番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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17章 不確定な未来と不穏な未来の予兆

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「あー。本当に美味しいわ。こんなに美味しいものを食べたのはギラン行ったときぐらい?ギランの商人にラースまで来てって交渉しようかしら。」

 オーウィルディアはそんな事を喋りながら、シェリーの作った食事を食べている。

「確かにギランは変わった食材が多かった。何に使うか分からない物もあったが、ここまで美味しいことは無かったぞ。」

 ディスタはオーウィルディアと話しながらも食べるスピードが衰えず、食事を口に運んでいる。

「一般のお店じゃ、確かにこの辺りと変わらないけど、あの国、毎年冬に祝賀パーティーがあるじゃない?そこで出された食事よ。あ、でも炎王様がいたから炎国の物が出されていたのかしら?」

「あの国、入国制限が厳しすぎて、入れないよな。」

「入国制限が厳しい?」

 二人の話しを聞きながら黙々とシェリーの口に食べ物を運んでいたカイルが二人の会話に疑問を投げかけた。
 この前、炎国に行ったが、厳しいと言うほどのことは無かった。シェリーが名前と理由を言っただけで、記録担当者はいなくなってしまったが、いつもそんな感じであろうという対応だった。

「殿下。ご存じではないのですか?あの国で転移は使用禁止されていますし、行くには船で行くしかないのですが、商船と交渉するのも一苦労と聞きます。」

 ディスタにそう言われ、カイルはシェリーを見る。いつもどおりの無表情で口をモゴモゴしている。
 シェリーは転移を使って炎国に入っていた。その炎国が転移の使用を禁止している?見たことと言われたことが矛盾をしていた。
 しかし、シェリーと炎王の親しい感じからいくとありえることかもしれないが、カイルからすれば面白くない。

「そう言えばシェリーちゃん。フィーディス商会と取り引きしていたわね。」

「していますが?」

「ラースと取り引きしてもらうようにできないかしら?」

「ラースの何と取り引きするつもりですか?」

 その言葉にオーウィルディアは巨体を丸め、胸を押さえる。

「う。痛いところを突いてくるわね。何もないわよ。国土の約半分が使い物にならないのよぅ。ビアンカに浄化を頼んでもナオフミが邪魔をするのよ。」

「そもそも、黒の魔物退治に母さんがなぜついて行っているのですか?引き離した隙に浄化を頼めばよかったのではないのですか?」

「違うわよ。ナオフミがビアンカと別行動を取ることに、ごねたのよ。」

「ちっ。クソ勇者が!」

「母さん?もしかして、聖女と勇者の子供か!勇者が『俺とビアンカの子供だから、めっちゃ可愛いはずだ。しかし、嫁には出さん。』と産まれる前からバカ親丸出しだったときの子供か!全然似てないじゃないか!」

 ディスタがフォークでシェリーを指しながら言っているが、そのフォークをカイルがナイフを飛ばして弾く。

「ディスタ。他の子供たち見たでしょ?普通では、シェリーちゃんもあの子たちも生きにくいのよ。」

「ああ、黒の魔眼持ちか。確かにこの大陸じゃ生きにくいよな。って、なんで一人だけ別の国にいるんだよ。あ、もうひとりいるのか?」

 ラースを管理する部屋に入ったことのあるディスタはシーラン王国にラースが一人存在していることを知っている。
 その言葉にシェリーは立ち上がって黒刀を取り出し、テーブル越しにディスタに刃を向ける。

「クソ勇者にそれは絶対に言ってはいけません。」

「う。何をだ?別の国にいることか?」

「私がいる国も、もうひとりのラースのこともです。今すぐ忘れるか、ココで命を落とすかどちらがいいですか?」

 ディスタは青い顔をして、身を引く。

「なんで、命と引き換えになっているんだ。流石にそれは大きすぎるだろ。」

「あら?そうでもないかもしれないわよ。」

 オーウィルディアはシェリーの意見に同意する。

「悪災を再び招くぐらいなら、事故に見せかけて、消すかしら?」

 しれっと恐ろしいことを言っている。仮にもディスタはセイルーン竜王国の第一王子の命で動いている人物だ。それをオーウィルディアは殺すと言っているのだ。

「殿下。」

 ディスタはカイルに助けを求めるが

「ディスタ。忘れた方が身のためだね。」

 味方は誰もいなかった。

「くっ。わかった。忘れるが、理由を教えてくれ、あれでも戦友だ。」

「戦友ですか。ツガイの為といい、共に戦った魔導師を殺したのに?」

「オリバーのことか。それは仕方がないことじゃないのか?番は己の全てだ。」

 その言葉にシェリーは冷たい視線をディスタに向ける。その視線を受け、ディスタは身をすくめた。

「ツガイが全て。バカバカしい。」

 シェリーがディスタに向けた視線は全てを否定した視線だった。

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