番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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14章 黒の国

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「変わった町並みだね。」

 カイルはそう言いながら、シェリーの手を取って歩いている。

「こうも鬼族ばかりだと、こっちが異質な感じがするな。」

 グレイは辺りを見渡しながら、シェリーの横を歩いている。グレイが言うように黒の種族の中にカラフルな色を持つ5人が町の中を歩いているのだ。他国からの訪問者が珍しい上にその色で目立つので鬼族からの視線は四方から感じている。

「初めて来ましたが、にぎやかなところですね。」

「炎王のお膝元だから特にそうだろう。」

 スーウェンとオルクスは3人の後から付いていくかたちで歩いている。

「後で、この辺りの店には寄りますから、さっさと用事を済ませてしまいましょう。」

 シェリーは炎王の依頼よりもこの辺りの店に寄ることがメインのように言っている。

「そう言えば何処に向かっているんだ?」

 グレイが聞いてきたが、転移入国管理の建物から人の波に乗るようにただ真っ直ぐシェリーは進んでいる。その先に城のような大きな建物は見当たらず、同じような木と土壁の建物が道沿いに並んでいるばかりだ。

「ここは商業地区と言っていいところなので、まだ2キロメルkmほど歩きます。辻馬車はあるのですが、今から行くところには向かわないので歩くしかないです。」

 それはそうだろう、一般人が使用する辻馬車が王族の住まう区画に行くはずはないのだ。

「金髪の嬢ちゃんちょっと待ってくれ!」

 突然後ろからシェリーの事を呼んでいる声に足を止め振り返った。そこには息を切らした体格のいい鬼族の男性がいた。

「ベンさん。お久しぶりです。どうかしましたか?」

 どうやらシェリーの顔見知りらしい。

「親方が呼んでいるから、工房に寄ってくれないか?」

「今ですか?」

「新しいのが出来上がったと言えばいいと言われたんだが。」

「行きましょう。」

 シェリーは踵を返して元来た道を戻っていく。炎王に呼ばれてこの国に来たと言うのに、親方と言う人物がシェリーを呼んでいると聞いて、そちらを優先してしまった。

 ベンと呼ばれた鬼族の男性の後について行き、2、3度角を曲がったところで、建物と建物の隙間の路地へとベンは入っていく。シェリーもそれに続き、人がすれ違えるかどうかと言うすき間を歩いていく。本当にこれは道かと疑問に思うほどだ。

 建物の隙間を抜ければ空き地のような空間が広がりその奥には倉庫のような大きな建物が建っていた。

 ベンはその倉庫の奥に向かって呼びかける。

「親方!言われたとおり金髪の嬢ちゃんを連れてきました。」

 その声に答えるように奥の方から『おう。』と言う声が聞こえた。
 倉庫の奥からはベンの腰ほど身長でガタイのいい黒髪黒ひげの男性が出てきた。その小柄で筋肉質の体格からドワーフであると思われる。

「嬢ちゃん。久しぶりだな。」

「親方さん。こんにちわ。」

「おう。嬢ちゃんはいつ来るかわからんからな。入国管理のヤツに頼んどいて正解だった。ベン、人形を用意しろ。」

 ベンは『ハイ!』と返事をして倉庫の様な建物に入って行った。

「それにしても、いつもは一人でウロウロしている嬢ちゃんが、いい男をそんなに引き連れてどうしたんだ?」

 そう言いながらドワーフの親方は布に包まれた長い物を持ってこっちに歩いてきた。

「付いてきただけなので、気にしないでください。」

「ハハハ。最近、中央が騒がしいからあまり中央にはいかん方がいいぞ。初代様の機嫌がすこぶる悪いと言う噂だ。それに王太子の機嫌も悪いらしい。何かあったのか?」

「炎王に呼ばれているので、中央には行きますよ。炎王の機嫌が悪い理由は何となくわかりますので問題ありません。王太子殿下のことは知りません。」

「ハハハ。初代様に呼ばれてるってことはあんまり時間をとっちゃ悪いな。コレだ。今の物じゃ、物足りないだろ?」

 親方は布を外した物をシェリーに手渡した。それは、一本の刀だった。黒い柄、黒い鍔、黒い鞘。全てが黒い刀だった。
 渡された刀をシェリーは受け取り、柄と鞘を持ち、少しだけ刀身を顕にし、直ぐに鞘に収める。

「凶悪ですね。」

 刀身を見たシェリーの感想である。

「ハハハ。これなら、物足りないって顔はさせんぞ!嬢ちゃんがくれたブラックドラゴンの角と皮で作った鞘と柄でブラックドラゴンの牙と魔石を溶かして打った刀身を収めたものだ。ちと、狂刀一歩手前だが、嬢ちゃんには問題ないだろう。」

 シェリーは刀身を鞘から抜いた。その刀身は黒く揺らめくように波を打っており、ギギギィと鳴いていた。
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