っているかのような言葉を言っているのだ。

 あのニールがだ。本当に番と言うものに絆されるということは恐ろしいものだと、シェリーは改めて認識をしたのだった。

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