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21章 聖女と魔女とエルフ
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しおりを挟むシェリーたちは元来た道を戻り、地下から屋敷の玄関ホールに出たところでオリバーとすれ違った。
「おや、珍しい」
地下から階段を上ってきたシェリーを見てオリバーはさも珍しそうに目を見開く。
「薬草の依頼があったから」
「それならいくつか採って来てもらえば良かった」
「転移で行けばすぐの癖に。それで、裏庭は元に戻してくれた?」
シェリーの言葉にオリバーはニヤニヤと笑い
「元通りにはしたが、オルクスくんは面白いね。中々のところまで出来ているよ」
そう言ってオリバーは地下に降りて行った。確か陽子がオルクスが天津の技を再現しようとしていると。
「オルクスは自力でたどり着いたんだ」
カイルは感心したように言った。その言葉にリオンはオリバーの言ってことの意味がわからないらしく。
「オルクスは何が自力でたどり着いたんだ?」
とカイルに聞いてきた。陽子が話していた時にその場に居なかったリオンにはわからないことだったと、カイルはリオンに向かって言う。
「裏庭に行けばわかると思うよ。シェリーも一緒に行こう?」
カイルはシェリーも誘うが、シェリーにとってどうでもいいことなので
「行きません」
と断るが、カイルに手を繋がれてしまった。
「オリバーさんが中々のところまでって褒めているのは凄いと思うよ。気になるよね」
オリバーが褒めているかと言われれば、どうなのだろう?面白いって言っている時点で褒めていないような気がする。
シェリーが再度断る前に、カイルに裏庭の方に誘導されてしまった。
裏庭に近づいていくと何かを破壊する音が響いてきた。基本的に裏庭はシェリーの訓練場として使っているので、物は置いていないはずである。
それも岩でも破壊しているような重い音が響いている。時々バリバリっという音も聞こえてくる。
裏庭へ続く扉のところに若干顔色の悪いグレイが座り込んでいた。回復はしているが、気分の悪さが勝っているという感じなのだろう。いつもはピンと立っている耳がへニョンと折れている。
「グレイ。オルクスはどんな感じなんだ?」
グレイはカイルに後ろから声を掛けられ、振り向く。口を押さえていることから、吐き気を我慢しているようだ。
オリバー作、回復薬の味の破壊力は誰もが屈服するほどの酷い物体だ。一種の毒薬と言ってもいいのかもしれない。
「早かったな・・・うぷっ」
そんなグレイの姿にカイルは同情の視線を投げかける。グレイは話せる状態ではなさそうなので、座り込んでいるグレイの横を通って裏庭にでた。
そこは黒い岩の地面が一面に広がっていた。まるで、アマツのヨロイが強大な穴を空け、熱で焦がし、鉱石のように黒く溶かした地面が隆起して平らになったかのようだ。
その地面の上にオルクスが立っている。その立っているオルクスの周りで閃光が瞬いていた。
オルクスが剣を構え、地面に向かって振り下ろすと、閃光が稲妻の様に周りに迸り硬い地面を壊す。
天津の技というより、昨日見たクロードの黒い稲妻を模しているようだ。しかし、クロード程の破壊力はなく、黒い稲妻でもなく、閃光に近い稲妻だ。
「確かに、これは惜しい感じだね」
カイルがオリバーの言葉に納得したように言う。
「獣人は魔力が少ないから、ここまでできるって凄いことだね。シェリーはどう思う?」
カイルは手を握ったまま隣で立っているシェリーに聞いてみる。その尋ねられたシェリーはオルクスを見て首を傾げる。おかしいと。
そもそもオルクスにここまでのモノを再現する程の魔力は持っていなかったはずだ。クロードは獣人でも変革者であり黒持ちだ。だから、異質までの魔力を持っていてもおかしくはない。
その血を引き継ぐクストも獣人からしたらかなり魔力量は多いが、クロードの足元にも及ばない。
そして、今のオルクスはクストと同じぐらいの魔力量を持っている。人のステータスを覗き見することはシェリーはあまりしないが、以前オルクスのステータスを見たことがある。
ギラン共和国で見たときは少し魔力量が多めの獣人と同じぐらいだったのに今ではどうだろう。人族の魔導師と呼ばれる者たちと同じぐらいの魔力量があるのだ。
流石にこれはおかしい。
いや、こうなった理由はわかる。以前見たときには無かったが称号があるのだ。
『モールニアの導き』
多分これの影響だと思われる。モールニア神がオルクスに祝福を与えたということなのだろう。
だから、オリバーは面白いと言ったのだ。祝福によって魔力量が増えるなんて聞いたことはない。けれど、現実的に目の前の光景が真実を語っている。
いや、起こり得ることであることは歴史が示していることだ。
ただ、今のオルクスを見ていると若干戸惑いも見られる。いきなり増えた魔力に扱いきれないでいるのだろう。
だから、魔力が外に溢れ閃光として飛び散っている。
だから、中々という中途半端な表現をされたのだ。
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