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3 吐血事件

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 少し、昔の話をしよう。
 私は子爵家の子供に生まれた。血筋的には辺境伯爵を祖父に持ち、次男の父が子爵を名乗り、辺境伯爵家の分家に当たるロスナー子爵家の次女として生まれたのである。
 辺境ということは国境に面しており、他国の情勢に対応しているかといえば、そうではなかった。オヴァール辺境伯爵家の領土は魔の森と呼ばれる魔物が跋扈する森に隣接しているのだ。
 だから、次男である父はロスナー子爵であると共に剣を片手に魔物を屠る討伐隊長にも席をおいていた。

 そんな家に生まれた私は思った。これはリアル狩りをしようぜじゃないかと。
 ええ、実は前世の記憶と言うものを持っていたりするけど、しがないOL人生だったと……オタク人生だったと記すに留めておく。

 まぁ、そんなオタクだった記憶を持つ私は幼い頃からはっちゃけていた。辺境で魔物を相手にするガタイのいいおっさん達に混ざり、幼い私も膨大なる魔力を大いに振るい魔物を駆逐していく日々。
 とても有意義で楽しかった。私が一番幸せだった時期だった。

 そんな私の噂を聞きつけ、私を婚約者にと話を持ってきた人がいた。オヴァール辺境伯爵領にある我が家に訪ねてきたのは、キラキラとした騎士の人だった。その人は一通の封筒を父に手渡し去って行く。
 父の手には王家の紋章が刻まれた一通の封筒。

 第5王子ラートウィンクルム殿下との婚約の打診だった。……第5王子。なんて中途半端。王位を狙える地位でもなく、スペアにすらなれない王子だ。
 そして、私は子爵令嬢。この組み合わせは流石にないだろうと誰もが思う婚約の打診だった。

 しかし、国の中心である王家と大いなる武力をもった辺境伯爵家の婚姻は歴史から見てみればある程度繰り返えされてきた事柄だ。今回はたまたま現当主であるオヴァール辺境伯爵の外孫と同じ年頃の王子が第5王子だったに過ぎず、あとは既婚者又は婚約者がおり、第5王子より下はそれより幼かった。

 その第5王子は王家直轄の1代限りの公爵を名乗り次代以降は伯爵を名乗る事となるとも明記されていた。侯爵ではなく伯爵。こちら側に拒否権などありはしない勅命だった。

 祖父であるオヴァール辺境伯爵曰く、私の力を危険視し、監視下に置こうという狙いなのだろうと。そして、有事の際は国の為に使おうとしているのだろうと。


 そして、私は国王の勅命によって第5王子の婚約者となった。その為に子爵令嬢では都合が悪いと祖父の養女となり、王子妃教育のため王都で過ごす事となった。

 はっきり言ってその教育を受ける理由が有るのかと問いたくなったが、権力に逆らうと余計なことが増えそうなので大人しく受け入れることにした。

 しかし、ここで事態が一変する。王都で過ごすこと10日。歴史の講義中に私は吐血した。

 最初は毒でも盛られたのかと騒ぎになったが、鼻からも目からも血を流し始めた時点でこれはおかしいと判断され、皮膚からも出血がみられたことでやっと原因が突き止められた。
 その間の3日、私は全身の痛みにのたうち回っていた。 
 マジで死ぬし。

 原因は魔力過多。無尽蔵に湧き出る魔力。自分が受け入れられる魔力の上限に達しても魔力が己の中で生産され続けてしまう。最後には体の細胞が耐えきれずに壊れてしまい、血を吹き出しながら死に至るという先天性の病だ。だから大抵は赤子の内に命を落としてしまう。
 しかし、私は転生者だった。だから生まれてから王都に来るまでリアル狩りに行こうぜの世界を満喫していたのだった。だから、今まで生きて来られた。だから、今まで気が付かなかった。

 この病に完治する薬は存在しない。あるのは対処療法のみ。魔力喰いと言われる薬草を乾燥させ、それを燃やした煙を吸い込み体内の魔力を吸収させ、吐き出すということを繰り返すのみ。
 これは違法な毒草と位置づけだったが、何代か前の王妃の子が魔力過多により命を失ったことにより、この病に対する研究がされ、薬草の位置づけのにされたものだ。だから、私が子供ながら煙管キセルを吹かしていても治療の一環なのだ。

 しかし、それを良しとしない者がいた。私の婚約者であるラートウィンクルム殿下だ。
『見た目が悪い』
『違法な薬なのではないのか』
『私の前で吸うな』
『老婆のようで気持ち悪い』
 と、色々言われてきた。金髪碧眼のキラキラ王子様に。見た目は文句なしにいいのだけど、性格が少々……かなり捻くれていた。
 私の事が気に入らないのは明白だった。


 私の先天性の病が発覚したことにより、王家は方針転換をしてきた。王子妃教育は程々でいいから、国の安寧の為に力を振るえと。

 そして、私は魔物が暴れているという情報がもたらされれば、連行され魔物討伐に組み込まれてきたのだが、辺境での厳ついおじさんに慣れていた私は王都のなまっちょろい騎士達の戦い方は性に合っておらず、不満ばかりが溜まっていた。

 その頃からだ白銀の聖女なんてことを言われ始めたのは。
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