268 / 796
21章 聖女と魔女とエルフ
257
しおりを挟む
大事。確かに大事の話ではある。マルス帝国がどの程度手を伸ばしているかはわからないが、規模的にはこの大陸中と言っていいだろう。
「そもそもだ。ナヴァル夫人は何を作ろうとしているんだ?あの方は技術者であって、薬師ではないだろう」
「眠り病の薬ですよ。教会を通してばら撒くつもりです。その為には3日後までにある程度、用意してもらわないと困りますので」
「おい、その言い方だとシェリーが一枚噛んでいるように聞こえるが?」
ニールのその言葉にシェリーは普段見られない満面の笑みを浮かべ
「ええ、帝国を潰す第一歩ですから」
そう言い切った。その言葉を聞いたニールは背もたれに重心を掛け、天井を仰ぎ見た。そして、ブツブツと独り言を漏らしている。『一個人で国を潰すなんて本気だったのか』なんて言葉が聞こえてきた。
「もし、武力が必要ならお声をかけてくださいませ。王后様の仮は返さないといけませんから」
今までニールの横で黙って聞いていたオリビアがシェリーに言ってきた。炎国の王后であるリリーナがマルス帝国の手の者によって死の呪いと言っていいモノに侵されたことはオリビアに取って腹立たしい事だったようだ。
そんなオリビアに対してシェリーはいつもの無表情に戻り、声を掛ける。
「必要ならお声を掛けさせていただきます」
「ええ、必ずお声をくださいませ。すべてを灰燼に帰すまで力を振るって差し上げます」
そう言ってオリビアは口が裂ける程の笑みを見せた。
美人の鬼族の笑みは恐ろしいなと、シェリーはニールに視線を向けるとそんなオリビアを暖かい目で見ていた。
ああ、ツガイというものに囚われるとニールもそんな顔をするのだなと思いながら、シェリーはニールに言う。
「今回の依頼料は半額でいいので、帰っていいですか?」
シェリーのその言葉にニールは眉間にシワを寄せながら
「その前に何をしようとしているのか話せ。シェリーが動くと被害が酷くなる」
と確認してきた。シェリーが関わる事柄を把握しておきたいのだろう。
「失礼ですね。今回はただ眠り病の薬を教会を通じて配るだけです。それ以上でもそれ以下でもないですよ」
「本当にそれだけか?教会ということはエルフが関わってくるのだろう。それだけでも問題になりそうな気がするが?」
ニールはシェリーの後ろにいるスーウェンに視線を向ける。ニールが教会にエルフにシェリーが関わることに否定的な態度を示していると、シェリーはいつも通り淡々と言う。
「手遅れです。中央教会のエルフの方々は(謎の生命体によって)再起不能になりましたし、族長を(オリバーが)ボコっていましたし、最終的に(オリバーが)脅迫紛いに約束を取り付けましたから」
シェリーの言葉を聞いたニールは顔を歪めカウンターに手を叩きつけ、立ち上がり、シェリーにカウンター越しに詰め寄る。
「ちょっと待て!なぜ、もう問題を起こしているんだ!」
「多少は仕方がないと思います」
「多少?何処が多少なんだ!おい、カイルこれは本当の話か?問題ばかり起こすシェリーを止められなかったのか?」
ニールはシェリーの隣でニコニコと二人の話を聞いていたカイルに視線を向ける。
ニールから矛先を向けられたカイルは心外だという顔をする。
「仕方がなかったと思うよ」
カイルもシェリーと同じ答えを口にする。それを聞いたニールはカイルの言葉に、呆れるように目の前のシェリーのツガイを見る。
一つ大きなため息を吐き、ニールは椅子に座り、独り言のような愚痴をこぼした。『絶対に普段のカイルなら、そんな勝手な事を許さないだろうに、シェリーの側にいる弊害か。絶対にエルフ族に喧嘩を売っているよな』なんて事を言っている。
頭が痛いと言わんばかりに、右手で頭を押さえているニールにオリビアが声を掛ける。
「ニール様がエルフ如きに頭を悩ませることはありませんわ。所詮我ら一族を前に手を引いた者達です。恐るに足りません。」
オリビアのその言葉にニールは『そうか』と理解を示した。先程まで歪んだ顔をしていたのにも関わらず、オリビアにニコリと微笑む。
先程のニールの独り言をそのまま返したいぐらいだとシェリーは思う。普段のニールなら自分が納得できるまで、シェリーを責めるのに、番であるオリビアの一言に理解を示した。
普通ならありえないことだ。それもオリビアはエルフ族に対して喧嘩を売っているかのような言葉を言っているのだ。
あのニールがだ。本当に番と言うものに絆されるということは恐ろしいものだと、シェリーは改めて認識をしたのだった。
「そもそもだ。ナヴァル夫人は何を作ろうとしているんだ?あの方は技術者であって、薬師ではないだろう」
「眠り病の薬ですよ。教会を通してばら撒くつもりです。その為には3日後までにある程度、用意してもらわないと困りますので」
「おい、その言い方だとシェリーが一枚噛んでいるように聞こえるが?」
ニールのその言葉にシェリーは普段見られない満面の笑みを浮かべ
「ええ、帝国を潰す第一歩ですから」
そう言い切った。その言葉を聞いたニールは背もたれに重心を掛け、天井を仰ぎ見た。そして、ブツブツと独り言を漏らしている。『一個人で国を潰すなんて本気だったのか』なんて言葉が聞こえてきた。
「もし、武力が必要ならお声をかけてくださいませ。王后様の仮は返さないといけませんから」
今までニールの横で黙って聞いていたオリビアがシェリーに言ってきた。炎国の王后であるリリーナがマルス帝国の手の者によって死の呪いと言っていいモノに侵されたことはオリビアに取って腹立たしい事だったようだ。
そんなオリビアに対してシェリーはいつもの無表情に戻り、声を掛ける。
「必要ならお声を掛けさせていただきます」
「ええ、必ずお声をくださいませ。すべてを灰燼に帰すまで力を振るって差し上げます」
そう言ってオリビアは口が裂ける程の笑みを見せた。
美人の鬼族の笑みは恐ろしいなと、シェリーはニールに視線を向けるとそんなオリビアを暖かい目で見ていた。
ああ、ツガイというものに囚われるとニールもそんな顔をするのだなと思いながら、シェリーはニールに言う。
「今回の依頼料は半額でいいので、帰っていいですか?」
シェリーのその言葉にニールは眉間にシワを寄せながら
「その前に何をしようとしているのか話せ。シェリーが動くと被害が酷くなる」
と確認してきた。シェリーが関わる事柄を把握しておきたいのだろう。
「失礼ですね。今回はただ眠り病の薬を教会を通じて配るだけです。それ以上でもそれ以下でもないですよ」
「本当にそれだけか?教会ということはエルフが関わってくるのだろう。それだけでも問題になりそうな気がするが?」
ニールはシェリーの後ろにいるスーウェンに視線を向ける。ニールが教会にエルフにシェリーが関わることに否定的な態度を示していると、シェリーはいつも通り淡々と言う。
「手遅れです。中央教会のエルフの方々は(謎の生命体によって)再起不能になりましたし、族長を(オリバーが)ボコっていましたし、最終的に(オリバーが)脅迫紛いに約束を取り付けましたから」
シェリーの言葉を聞いたニールは顔を歪めカウンターに手を叩きつけ、立ち上がり、シェリーにカウンター越しに詰め寄る。
「ちょっと待て!なぜ、もう問題を起こしているんだ!」
「多少は仕方がないと思います」
「多少?何処が多少なんだ!おい、カイルこれは本当の話か?問題ばかり起こすシェリーを止められなかったのか?」
ニールはシェリーの隣でニコニコと二人の話を聞いていたカイルに視線を向ける。
ニールから矛先を向けられたカイルは心外だという顔をする。
「仕方がなかったと思うよ」
カイルもシェリーと同じ答えを口にする。それを聞いたニールはカイルの言葉に、呆れるように目の前のシェリーのツガイを見る。
一つ大きなため息を吐き、ニールは椅子に座り、独り言のような愚痴をこぼした。『絶対に普段のカイルなら、そんな勝手な事を許さないだろうに、シェリーの側にいる弊害か。絶対にエルフ族に喧嘩を売っているよな』なんて事を言っている。
頭が痛いと言わんばかりに、右手で頭を押さえているニールにオリビアが声を掛ける。
「ニール様がエルフ如きに頭を悩ませることはありませんわ。所詮我ら一族を前に手を引いた者達です。恐るに足りません。」
オリビアのその言葉にニールは『そうか』と理解を示した。先程まで歪んだ顔をしていたのにも関わらず、オリビアにニコリと微笑む。
先程のニールの独り言をそのまま返したいぐらいだとシェリーは思う。普段のニールなら自分が納得できるまで、シェリーを責めるのに、番であるオリビアの一言に理解を示した。
普通ならありえないことだ。それもオリビアはエルフ族に対して喧嘩を売っているかのような言葉を言っているのだ。
あのニールがだ。本当に番と言うものに絆されるということは恐ろしいものだと、シェリーは改めて認識をしたのだった。
0
お気に入りに追加
1,023
あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。
鍋
恋愛
男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。
実家を出てやっと手に入れた静かな日々。
そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。
※このお話は極端なざまぁは無いです。
※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。
※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。
※SSから短編になりました。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる