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37 簡単に物を冷やすために

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 大分、日が長くなってきたため、横から日が差す頃にハイメーラ領にたどり着くことができた。私が今いるところはハイメーラ領が見渡せる高台だ。美しい領地が見渡せると有名な場所だけあって盆地である領地が一望できる。
 しかし、こう高台から見てみると、このハイメーラ領に違和感を感じてしまった。盆地と言うより、大きなすり鉢状なのだ。まるで中央で何かが起こり窪んでしまったかのように広大な窪地なのだ。 

 その窪地が全て白いのだ。凍った世界とでも言えばいいのか。夏になろうかという季節で下から凍えるような風が吹き上がって来る。私が持っている煙管キセルから上がる煙を巻き込みながら吹き上げた凍りつく風は空に向かい、その空はこの領地上空のみに存在する曇天によって塞がれ、深々と白い雪を地上に落としている。

「これは流石に人が住めないな」

 仮面を取り、濁った目で眼下を眺めている赤い髪の魔王様がいた。第三者がここにいれば彼の仕業にされそうだなと、内心思ってしまったことは内緒だ。

 人が住めないと思われる所に動くモノが目に映る。白い獣だ。その奥の中央付近に更に大きな獣がいる。領地の端であるこの場所からでもはっきりと見えるとなると全長は10メルメートル程あるのではないのだろうか。

 見た目は狼だが、鋭い牙に額には天を突き刺すような二本の角。背面は固そうな白い鱗で覆われ、腹と手足は刺々しい白い毛で覆われていた。あれはなにかの物語で出てきた氷狼竜ではないだろうか。

 しかし、これは、これは······欲しい!あの鱗!
 噂通りなら、密閉した箱にあの鱗を入れれば冷凍庫ができるはず!そうなれば、これから暑くなる日々を過ごす糧となるアイスやシャーベットが作れるはず!

「くふっ。くふっ。どうしようかなぁー。でもアレに近づく前に氷狼が邪魔だなぁ」

「アリア、どうしたんだ?」

 ん?斜め上を見上げる。聞いていなかった。何がどうしたのだろうと首を傾げる。

「楽しそうにどうしたんだ?」

 ああ、私が魔物を前に笑っているから、おかしいと思われているのか。でも、魔力を使わずに安定して冷やす事ができるものが目の前にあるのなら欲しいよね。
 私は中央の魔物を指さしながら答える。

「あの鱗が欲しいと思って、アレを使えば簡単に物を冷やす事ができるでしょ?これから夏になるからぴったりだと思わない?」

 彼は私と私が指し示した魔物を見る。そして、クスリと笑った。なんか小声で『ああ、こういう事か』と言っているが、何がこういう事なんだろう。

「ああ、でももう少し夜が深くなってからにする」

「アリア、闇が深くなると魔物が活発に行動しだすことになる。討つなら今か日が昇ってからの方がいいのではないのか?」

 普通ならそうだろうけど、この数の氷狼を相手にするなら、オヴァールの特性を活かせる夜の方がいい。まぁ、私は全属性使えるけどね。

「少し、休憩しよう」

 高台から少し離れたところに私の家を出現させる。濃い魔素を纏った木々が現れ、その奥には結界が存在している。

 木々の間を抜け結界を抜けると、その奥には畑と私の家が見えた。ああ、帰ってきたとほっとため息が出る。

 扉を開けて、真っ先にお気に入りの長椅子に倒れ込む。外で泊まるのはやはり慣れない。色々気を使ってしまう。

「アリア、疲れたのか?」

 近くで声がしたが顔を上げずに答える。

「気疲れ。魔力を外に出さないようにするのが疲れる」

 はぁ。ここ2年で魔力が数倍に膨れ上がってしまった。人の世界にドラゴンが共に過ごすということは、街に災害を撒き散らすということだ。
 だから、人が居ない竜の谷の生活はとても楽だった。周りが高度の魔素に囲まれているから私の魔力が漏れても何も影響を及ぼさない。

 いや、ここ2年で怠惰になってしまったのだ。楽することを覚えてしまったのだ。それまでは息をするように魔力を制御できていたのに·····ふぅーと息を深く吐きだす。

 流れ出ていた魔力を体の内側に戻す。もう直ぐこの多量の魔力を放出できるのだ。何も不安になる必要はない。何も恐れることは無い。
 体を起こすと眼の前には魔王様が!ちょっと心臓に悪い。

「何か食べる?」
「アリア、休むならベッドで休め」

 互いが同時に話してしまった。私は長椅子から立ち上がり、しゃがんだままの彼を見下ろす。

「体力的に疲れているわけじゃないから、必要ない。アレを討伐するのは完全に日が沈んでしまった3時間後から開始、1時間以内には終わらすから」

 そう言って、私はキッチンに向った。美味しいお肉が食べたいなぁ。昨日のオークのお肉は本当に勿体なかった。
 よし、今日はオークの生姜焼きにしよう!

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