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20章 趣味と実用性を兼ね備えたモノは奇怪な存在

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 数日間、シェリーはニールに押し付けられた依頼をこなしていた。ラース公国へ行きたくないが女神ナディアから来いと言われてしまったので行かなければならない。だが、行きたくない。

 そろそろギルドに完了の報告とまた遠出をするとニールに言わなければならない。そんな事をキッチンで料理をしながらモヤモヤと考えていると『ッギャーー』っとグレイの悲鳴が聞こえてきた。

 何事かとダイニングを覗くと首が床から生えている。その首はぐるりと辺りを見渡し、シェリーを見つけると

「ササッち!原案が出来た!」

 と言ってきた。黒髪黒目の女性でダンジョンマスターをしている陽子だった。

「陽子さん。普通に出てきてください。」

 シェリーがそう指摘すると「よっこいせ」と年寄り臭い掛け声と共に床から這い出てくる陽子。

「およ?初めましてがいるね?」

 陽子はダイニングテーブルの席についていたリオンを目にして言葉を掛ける。しかし、床から出てきた陽子を見てリオンは思考停止しているようだ。

「何で床から出てくるんだ!心臓に悪いだろ!」

 さっき悲鳴を上げていたグレイが陽子に文句を言っている。しかし、陽子は腰に手を当ててグレイを指差しながら

「私のダンジョンをまともに攻略できない狼くんが何を言っているのかな?それでドルロール遺跡のダンジョンに潜ろうだなんて笑っちゃうよね。」

 と言っているがジーンズのズボンに毛が3本生えたオバケのキャラクターのTシャツを着た人物に偉そうに言われても、オバケのキャラクターに目がいってしまう。

「お前のダンジョンがおかし過ぎるんだ!」

 グレイがそう言っている後ろで、椅子に座っているスーウェンとオルクスが頷いている。

「いやいや。ドルロール遺跡のダンジョンより断然マシだよね?ササッち。」

 陽子はシェリーに同意を求めてきた。愚者の常闇とドルロール遺跡のどちらのダンジョンがマシかと聞かれても、そもそもダンジョンの目的が違うのだから比較のしようがない。だから、正直に答えた。

「どの基準で比較すればいいのかわかりません。」

「なんで?絶対マシだよ!私のダンジョンで死ぬことないよ!」

「その代わり進めなければ出ることができませんね。」

「致死的罠もないよ。」

「その代わりギミックを解除しないと進めませんね。」

「ぬぅ。私、魔眼の魔物を使うほど、頭おかしくない。」

「ああ、それは言えてますが、それがドルロール遺跡の存在意義ですから。」

「うぅぅぅ。これ計画書ぅ。」

 シェリーの言葉に完全に打ちのめされてしまった陽子はシェリーに数枚の紙を手渡し、ダイニングテーブルの椅子に座り、いじける様にテーブル上に伸びてしまった。

「で、コイツは何者だ?」

 リオンが陽子を見ながら聞いてきたが、シェリーは食事を作っている途中だったので、陽子から渡された計画書と言われた紙の束を横に置いて、キッチンに戻って行った。文句を言っていたグレイあたりが説明するだろう。


「ヨーコさんは何の計画書を持ってきたの?」

 相変わらず狭いから入るなと言っているのに、お手伝いと言い張ってキッチンに入ってきているカイルから聞かれた。

「多分、新しいダンジョンの計画書でしょう。」

「え?なんでダンジョンを作るのにダンジョンマスターのヨーコさんがシェリーの意見を聞くの?」

 最もな疑問である。ダンジョンマスターは自分のダンジョンを好きなように作る事ができるので他人の意見を聞く必要はないのだ。

 シェリーはスープの具材を寸胴と言っていい鍋に入れながら答える。

「ダンジョンマスターは他人と関わる事はないですから、理由をつけて遊びに来ているだけです。それにここで何かあっても陽子さんを害する事はできませんから」

「ここがダンジョンだから?」

 確かにこの家の一部はダンジョンだ。そのためダンジョンマスターを害する事ができないと。しかし、そのカイルの言葉にシェリーは否定の言葉を重ねる。

「いいえ。マスターが一人でここに来ることをダンジョンの方々が否定的でしたので、陽子さん専用の防衛機能を設置しています。」

 ダンジョンマスターとして陽子がどれ程の力を持っているか分からないが、レベル100超えのシェリーとレベル200超えのオリバーが居るのだ。陽子は大丈夫だと言っても他の者たちからすれば、不安な事なのだろう。

 そんな話をしているとダイニングの方が騒がしくなってきた。またしても『うぉー!』っとグレイが声をあげている。『やはり敵じゃないか!』なんてリオンの声も聞こえてきた。
 しかし、シェリーは我関せずと唐揚げを揚げている。

「シェリー。何かあったようだけど?」

 スープをかき混ぜながらカイルが聞いてきた。

「楽しそうに騒いでいるので、いいのでは?」

 いや、楽しそうではなく隣のダイニングから緊張感が漂って来ていた。



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