番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
45 / 796
3章 魔人の存在

40

しおりを挟む
 ただ一人異質な人物がいた。銀髪に紫紺の瞳の女性だ。顔が真っ青になり心なしか震えているようだ。

「あなたは何かご存じですか?」

 シェリーは銀髪の女性にたずねる。

「第二夫人のメルローズ様です。元々はグローリア国の魔導師で第5王女でもごさいました。30年程前、勇者殿が聖女であるビアンカ様を訪ねにいらしたときに、勇者殿に同行していたメルローズ様を大公は見初められましたが、番とはお聞きしておりませんでした。」

 その言葉を聞いた周りの者達が顔色を変える。

「いつ亡くなられましたか?」

「22年前の魔王討伐に参加されそのままかえらぬ人になられました。」

「そうですか。22年は長いですね。大公閣下はその間は普通に過ごされておられましたか。」

「わたくしの目からは普通に過ごされておられましたが、この離宮で過ごされる時間が徐々に長くなりました。ここは夏の暑さが苦手でありましたメルローズ様のために造られた離宮でございますので夏の避暑地として来られていたのかと思っていたのですが、違いましたのね。」

「はっきり言えば魔人化が始まっています。このまま死を賜ることをおすすめします。」

「聖女が治せないというのですか。わかりました。あなた偽物なんですね。偽聖女。出ていきなさい。」

 金狼の女性が使用人に支えられこちらにやって来る。

「わたしが本物だろうと偽物だろうとこの結果は変わりません。」

「母上を別室に連れて休ませてくれないか。」

 金狼の女性は「わたくしは疲れなどいません」と叫びながら部屋から連れ出されていく。
 シェリーはため息を吐き

「わたしが今できることは大公閣下を浄化することです。ここまで、放置されてしまいますと、閣下自身を浄化することとなり、何も残らない状態になってしまいます。ですから、このまま死を賜ることをおすすめします。」

「皆と話し合う時間をいただけますか。ミゲル様の番がメルローズ様で、ミゲル様が魔人化に・・・。直ぐには考えられないことです。」

「わかりました。ただいつ魔人となるか分かりませんので、魔導師をお側につけて置くことをおすすめします。わたしはこれで失礼させていただきます。」

 シェリーは返事を聞かず部屋を出た。

「シェリー。本当に母上がすまなかった。」

 グレイがシェリーの前に出て、頭を下げる。

「構いません。わたしができることは無いのですから。少し公都を見て回ります。ご家族で話し合う必要があるのでしょう?明日の朝、こちらに伺いますので宜しくお願いします。」


 シェリーとカイルは離宮を離れる。シェリーが離宮を出ると同時に聖域結界も解除された。大公閣下から出される黒い靄ですぐにでも離宮は真っ黒に満たされるであろう。

「シェリー、公都を見て回ると言っていたけど、どうするのなかな。」

「少し休みたいです。」

7刻半15時だからね。早めに宿を捜そうか。」

「そうですね。」

 二人は郊外を離れ、公都中心部に足を向ける。


 公都の大通り沿いに建ってある、貴族が泊まる宿に二人がいた。
 あのあと騎獣で離宮の兵士が追いかけて来て、離宮で部屋を用意すると言われたので断ったら、ここの宿を指定された。料金は向こうで持ってくれるらしい。

 シェリーは最近の定位置であるソファーに座るカイルの膝の上に座っている。そこで、パラパラと『騎士に人気のお洒落着ランキングベスト100』という雑誌を見ている。ルークの為に物色しているのだろう。
 カイルは膝の上のシェリーの黒髪を撫でている。シェリーを膝の上に座らせたときにシェリーのペンダントを取り上げたのだ。この3日間、グレイがいたため邪魔が入りシェリーを独占出来なかったのだ。しかし、今は独り占めしていることに喜びを感じている。

「カイルさん左手をもう少し緩めてほしいです。」

 カイルはシェリーを抱く力加減を間違っているようだ。

「カイルさん聞いています?お腹が苦しいです。」

「シェリー、口づけしていい?」

「拒否します。どこをどうしたらそこに行きつくのですか?」

「いつも感じられないシェリーの存在を感じる。不安なんだ。目を離すといなくなってしまうんじゃないのか、手を離せばわからなくなってしまうんじゃないのか。俺は大公のように番に先立たれたら、生きて行けない。」

「大公閣下とメルローズ様ですか。」

「シェリー、番の儀式をしないか?」

「確かに、番の儀式をすれば共に死を賜ることができるでしょうね。」

シェリーはそんなものになんの価値があるのかと言わんばかりに、笑殺しょうさつし言葉を放った。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

婚約破棄を喜んで受け入れてみた結果

宵闇 月
恋愛
ある日婚約者に婚約破棄を告げられたリリアナ。 喜んで受け入れてみたら… ※ 八話完結で書き終えてます。

皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず
恋愛
 わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。  さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。  ……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。  ※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。 私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。 その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。 完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

処理中です...