上 下
95 / 121

95 は?嫉妬?

しおりを挟む
 私は外套のフードを深く被って1軒の店の前に立っている。宿屋兼酒場【グロージャン】の扉の前だ。勿論、ジュウロウザの腕をガシリと右手で掴んで、左手はいつでも武器ムチを振れるように手を添えておく。勇者リアンと立ち向かうにはジュウロウザ武器ムチは必要だ。

 そして、先鋒先頭のシンセイが頭の上に黒いオプション幼竜を乗せて、中に突入して入っていく。

 あの後、シンセイの言葉に不本意ながらも理解を示したジュウロウザが向こうの態度によって、こちらの対応を変えると言って、翌朝この集合場所まで足を運んだのだ。


 シンセイが扉の中に入って行った瞬間、騒がしくなった。よく聞こえないが、『ジジィどこの者だ』とか『置いていけ』とか口の悪い言葉が色々聞こえてくる。冒険者ってガラが悪すぎる。

 突如、そのざわめきに被さるような大声が耳に入ってきた。

「ちょっとー遅いじゃない!どれだけ待たせるのよ!」

 耳につくようなルナの声が聞こえてきた。

「ルナ。仕方がないよ。俺たちと彼らは違うのだから」

 うぉぉぉぉ。全身の肌が一気に粟立った。リアンの声質がもう駄目だ。ルナ大好きオーラが溢れている。

「気持ち悪い」

 思わず声に出てしまった。

「モナ殿。戻るか?」

 ジュウロウザ。私の本心を聞かなかった事にして欲しい。私は言葉無く首を横に振る。口を開けば、思わず罵倒の言葉が出てきそうだ。

 騒ぎが収まったので、ジュウロウザに中に入るように促す。

 中に入ると死屍累々の山が····。シンセイが杖でつついただけと?だけと言われても、その杖は魔物を今まで屠ってきた物だよね。

「ヒッ!」

 引きつったような声が聞こえて来た方に視線を向けると、一番にキラキラの物体が視界を占めた。そのキラキラの物体はニコニコと笑いながらこちらに手を振ってきた。
 思わず踵を返したい衝動にかられたけれど、ぐっと我慢をしてリアンに声を掛ける。

あ゛?!久ぶり何が違うって?待たせたねだったらでも始めっから仕方がないよねを頼らないでのステータスもらえる?わかってるよねリアン」

 あ、心の声と本心を間違えた。いや、どちらも本心だ。建前と本心だった。

「カスヒロインとクラッシャー!」

 その言葉を言った人物を見る。白い髪に黄色い目をした可愛らしい少女が清楚な白い聖職者の装備を着てリアンの隣に座っていた。少し幼いがゲームのルナにそっくりだ。

「混ぜるな危険がなぜ一緒に居るのよ!最悪!」

 そう言ってルナは私達を指さした。

「ヘボ聖女。文句があるなら自力でダンジョンに行ってもらえる?」

「モナ!彼女はヘボ聖女じゃない!ルナっていう名前がちゃんとある」

 リアンがどうでもいい横槍を入れてきた。あの少女がルナだって知っているし、向こうがカスヒロインって言ったから言い返しただけだけど?そして、ルナのことはかばうってことは、かなり信頼度を上げているのか。まだ、勇者の光を手に入れられないのに?

 私は馬鹿にしたように鼻で笑う。

「フッ!別に私がここまで足を運ぶ必要なかったのだけど?そこにいるまともに回復魔術が使えない聖女候補が、両親が心配だって泣きつくから仕方がなくここまで来てあげたのだけど?」

 確かにヘボ聖女じゃなかったね。回復魔術の成功率が4割にも満たない彼女はまだ候補でしかなかった。

「泣きついてないわよ!さっさとこっちに来て!行く経路の確認するわよ!その前にそこのクラッシャーを外に出して!私、まだ死にたくない!」

 彼女もゲームのジュウロウザで地獄モードを体験したのだろうか。ジュウロウザをまるで化け物でも見るような目で見てくる。

「悪いけどそれは無理ね。彼は私の両親から私の護衛の依頼を受けているから。今回のダンジョンに潜るのに彼を外すというなら、依頼破棄金額で星貨20枚必要なのだけど、貴女が払ってくれるの?」

 依頼破棄の言葉が私の口から出た瞬間、ジュウロウザから、絶望的な視線を感じた。それに対し、私は黙っているように人差し指を立てにして口元に持っていく。少し黙っているようにと。

「はぁ?4千万Gガルなんてお金が在るはずないでしょ!」

「そうでしょうね。そこに彼女の食費にお金が消えて行くものね」

 そう言って私は一人黙々と食べ物を口に運んでいる女性を指す。
 金髪を三編みに一つでまとめ、紫の目は目の前の食べ物しか映っていない。その格好はビキニアーマーという防御として意味があるのかわからない防具を身に着け、その横には背中に背負う程の大剣が置いてある。
 女剣士ルアンダだ。彼女のSPを維持するためには常に物を食べておかなければならないという、とても燃費効率の悪い人物なのだ。

 私に指摘されたルナは悔しそうな顔をする。恐らく、何かと名声が上がっては来ているが、それよりも金をくれというのが実情なのではないのだろうか。

「要はガーディアンさえ倒せばいいのでしょ?地下50階の扉の前に現地集合でいいのでは?その先の未発見領域にあなた達だけで行けば、また新たな名声が増えるでしょう?」

「それはかなり、うちらに都合のええ話やねぇ」

 そう言うのは、水色の髪に青い目をした奇抜な格好をした女性だった。奇抜···ゲームではなんとも思わなかったが、実際に見てみると、踊り子の衣装というものは目のやり場に困ってしまう。最低限を金属の装飾で隠し、後は薄いベールのような物を身に纏っているだけだ。
 そんな目のやり場に困る衣装を身に纏っている彼女は鉄扇と呼ばれる金属でできた扇で半分顔を隠してこちらの様子を伺っている。
 踊り子シュリーヌだ。彼女は衣服の防御力が皆無のため装飾品が多数必要となってくるのだが、それがよく壊れるのだ。ゲームに物の劣化性を取り込まないでほしかったが、彼女の装飾は一戦ごとに何かしら壊れていく。そう、彼女も金食い虫なのだ。

「都合がいいですか?私ははっきり言ってあなた達と関わりたくないので、依頼料も報酬もいりません」

「なんじゃ?小娘。わらわたちに嫉妬でもしておるのか?幼馴染みといっても所詮幼馴染みということじゃ」

 は?嫉妬?どこをどう嫉妬しろと?

「なんじゃ?なぜ意味がわからぬと首を傾げておるのじゃ?」

 このじゃじゃ言っている人物は見た目は5歳児程の幼女だが、300歳の魔女だ。黒髪に黒のロリータドレスに赤い目が印象的な子供だ。しかし、300年も魔女をしているだけあって、その知識量と使える魔術の術の種類は群を抜いて一番だ。
 ただ、魔力量が少なく大技一発で使い物にならなくなる魔術師メリーローズ。

 私は彼女の言いたいことがわからない。

「リアンの側にいられんで悔しいのじゃろ?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

【完結】若き最強のサムライ、異世界でも剣を振るう ~神威一刀流の秘剣を伝授された拙者、異世界に誘拐された婚約者を見つけるため剣鬼とならん~

岡崎 剛柔
ファンタジー
 片桐進之介は、江戸で最強の流派の1つと言われていた神威一刀流の正統継承者。  その進之介には剣の師匠の1人娘であり婚約者でもあった梓がいたのだが、ある日、梓は神隠しに遭ったように姿が消えてしまった。  進之介は行方不明の婚約者・梓を探すため、「神隠し」の噂が絶えない時坂神社へ向かう。  そこで進之介は異世界から来た謎の人物――クラウディオスと出会い、梓を攫った犯人だと思い戦いを挑む。  人間を超えた激闘の末、クラウディオスは進之介から逃げるように古池に飛び込んで姿を消してしまう。  進之介は驚愕しながらも、クラウディオスのあとを追って古池に飛び込む。  そして気づいたときには、進之介は見知らぬ異世界へ転移していた。  行方不明の婚約者・梓がいるかもしれない、南蛮国のような異世界へと――。  果たして進之介は、異世界で梓を見つけられるのか?  若き最強のサムライが、異世界で婚約者を見つけるために剣を振るう壮絶な冒険譚、ここに大開幕!

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました

hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。 そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。 「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。 王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。 ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。 チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。 きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。 ※ざまぁの回には★印があります。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

処理中です...