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40 それはまだ有効なの?
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「聖女リーゼ様、今回はとても早く終わりましたね」
私と一緒に馬車に乗っている目の前のサーシャが声を掛けてきた。早く終わった?いつも変わらないと思うけど?
「次はドワーフの町に寄りますからね。リーゼ様も張り切られたのでしょう」
私の隣にいる彼女は私の護衛の女性騎士であるレイラだ。色々、本当に色々お世話になっている。
しかし、ドワーフの町?私は王都に向かって行っていたはずだけど?
「やっとあの凶悪な剣をお持ちにならなくて済むのですね」
凶悪って酷い。私の肉切り包丁は····いや、あれは
「ははは、見た目はアレだが、リーゼ様のおかげで助かっているのも事実だ。今回も一番厄介なヤツを早々に倒してくれたから、怪我人が少なく済んだ。いつもこれぐらいならワシはお役御免だな」
ハルド、腰が痛いからと馬車に乗っているが、馬車も中々の振動で辛いと思う。しかし、腕はいいのに直ぐにサボろうとする癖はどうにかならないのか。
「伝令!」
馬車の外から声が聞こえてきた。何か緊急事態が起こったのか騎獣で駆けてきたようだ。
「第5小隊が前方で中型の魔物と交戦中!第3小隊が合流するため暫く待機をお願いします」
各小隊の連携がうまく行っているみたい。最初の頃と比べれば、断然に違う。本当に最初の頃は酷かった。
「私が出る必要ある?」
「いいえ、第5と第3で対処可能であります!·····なぜ、こっちに。第9!馬車をお守りしろ!」
何やら、こちらの方まで魔物が現れたようだ。腰を浮かして、馬車の外に出ようとすると、サーシャに手を握られ止められてしまった。
「守られるのも聖女リーゼ様の仕事でございます」
言いたいことは分かるけど、私はそういう事は好きじゃないな。亜空間収納に手を差し込むけど、取り出した私の手の中には何も無い。なぜ、爆裂式苦無を取り出そうとしたのに出てこない。いや、あれは最後にドワーフの町に行った時に受け取ったもの。それにあの時全て使いきってしまった?
光を感じて目を開けると、そこは私のベッドの上だった。夢。また夢。なんで遠征の時の夢なんて今更みるのだろうか。はぁーと息を大きく吐く。久しぶりに多くの魔力を消費したからだろうか。
起きようと体を動かそうとするけど、動かない。何故かお腹と背中に圧迫感が·····。
確か昨日、あれから帰って来てひと息ついてから、ワクワクしながらアイスを作ろうとしたところで、捕獲されてしまった。
身を捩るがなんで動かないのか。
「起きたいのだけど?」
······反応がない。寝ているのか?
「ねぇ。そろそろ、起きたいのだけど?」
もう一度同じ事を言ってみるも、返事がない。昨日、半日かなりの速度で走った後に、魔物討伐をしたから疲れたのだろうか。
それなら仕方がないとお腹に回された腕を外そうとするも、びくともしない。いや、お腹の圧迫感が増したから、これは絶対に起きている。
「今日は絶対にアイスを作るから、アイスを作るのに時間がかかるから起きたいの」
昨日邪魔されたアイス作りは絶対に今日作らなければならない。あの鱗が使えるかどうか検証しなければ!それには冷え固まるのに5時間は見ておかなければならない。
「クククッ」
頭の上から笑い声が響いてきた。やっぱり起きているじゃないか。起きているならさっさと解放してほしかった。
そんな事を思っていると体が横に回転させられ、相変わらず濁った目が私を見ていた。
「アリア。おはよう」
「·····おはよう」
いや、いい加減に私を放してほしい。本当に昨日から距離感がおかしい。近すぎる。彼の厚い胸板に手を置き突っ張ろうとも、全く距離が開くことはない。
「アリア、名前」
は?それはまだ有効なの?名前を呼ばなければ解放されないという意味がない行為。
「シヴァ」
「おはよう」
「····おはよう」
私はいったい何を言わされているのか。これに何の意味があるのか、さっぱりわからない。
いや、前世の友なら、これがキュンキュンするとか言いそうだ。未だになぜ友人になれたか不思議なほど感性が合わなかった彼女。確か、結婚して子供ができたと言っていたか。彼女は幸せに暮らしているだろうか。
だから何故、私はキスをされているのだろう。彼の胸板を叩いて抵抗するも、やめてはくれない。くぅー!
それならと、右手を私と彼の間から抜け出し、空間に差し込む·····が、腕を掴まれてしまった。
「アリア、そのまま手を出そうか」
ちっ!
___________
補足
リーゼが遠征中はいつも女性陣と愛妻家のハルドが側にいたためにリーゼが他の者から好意を受け取る機会は皆無でした。
始めの方は騎士達と良好な関係性を持てなかったので、どれぐらい月日が経とうともリーゼは騎士達からはあまり好かれてはいないと思っております。騎士達とは仕事上の関係のみ。
ですので、兄のサヴェルはイケメンと評価しているにも関わらず、自分の評価はかなり低いものとなっています。
私と一緒に馬車に乗っている目の前のサーシャが声を掛けてきた。早く終わった?いつも変わらないと思うけど?
「次はドワーフの町に寄りますからね。リーゼ様も張り切られたのでしょう」
私の隣にいる彼女は私の護衛の女性騎士であるレイラだ。色々、本当に色々お世話になっている。
しかし、ドワーフの町?私は王都に向かって行っていたはずだけど?
「やっとあの凶悪な剣をお持ちにならなくて済むのですね」
凶悪って酷い。私の肉切り包丁は····いや、あれは
「ははは、見た目はアレだが、リーゼ様のおかげで助かっているのも事実だ。今回も一番厄介なヤツを早々に倒してくれたから、怪我人が少なく済んだ。いつもこれぐらいならワシはお役御免だな」
ハルド、腰が痛いからと馬車に乗っているが、馬車も中々の振動で辛いと思う。しかし、腕はいいのに直ぐにサボろうとする癖はどうにかならないのか。
「伝令!」
馬車の外から声が聞こえてきた。何か緊急事態が起こったのか騎獣で駆けてきたようだ。
「第5小隊が前方で中型の魔物と交戦中!第3小隊が合流するため暫く待機をお願いします」
各小隊の連携がうまく行っているみたい。最初の頃と比べれば、断然に違う。本当に最初の頃は酷かった。
「私が出る必要ある?」
「いいえ、第5と第3で対処可能であります!·····なぜ、こっちに。第9!馬車をお守りしろ!」
何やら、こちらの方まで魔物が現れたようだ。腰を浮かして、馬車の外に出ようとすると、サーシャに手を握られ止められてしまった。
「守られるのも聖女リーゼ様の仕事でございます」
言いたいことは分かるけど、私はそういう事は好きじゃないな。亜空間収納に手を差し込むけど、取り出した私の手の中には何も無い。なぜ、爆裂式苦無を取り出そうとしたのに出てこない。いや、あれは最後にドワーフの町に行った時に受け取ったもの。それにあの時全て使いきってしまった?
光を感じて目を開けると、そこは私のベッドの上だった。夢。また夢。なんで遠征の時の夢なんて今更みるのだろうか。はぁーと息を大きく吐く。久しぶりに多くの魔力を消費したからだろうか。
起きようと体を動かそうとするけど、動かない。何故かお腹と背中に圧迫感が·····。
確か昨日、あれから帰って来てひと息ついてから、ワクワクしながらアイスを作ろうとしたところで、捕獲されてしまった。
身を捩るがなんで動かないのか。
「起きたいのだけど?」
······反応がない。寝ているのか?
「ねぇ。そろそろ、起きたいのだけど?」
もう一度同じ事を言ってみるも、返事がない。昨日、半日かなりの速度で走った後に、魔物討伐をしたから疲れたのだろうか。
それなら仕方がないとお腹に回された腕を外そうとするも、びくともしない。いや、お腹の圧迫感が増したから、これは絶対に起きている。
「今日は絶対にアイスを作るから、アイスを作るのに時間がかかるから起きたいの」
昨日邪魔されたアイス作りは絶対に今日作らなければならない。あの鱗が使えるかどうか検証しなければ!それには冷え固まるのに5時間は見ておかなければならない。
「クククッ」
頭の上から笑い声が響いてきた。やっぱり起きているじゃないか。起きているならさっさと解放してほしかった。
そんな事を思っていると体が横に回転させられ、相変わらず濁った目が私を見ていた。
「アリア。おはよう」
「·····おはよう」
いや、いい加減に私を放してほしい。本当に昨日から距離感がおかしい。近すぎる。彼の厚い胸板に手を置き突っ張ろうとも、全く距離が開くことはない。
「アリア、名前」
は?それはまだ有効なの?名前を呼ばなければ解放されないという意味がない行為。
「シヴァ」
「おはよう」
「····おはよう」
私はいったい何を言わされているのか。これに何の意味があるのか、さっぱりわからない。
いや、前世の友なら、これがキュンキュンするとか言いそうだ。未だになぜ友人になれたか不思議なほど感性が合わなかった彼女。確か、結婚して子供ができたと言っていたか。彼女は幸せに暮らしているだろうか。
だから何故、私はキスをされているのだろう。彼の胸板を叩いて抵抗するも、やめてはくれない。くぅー!
それならと、右手を私と彼の間から抜け出し、空間に差し込む·····が、腕を掴まれてしまった。
「アリア、そのまま手を出そうか」
ちっ!
___________
補足
リーゼが遠征中はいつも女性陣と愛妻家のハルドが側にいたためにリーゼが他の者から好意を受け取る機会は皆無でした。
始めの方は騎士達と良好な関係性を持てなかったので、どれぐらい月日が経とうともリーゼは騎士達からはあまり好かれてはいないと思っております。騎士達とは仕事上の関係のみ。
ですので、兄のサヴェルはイケメンと評価しているにも関わらず、自分の評価はかなり低いものとなっています。
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