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12章 不穏な影

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 シェリーは部屋まで連行され、今はカイルの膝の上で横向き座らされ、目の前にはグレイ、スーウェン、オルクスがダイニングにあった椅子だけを移動させ膝を突き合わせるように座っている。

「さて、シェリー。なぜ、一人で出て行ってしまったのかな?」

 カイルは横向きに抱きかかえたシェリーに尋ねる。シェリーは笑顔だが笑っていないカイルを見て

「先程も言いましたが、気になったからです。」

 とシェリーは真顔で答える。

「でもな。普通は部屋のドアから出ていくよな。窓は無いよな。」

 グレイが詰め寄り、ありえないとシェリーを責める。

「レイアルティス王のように番を閉じ込めるしか無いよな。」

 オルクスは聖女の嘆きの手記を読んでも、それが正しが如くレイアルティスの行為を肯定する。

「勝手にどこかに行かないように、しなければなりませんね。」

 スーウェンもオルクスと同じ様な言葉を放つ。それを聞いたシェリーは理解した。きっと今までのシェリーなら分からなかっただろうが、あの謎の生命体の言葉、そしてシェリーのツガイである4人のこの言葉で理解してしまった。だから、シェリーは尋ねる。目の前のツガイである4人に向かって言葉を放つ。

「あなた達が私を殺すのですか?」

「「「「は?」」」」

 シェリーの突拍子もない言葉に4人が固まってしまった。しかし、シェリーは言葉を続ける。

「おかしいとは思っていたのです。聖女に対してツガイが5人だなんて、嫌がらせだとずーっと思っていたのですが、そうですか、私を殺す為の5人だったのですね。それなら理解できます。」

「シェリー。いきなり何を言い始めたんだ?え?いじめ過ぎた?」

 グレイがあたふたと慌てだした。

「ご主人様。冗談ですから本気でとらえないでください。」

「冗談?スーウェンさん。内心は本気で私を閉じ込めようと思っていたのでしょ?どうすれば、私を世間から世界から隔離できるか思案していたはずです。」

 その言葉を聞いたスーウェンは頭を抱え項垂れてしまった。シェリーの言葉は当たっていたようだ。

「オルクスさん。私は聖女の手記を渡し、聖女の不遇の嘆きを分かっていただけたと思っていましたが?それでも、その言葉が出てくるとは、やはり質ですか。」

 質、聖女のツガイの質だと。
 2番目の聖女のツガイであるプラエフェクト将軍の質。3番目の聖女のツガイである教皇グラシアドースの質。1番目のロビン以外は全てツガイである聖女を己の手元に囲い込んだ者達だ。そしてそれは、あの謎の生命体から与えられた質だ。

「シェリー。なぜ、そんな言葉が出てくるのかな?」

「そんな言葉?カイルさん。私は聖女として世界を浄化する役目を与えられました。しかし、そのツガイとしてレベルが100を超えていない人を宛行うなんておかしいと思いませんか?」

「「「グフッ。」」」

 3人程シェリーの言葉に撃沈したようだ。

「えーと。」

 カイルはシェリーの一言に息も絶え絶えの3人を見ながら、言葉を探しているが、内心カイルも思っていたことだったので言葉が見つからないようだ。

頽壊たいかい者。勇者ナオフミの称号の一つです。今までこの意味が分からなかったのです。そして、私の破壊者の称号。てっきりあの謎の生命体に与えられたモノだとばかり思っていましたが、ナオフミの血を引く私が頽壊者から変化した破壊者の称号を持っていたとしたのなら、全てが辻褄が合うのです。」

 あの謎の生命体は勇者がナオフミになったことで未来が変わってしまったと言っていた。あの時、疑問に思ったのがアイラの存在だった。未来で彼女は何かしら役目が与えられたが、その未来さえなくなってしまったと。

 もし、シェリーがこの国に居なければ、あの謎の生命体の思惑通り、ビアンカと共に行動をしていれば、アイラはこの国の聖女として活躍をしたのだろう。それが、あるべき未来だとすれば、アイラの性格上恐ろしいことが起こりそうではあるが、そんな未来が本来の在り方だとすれば、この国にいるシェリーの存在の方がおかしいのだ。

 しかし、これもあの謎の生命体から誘導された結果だ。逆に考えれば、オリバーとルークの存在がこの国に必要だったための誘導だとすれば、これもシェリーの存在がおかしいと言うことになる。

 逸脱した行動を起こさないように、世界の薬ともなるが毒ともなるシェリーの行動を制限するように、シェリーを束縛するためのツガイ。

「私の行動を制限し、勇者ナオフミのように世界を汚す事になれば私を殺すためのツガイ。ふふふ。」

「シェリー。番であるシェリーを殺すなんて、そんなこと出来ないよ。それにそんな事をすれば狂ってしまう。」

「そう今は思っているかもしれませんが、聖女ビアンカをカイルさんはみてますよね。昔はとても活動的な人だったらしいです。ですがあの時は頑なに勇者の結界から出ようとはしませんでした。もしこれが、勇者をこれ以上自由させないための、世界からの干渉の結果だとすれば、見方が変わってきませんか?
 私が勇者を外に出そうと唆したら、今度は一国で勇者の行動を制限しようと動いた。大公が魔人化するタイミングが私がいたその時なんて偶然過ぎますよね。これも必然だとすれば?全て世界の思惑だとすれば?」

「まさか。」

「ツガイであるがゆえに狂ってしまうですか?それさえ含めて世界の思惑だったとしたらどうです?番狂いはその一族の者が始末する決まりです。
 カイルさんならセイルーン竜王国の第一王子か第二王子ですか。グレイさんならギラン共和国にいる金狼の長でしょうね。スーウェンさんも父親である長が出てくるでしょう。オルクスさんは炎王ですかね。
 絶対的強者ではなく、それに準ずる者がツガイなのもうなずける話です。『全ては白き神の手の上で躍らされている。』各地の古いダンジョンに隠すように記された言葉の一つです。」
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