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17章 不確定な未来と不穏な未来の予兆

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 シェリーは赤い魔石の魔道具を鞄にしまいながら、何処ともなく声をかける。

「ユールクスさん、お願いがあるのですが」

 そう、シェリーが呼びかけると同時に地面からナーガのユールクスが姿を現した。

「なんだ。」

「炎王を帰らないように引き止めておいてください。そのお礼として、これでいかがでしょうか?」

 シェリーは鞄から透明の液体の入った瓶をユールクスに差し出す。

「聖水か。」

「多分、これから外の魔物の活動が活発化してくるでしょう。そうなるとダンジョンにまで気が向けられなくなります。」

「20年前みたいにか?」

「そうです。ですから、魔物の発生を抑制する聖水を差し上げます。これで、炎王の足止めお願いできますか?」

 陽子が一度シェリーに言っていたことがある。自動で魔物を出現させることができるのだが、どんどん増えすぎて困っているから、ダンジョンに来て駆除して欲しいと。その時シェリーは自分で対処しろと突き放したのだが、ダンジョンマスターが己のダンジョンから発生した魔物に刃を向けることはダンジョンポイントが大幅にマイナスされてしまうのでできないと言われてしまったのだ。

「それは欲しいが、黒龍を先程の話に巻き込むのか?」

「巻き込む?力が有り余って、暇そうにフラフラしている人がそこにいるのなら、使いますよね。」

 シェリーの言葉を聞いたユールクスは眉間に皺を寄せながら

「黒龍にこの国に留まるように言ってみるが、我には留められぬかもしれんぞ?」

 その言葉に対しシェリーは呆れたように

「もう少しで神化しそうな貴方が、炎王に敵わないと?」

「シンカ?」

「取り敢えず、炎王を私が戻るまで留めておいてください。レイスさん、裏ダンジョンへの道を開いてください。」

『それではこちらです。』

 今まで黙って浮遊していた添乗員姿のレイスの女性が、赤レンガの壁に向かって小旗を持っていない方の手を差し出すと、闇に包まれた穴が大きく口を開けた。
 シェリーは何の躊躇もなくその穴に入っていく。そして、カイルも続いて入って行くと黒い穴は消えていった。

 穴から出るとそこは薄暗い洞窟の中だった。ただの洞窟ではない、そこら中からケモノの様な叫び声や咆哮が響き聞こえている。

「カイルさん。魔眼を使いましたら、階層から階層へ駆け抜けますから。」

「分かったけど、一つ聞いて良いかな?」

「何ですか?」

「炎王をなぜ巻き込もうとしているのかな?」

 先程のユールクスに頼んだ件のことだ。

「え?嫌がらせです。」

 シェリーは許すと炎王に言っていたが、腹の虫は全く収まっていなかったのだ。

「うん。そうか。」

 シェリーのその言葉にカイルは納得したようだ。
 内心カイルはシェリーと炎王の親密さに嫉妬をしていたが、そういうことならと納得をすることにした。

「では行きます。魔眼解放『己以外が全てが敵だ。殺せ!』」

 シェリーのピンクの瞳が魔力を宿し、異様な光を放っている。そして、シェリーの言葉と同時に二人の命を刈ろうと機を狙っていた魔物達が、いや、この裏1階層全ての魔物達が己以外のモノを殺そうと爪を牙を怒りを憎悪を解き放った。

「これは凄い。これがギルドマスターがシェリー向きの依頼と言った意味か。炎王がラースにかなてきなどいないと言うはずだ。」

 この裏階層の全ての魔物たちが殺し合い始めた中、シェリーは次の階層に向けて走り出した。斬り倒すのは向かってくる敵のみ、それ以外は放置でいい。あとは、勝手に殺し合ってくれるからだ。

 シェリーと並走するようにカイルも走りだす。シェリーは先日新たに手に入れた、狂刀もといブラックドラゴンで作られた黒刀を片手に向かってくる敵を屠り、カイルは大剣で敵を蹴散らして行く。レベル100は無いと攻略することができない裏ダンジョンの魔物達を軽々、二人は倒していった。


 その頃、表ダンジョンの4人はどうしているかというと、休憩中だった。

「流石にこれは辛い。」

 グレイは地べたに寝そべっっていた。ここは7階層の荒野の廃墟跡で屋根も床もない、ただ石の壁の残骸が残っている場所だ。
 その周りにスーウェンが結界を張り、安全を確保した上での行動なのだが、スーウェンの結界の周りには、人や獣人、魔獣や魔物のゾンビがひしめき合っている。

 結界を張っているスーウェンも地面に座り込み、疲れが顔に滲み出ている。

 逆にオルクスは二人に比べ疲れていないようで、いつもと変わらない感じで、火を起こしているし、同じくリオンも全く平気な顔をしている。やはり、レベルの差がここで出てきたのだろうか。

「グレイ、これでも食っておけ。」

 オルクスから渡されたのは、冒険者たちの間でよく食べられている保存食兼栄養食だ。
 グレイはその栄養食を受け取り、起き上がって一口、口に含むが怪訝そうに眉を潜めた。甘みはあるがパサパサして口の中の水分を全て持っていかれるものだった。

「シェリーのご飯が食べたい。」

 思わずぽそりと呟いてしまった。
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