上 下
42 / 774
2章 闇と勇者と聖女

37

しおりを挟む
 白い謎の生命体は「この美しい世界を下から見上げる機会をくれたお礼に、君が欲しがっていたものを贈るよ。」そう言い残して、スキルの強制解除をし、消え去った。
 空間を支配していた神々しい圧迫感のある気配が存在しなくなり、残されたのは、月夜にたたずむシェリーだけだった。

 草を踏みしめて、こちらに来る気配が2つ。

「シェリー」

 呼び掛けられ、カイルの方を見ると、心配そうな顔をしたカイルとなぜか落ち込んでいるグレイがシェリーの方に歩いて来ていた。

「わざわざどうしたのですか。」

 カイルはシェリーの目の前に立ち、少しかがんでシェリーの視線に合わせる。

「シェリー、さっきはごめんね。シェリーが俺の知らないシェリーみたいだったから、つい嫌なこと聞いてしまって、だから、家族になろう。」

「は?」

━いきなりなに?どこをどうすればこんな言葉がでてくるんだろう?・・・。あれか、まさか言わされている?━

「それ言わされていませんか?」

「先程の高位な御方にってこと?うーん。それは俺には分からないけど、ここにはシェリーの居場所はないのかなっと思ったんだ。ここに、この世界に繋留めるものがルークしかいないんじゃないのかな。ルークの手が離れてしまったらシェリーはどこに行ってしまうのかな。不安で仕方がないんだ。」

「わたしはどこにも行きませんよ。この世界で生きるしかありませんから。」

「先程の高位な御方ならこの世界以外も可能なんじゃないかな。あの御方がシェリーをどこかに連れて行ってしまったら、手が届かなくなってしまう。」

 確かにあの謎の生命体なら可能なのかもしれない。だからと言って、そう素直にそんな望を叶えるとは思われない。もし、願いを叶えてやるっとあの謎の生命体が言ったとしたら、それはきっと愉快な結果になるからだろう。

「だから、この世界でルーク以外の家族を作らないか。」

 これが、私とわたしが、欲しかった贈り物とでも言いたいのだろうか。
 置いていった家族 、憧れの家族、なくした家族、受け入れられない家族。これ以上は心を掻きまわさないでほしい。

「シェリーには聖女としての役目があり、それを支えるために5人の番がいる。言葉では理解しているんだ。でも、心はそれを否定している。グレイもそうなんじゃないかな。そして、シェリーは番を否定している。じゃ、家族として受け入れられないかな。」

「ツガイではなく家族。」

「ここに来て、ずーっとシェリーの心が泣いているような気がしていたんだ。ここはシェリーにとってとてもつらいところなんだね。あるべき家族の場所にシェリーはいられないのなら、新しく家族を作らないかな?」

「かぞく・・・。」

 目の奥に私の記憶が映り混む、川でサワガニを捕まえようとして、転んだ時兄は手を差し出して助けてくれた。小学校でテストを満点を取って帰ってきたとき母は頭を撫でて誉めてくれた。大雨で学校から帰れなくなったとき父が迎えに来てくれた。

 でも、わたしの記憶にはない。母親が、父親がわたしに何かをしてくれた記憶はない。この世界に産まれて親から何かを与えられたか?名前でさえ、わたしを育てるために雇われたがつけてくれたのだ。
わたしの家族・・・ルークの記憶ばかりが写り混む。なにかが溢れ出しそうで唇を噛み締める。

「シェリー泣きたいときは泣いていいんだよ。」

 カイルの手がシェリーの頭を優しく撫でる。

「くっ、ふっ。」

「それにシェリーには黒髪が似合うよ。金色にしているのがもったいないぐらい。」

『めぐちゃん、茶髪も似合うけどやっぱり、めぐちゃんには黒髪が一番似合うよ。』まだ夫が彼氏だった頃、夏祭りの帰りにコウジさんに言われた言葉が甦った。

 月を仰ぎ見る。やはり月は2つある。

「それは、ずるいな。」

 言葉を口に出してしまたら、もうダメだった。押さえ込んでいた感情が外にあふれてしまった。

 佐々木という女性の記憶はシェリーとしては邪魔であり、すがる対象であった。もし、この記憶が無ければ子供として甘えられたのではないか。しかし、この記憶がなければ、親がツガイしか見ずに、子供に構わずにいる生活には耐えられなかった。幸せの記憶、憧れの記憶、未練の記憶、羨望の記憶。シェリーは佐々木という女性ではないと思い知らされる。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!

杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!! ※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。 ※タイトル変更しました。3/31

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。 「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。 しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。 これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。

夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...