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21章 聖女と魔女とエルフ
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クストの言葉が聞こえていたのか、隣からガタリと物音が聞こえた。隣の部屋にいるスーウェンが反応したのだろう。
「この前、可哀想な事になっていたわね」
ユーフィアが遠い目をして言っている。あの惨状を目の前で見てしまえば、誰であっても可哀想に思えてくるだろう。
プライドも身体的にもボロボロにされたあの姿を見てしまえば。
「取り敢えず4日後の事が決まれば連絡を入れます。その時に出来上がった薬を持って来ていただけたらと思っています」
そうユーフィアに言い、エトワール草を一部渡し、帰ってもらった。
ユーフィアとクストが部屋を出ていったあと、彼らの後ろに控えていたマリアから、帰り際に一通の手紙を渡された。一言「族長からです」と言われ、差出人を見るとシド総帥からだった。マリアがわざわざ族長からと言ったことから金狼族の長としての手紙なのだろう。
手紙は後で確認するとして、シェリーは遅くなってしまった夕食を作るのにキッチンへ戻っていった。
シェリーは息苦しさで、目を覚ます。窓の外は夜が明けようと空が白じんでいた。起きるには少々早い時間に目が覚めてしまった。
息苦しさの原因を見てみれば、黄色と黒の斑の髪が胸に埋まっていたので、シェリーはスキルを使って、斑の髪を掴み引き剥がし、ベッドから蹴り落す。
今日は朝からギルドに顔を出さなければならなくなったなと思いながら、息苦しさから解放され、二度寝をしようと布団を引き寄せれば、後ろからの圧迫感が増した。
今日は誰だと振り返り睨みつければ、赤い髪が見えた。グレイのようだ。
「もう少し寝たいのですが?」
「うん」
そう言いながら、グレイの力が強まっている。
「力を弱めてもらえません?」
そう言うと少し力が緩んだが、二度寝の微睡みに沈む感じではなくなってしまった。ギシリとベッドが軋んだと思えば、オルクスが定位置に戻って来ていた。
シェリーはため息を吐き出す。寝れないのなら起きるかと体を起こそうすれば、動くことができない。
「シェリー。まだ早いからもう少し寝るといいよ」
オルクスが上目遣いで見上げてきた。
「この状態で寝られるとでも?」
オルクスとグレイに挟まれ、圧迫感が増している中、二度寝出来る状態ではないとシェリーは言うが、オルクスは答えず、シェリーに埋もれていった。
再びオルクスを引き剥がそうとすれば腕がグレイに抱かれたままになっているので、動く事ができない。
「ちっ」
思わず舌打ちが出る。その舌打ちに後ろにいたグレイがビクリと動いた。
「シェリー。嫌わないで、シェリーに嫌われたら生きてられない」
後ろから、蚊の鳴くような声でグレイが言ってきた。多分ここ数日のシェリーの態度の事を言っているのだろう。
最低限のことには対応するが、殆どが塩対応で返している。しかし、思い返してみるがシェリーの対応はあまり変わっていないと思う。
「シェリー、爺様は何を言ってきたんだ?」
グレイの言葉に答えないでいると、今度は別の事を聞いてきた。昨日、マリアから受け取った手紙が気になったのだろう。
「それですか。大公閣下の第3夫人が出戻って来たそうで、シド総帥にラースの内情を話されたそうです。簡単に言うと、ミゲルロディアに番が居たというのはどういう事か、説明に来いという内容でした。面倒なのでグレイさん行ってきてくれません?「嫌だ」」
グレイは被せるように否定してきた。しかし、説明しろと言われても第3夫人が知っていることぐらいしか知らないし、息子であるグレイが行くほうが面倒がないはずだ。
そもそもだ。なぜ、この事をシェリーに聞いてきたのだ。普通なら、オーウィルディア大公代理に聞くべきだろう。聞けない理由でもあるのだろうか。
やはり、このまま二度寝することはできなさそうなので、シェリーは身を捩り、二人の拘束から離れようとするがびくとも動かない。
「起きたいのですが」
「まだ、早いから大丈夫」
「もう少しこのままがいい」
オルクスとグレイからシェリーの要望は却下されてしまった。シェリーはため息を吐き、この状態はいつまで続くのだろうと考えながら時間が過ぎるのを待つのであった。
「足りないってどういう事だ?」
冒険者ギルドの一角にある特殊依頼の受付に座っているニールから目の前にいるシェリーに対して出た言葉だ。
ニールの前には密封された箱が置かれている。中身は依頼を請けたエトワール草50本だが、箱の中には30本しか入っていない。
「昨日、ユーフィアさんがいらしたので、20本は先に渡してあります」
「おい、何勝手な事をしているんだ」
確かにギルドとして仲介役を担っているが、個人で直接取り引きをしてしまったら、ギルドとして意味が無くなってしまう。
ニールに睨まれているシェリーはいつもどおり淡々と答える。
「3日後までにある程度作ってもらわなければならなかったので、渡しました」
「いいか。これはギルドが請け負った依頼だ。それも相手はナヴァル公爵夫人だ。シェリーが勝手に采配していいことじゃない。3日後に何があるかは知らんが、後20本きちんと揃えて持って来い」
ニールが言っているのは正論だ。シェリーは舌打ちを漏らし、反論する。
「ちっ。ニールさん、これは今後薬が世界中に行き渡るかどうかのことなのです。文句は急遽予定を入れてきた。クソ狐に言ってください」
「なんでそんな大事な話になるんだ?」
「この前、可哀想な事になっていたわね」
ユーフィアが遠い目をして言っている。あの惨状を目の前で見てしまえば、誰であっても可哀想に思えてくるだろう。
プライドも身体的にもボロボロにされたあの姿を見てしまえば。
「取り敢えず4日後の事が決まれば連絡を入れます。その時に出来上がった薬を持って来ていただけたらと思っています」
そうユーフィアに言い、エトワール草を一部渡し、帰ってもらった。
ユーフィアとクストが部屋を出ていったあと、彼らの後ろに控えていたマリアから、帰り際に一通の手紙を渡された。一言「族長からです」と言われ、差出人を見るとシド総帥からだった。マリアがわざわざ族長からと言ったことから金狼族の長としての手紙なのだろう。
手紙は後で確認するとして、シェリーは遅くなってしまった夕食を作るのにキッチンへ戻っていった。
シェリーは息苦しさで、目を覚ます。窓の外は夜が明けようと空が白じんでいた。起きるには少々早い時間に目が覚めてしまった。
息苦しさの原因を見てみれば、黄色と黒の斑の髪が胸に埋まっていたので、シェリーはスキルを使って、斑の髪を掴み引き剥がし、ベッドから蹴り落す。
今日は朝からギルドに顔を出さなければならなくなったなと思いながら、息苦しさから解放され、二度寝をしようと布団を引き寄せれば、後ろからの圧迫感が増した。
今日は誰だと振り返り睨みつければ、赤い髪が見えた。グレイのようだ。
「もう少し寝たいのですが?」
「うん」
そう言いながら、グレイの力が強まっている。
「力を弱めてもらえません?」
そう言うと少し力が緩んだが、二度寝の微睡みに沈む感じではなくなってしまった。ギシリとベッドが軋んだと思えば、オルクスが定位置に戻って来ていた。
シェリーはため息を吐き出す。寝れないのなら起きるかと体を起こそうすれば、動くことができない。
「シェリー。まだ早いからもう少し寝るといいよ」
オルクスが上目遣いで見上げてきた。
「この状態で寝られるとでも?」
オルクスとグレイに挟まれ、圧迫感が増している中、二度寝出来る状態ではないとシェリーは言うが、オルクスは答えず、シェリーに埋もれていった。
再びオルクスを引き剥がそうとすれば腕がグレイに抱かれたままになっているので、動く事ができない。
「ちっ」
思わず舌打ちが出る。その舌打ちに後ろにいたグレイがビクリと動いた。
「シェリー。嫌わないで、シェリーに嫌われたら生きてられない」
後ろから、蚊の鳴くような声でグレイが言ってきた。多分ここ数日のシェリーの態度の事を言っているのだろう。
最低限のことには対応するが、殆どが塩対応で返している。しかし、思い返してみるがシェリーの対応はあまり変わっていないと思う。
「シェリー、爺様は何を言ってきたんだ?」
グレイの言葉に答えないでいると、今度は別の事を聞いてきた。昨日、マリアから受け取った手紙が気になったのだろう。
「それですか。大公閣下の第3夫人が出戻って来たそうで、シド総帥にラースの内情を話されたそうです。簡単に言うと、ミゲルロディアに番が居たというのはどういう事か、説明に来いという内容でした。面倒なのでグレイさん行ってきてくれません?「嫌だ」」
グレイは被せるように否定してきた。しかし、説明しろと言われても第3夫人が知っていることぐらいしか知らないし、息子であるグレイが行くほうが面倒がないはずだ。
そもそもだ。なぜ、この事をシェリーに聞いてきたのだ。普通なら、オーウィルディア大公代理に聞くべきだろう。聞けない理由でもあるのだろうか。
やはり、このまま二度寝することはできなさそうなので、シェリーは身を捩り、二人の拘束から離れようとするがびくとも動かない。
「起きたいのですが」
「まだ、早いから大丈夫」
「もう少しこのままがいい」
オルクスとグレイからシェリーの要望は却下されてしまった。シェリーはため息を吐き、この状態はいつまで続くのだろうと考えながら時間が過ぎるのを待つのであった。
「足りないってどういう事だ?」
冒険者ギルドの一角にある特殊依頼の受付に座っているニールから目の前にいるシェリーに対して出た言葉だ。
ニールの前には密封された箱が置かれている。中身は依頼を請けたエトワール草50本だが、箱の中には30本しか入っていない。
「昨日、ユーフィアさんがいらしたので、20本は先に渡してあります」
「おい、何勝手な事をしているんだ」
確かにギルドとして仲介役を担っているが、個人で直接取り引きをしてしまったら、ギルドとして意味が無くなってしまう。
ニールに睨まれているシェリーはいつもどおり淡々と答える。
「3日後までにある程度作ってもらわなければならなかったので、渡しました」
「いいか。これはギルドが請け負った依頼だ。それも相手はナヴァル公爵夫人だ。シェリーが勝手に采配していいことじゃない。3日後に何があるかは知らんが、後20本きちんと揃えて持って来い」
ニールが言っているのは正論だ。シェリーは舌打ちを漏らし、反論する。
「ちっ。ニールさん、これは今後薬が世界中に行き渡るかどうかのことなのです。文句は急遽予定を入れてきた。クソ狐に言ってください」
「なんでそんな大事な話になるんだ?」
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