番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
106 / 796
9章 ラースの魔眼

99

しおりを挟む
 突如、シェリーの脳内に声が響いた。

『ねぇ。夢の残像使ってくれないかな?』

 今、話に上がっているエルフが崇める神であり、シェリー曰く謎の生命体の声である。

「今ですか。」

『アレだとそっちに直接干渉できるし』

「必要ですか?」

『だってさ、面白そうだよね。』

「ふざけてます?」

『使ってくれないと、僕自身が行っちゃうよー。』

「来たら殴りますよ。」

 どうしても、あの謎の生命体は来たいようだ。

「シェリーちゃんどうしたの?何かあったの?」

 オーウィルディアがシェリーの独り言に不信に思い声をかける。

「はぁ。エルフが崇める神と言う物体が来たいと言うので、いいですか?」

 カイルは嫌な予感を覚えシェリーを自分の側に引き寄せる。その言葉を聞いたグレイはオルクスに

「ヤバイ、オルクス。そのクソエルフを離してシェリーの側に行くぞ。」

 そう言いながら、テーブルを乗り越えてシェリーとカイルの元に向うグレイ。わけがわからない状況から更に神が降臨するという言葉に思考が停止するイーリスクロム。自分たちが崇める神が化現されることに興奮を覚えるエルフ。

「え?何?それ大丈夫なの?」

 不安を覚えるオーウィルディア。

「本体が来るよりマシなだけで、それに耐えきれるかはわかりません。」

『ねぇ。早くしてくれないかな。』

 催促をされてしまった。シェリーはため息を吐き、魔力を練り上げる。

『夢の残像』

 ただ単にスキルを使用しただけである。そう、何も考えずにただスキルを使用しただけ、しかし部屋の景色が歪み、草原が足元をサワサワとかすめ、蒼空が頭上を占める世界が広がった。

 そして、シェリーの目の前には白く長い髪に白い素肌、目も金属を流した様に白く、裾の長い白い衣服を纏っている人物が立っていた。

「いきなりすまなかったが、どうしても言っておきたい事があってな。」

 シェリーは思った。お前は誰だと。その思いが顔に出ていたのか、謎の生命体はヘラリと笑った。しかし、その顔を見ることができたのは、シェリーと聖人でありシェリーに従属されたオリバーのみである。他の者たちは地に膝を付きこうべを垂れるしかなかった。

「我を信仰しているエルフ族にはそれなりの加護を与えていたが、それはこれから生まれてくる者には与えない。我が言葉を与えてもそれを歪めて解釈されるのは憤りすら感じる。前回役目を与えた聖女をエルフの国には連れて来てはいけないと言葉を与えたが、結局は聖女をエルフの国に入れた。
 今回は流石に焦った。我の力が及ぶところで、ナディアの神眼を使用するなど、役目を与えた聖女を無くすところだった。聖女は役目を果たすために存在する。その聖女の役目を邪魔をする者は存在価値などない。」

 ただでさえ目の前の存在の力に圧倒されているのに更に圧力が増す。

「ただ人には神力は強すぎるので、それ以上は持ちませんよ。」

 シェリーが謎の生命体をたしなめる。

「ああ、人は脆い物だったね。」

 白き神はシェリーに近付き頭を一撫でし、シェリーにしか聞こえない声で

『あと一人でコンプリートだね。』

 そう言って、スキルを強制解除され、草原と空は無くなり、もとの部屋に戻っていた。
 シェリーはフルフルと震えている。ツガイというモノから逃げていたのにこうも簡単に4人が集まって来るなんてやはり、あの謎の生命体の仕業じゃないか!

「な、何。今の力の塊と言っていい存在は。あれが神?」

 オーウィルディアは膝を付いたままシェリーを見上げるが、額からの汗が酷い。

「ははは。もう、何がどうなっているのか。神がおっしゃっていた言葉の中におかしな事があったよね。シェリー君が聖女のように捉えられるおかしな言葉が・・・役目って何?」

 イーリスクロムの脳内の許容範囲を超えてしまったようだ。シェリーが聖女であることに疑問を呈する。

「世界の浄化です。あと数年で魔王が復活しますので。」

「「は?」」

 イーリスクロムとオーウィルディアの声が重なった。

「魔王の復活ですって!どういう事!魔王はナオフミが倒したのでしょ?」

「原因の一端を担っているのが勇者の番狂いです。聖女ビアンカにはラース公国の浄化を3年以内に終わらすように頼んでいるので、率先してやってもらってください。」

「そんなこと、ナオフミからもビアンカからも聞いていないわよ!あたし帰るわ。」

 オーウィルディアは来たときと同じように空間を切り裂く。

「あ、クソ勇者に伝言をシーラン王国側のイアール山脈にラースにいた黒い魔物が巨大化して繁殖していたので、自分で撒いた種の後始末ぐらいして欲しいものですと。」

「何それ!」

 と叫び声を残しながらオーウィルディアは消えていった。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず
恋愛
 わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。  さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。  ……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。  ※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。 私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。 その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。 完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

どんなに私が愛しても

豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。 これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

処理中です...