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9章 ラースの魔眼

〜広報部サリー1〜

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「ぐへへへへ。」

 とある部屋の室内に怪しい声が響いている。

「曹長。何かいいものがありましたか?」

 怪しい声の主の部下である女性が普通の対応をしているのでいつのも光景のようだ。

「流石、シェリーちゃんなのよ。」

 そう言って一枚の写真を手に部下に向かって振り向くのだ。その手にはアンディウムが涙目で上目遣いになった写真を持っている。

 その写真を見た数人の部下から『おお。』という歓声があがる。

「サリー曹長。流石シェリーちゃんです。普通には引き出せないアンディウム様のそのような写真を撮れるなんて、流石、破壊神シェリーちゃんです。」

 先程から部屋に響いていた怪しい声の主はサリーこと騎士団広報部サリー曹長だったのだ。シェリーに怪しい二つ名が付いているが、それには触れないでおこう。

「これもいいと思わない?」

 別の写真にはまるで絵画のように大自然の中、祈りを捧げる様に天を見上げ、雲の隙間からの光がうまくアンディウムを照らしている。

「アンディウム様尊い。」

 部下の一人が写真に向かい拝みだす。

「サリー曹長。耳寄りな情報が。」

「なんですか?」

「先程、そのシェリーちゃんが第6師団の詰め所に連行されました。そして、あのシェリーちゃんがイケメンを引き連れていたのです。」

「何ですって!あの、美少女ルークちゃん以外に興味が無いシェリーちゃんが?」

「曹長。ルークちゃんは男の子です。」

「わかっているわよ。それで、どんなイケメンだったの。」

「一人は『銀爪』のカイル様です。二人目がラースの第二公子。3人目が「ちょっと待って!」」

 サリーが部下の報告を止めた。

「何?3人目って。」

「合計4人でしたよ。」

「ありえない。あの、シェリーちゃんが4人のイケメンを連れて歩くなんて。」

 サリーはシェリーのブラコンをよく知っているため、それ以外の男を連れ歩く自体が考えられないのだ。

「あ。でも、シェリーちゃんとカイル様の話は有名ですよね。シェリーちゃんの前でしかニコニコカイル様を拝めないと。」

 カイルの異常行動は冒険者ギルドだけではなく、広報の人にも有名なようだ。

「写真。証拠写真はないの?」

「サリー曹長にそう言われると思いまして、撮ってきましたよ。」

「早く印刷しなさい!」

 部下が印刷した写真を見たサリーが

「うへへへ。」

 またしても怪しい笑い声が漏れている。

「ニコニコカイル様が存在している。シェリーちゃんナイス。ここまで赤い金狼は確かに金狼のグレイ様。なぜこの国にいるのかしら?」

「サリー曹長。この青髪のエルフってもしかして」

「おお、深蒼のスーウェンザイル様。お姿は初めて拝見しました。」

「サリー曹長。この豹獣人って」

「な。こ、この方はギランのオルクス様。かっこいい。ぐふぐふ。これはシェリーちゃんに問いたださなければならないわね。」

 サリーのツボにハマったようだ。ぐへへへ。という怪しい笑い声が響く中、部屋に駆け込んできた部下がいた。

「サリー曹長!大変です。アンディウム様が・・・。」

 報告しようとした部下の声は涙声に変わり最後の方は聞き取れなくなってしまった。

「アンディウム様がどうしたのです。」

 サリーは部下に問いただす。

「アンディウム様が陛下に焼かれて美しい御髪が短く焼ききれてしまいました。」

 室内が静まりかえった。

「どうして、そのようなことになったのです。アンディウム様が陛下の怒りをかったというのですか。」

「詳しいことはわかりませんが、本日陛下とともに教会に行かれたので、その場にいたのは陛下とアンディウム様とシェリーちゃんだったそうです。」

「シェリーちゃん・・・。陛下はご無事だったのでしょうね。」

「はい。しかし、アンディウム様を医局に連れて行かれたあと、第6師団に向かわれましたので、詳細はわかりかねます。」

「第6師団・・・シェリーちゃんが第6師団に連行されたと言っていたわね。理由は何?」

 サリーはシェリーが第6師団に連行されたことを報告した部下に尋ねる。

「ルジオーネ副師団長に変幻した陛下を殴ったからであります。」

「はぁ。シェリーちゃんはいまだにルークちゃんに化けて現れた陛下が許せないのね。と言うことは、偶然に陛下とシェリーちゃんは一緒にいたということなのかしら?」

「シェリーちゃんはアンディウム師団長を訪ねに来たそうです。」

「陛下も不運ね。」

 サリーは少し考え、近くにいた部下に向かい

「コルト、付いて来なさい。」

 大柄な男性を引き連れ、サリーは部屋を後にするのであった。


 夕暮れ時、サリーは一軒の屋敷の前に立っている。教会の件でアンディウムに何かがあったのなら、この話を押したサリーにも責任があるからだ。一番事情を知っているシェリーに聞くのが早いと判断し、訪ねて来たのだ。
 ドアノッカーを手に取り叩き、少し待つとエプロン姿のシェリーが出てきた。どうやら夕食を作っていたようだ。無表情ながらも不機嫌なオーラを出しているシェリーに問われる。

「サリーさん。どうかしましたか?」

「夕飯作っているところ悪いんだけど、少し話を聞かせてもらえないかな?秋冬用の『騎士に人気のお洒落着ランキングベスト100』をあげるわよ。」

 シェリーは目を輝かせ、笑顔になり

「じゃ、サリーさんと後ろの方も一緒に夕食いかがですか?」

 とルークのことでしか見られない笑顔全開のシェリーに夕食を進められた。サリーはシェリーの扱いをよくわかっている。

 サリーは楽園にいた。目の前には写真で見たイケメンたちが、揃って食事をしているのだ。これだけで、食が進むというものだ。しかし、それだけではなくシェリーの作った食事がおいしい。王都の料理とは少し違う感じでどこか別の国の料理にすら思える。

「シェリーちゃん、この料理何?すごく美味しいんだけど。」

 と毎回聞いてしまう。シェリーはと言うと端的に料理名を言うだけでそれ以外の説明はない。というかできないようだ。なぜか、イケメンたちから餌付け行動をされているのだ。う、羨ましい。

 食事が終わり、お茶を出されたことで、今日来た本題をサリーは話す。

「今日、アンディウム様が医局に運ばれたと聞いてね。ほら、教会と聖女候補の件でアンディウム様を付けるっていう話を押したの私だし、教会と揉めて何かあったと言うなら、私にも責任が出てくるから、何があったか知りたいのよ。」

 そう、問われたシェリーは難しい顔になった。何か言えない事があるのだろうか。

「第2師団長さんの怪我については教会は全く関係ありません。」

「え?アンディウム様は怪我をしていたの?」

 シェリーはしまったという顔になったが、直ぐにいつもどおりの真顔に戻り

「国王陛下の狐火に焼かれたという意味です。原因は国王陛下の心の弱さです。以上。」

「シェリーちゃんそれ説明になっていないわ。」

「サリーさん。この世には知らなくていいこともあると思いませんか?これ以上知ろうとするなら誓約書を書いてもらいますよ。それも一番重いモノを」

 え。それすっごく怖いんだけど。

「はぁ。誓約書は勘弁。アンディウム様の事は教会が関与していないってわかっただけでいいわ。」

 楽園を堪能できたし、これで数日は萌られるわ。そう思いながら、サリーはシェリーの屋敷を後にするのだった。
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