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91 夏の神エスターテ神

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─そなた等の願いを叶えてやろう─

 ふぉ!またか!

─道中の安全を祈願した娘よ、そなたには輿図と移動の呪を授けよう─

 ヨズ?ヨズって何?意味がわからないのだけど?

─守護の娘を如何なる厄災からも守護する力を望んだ者よ、陣の呪を授けよう─

 ジンもよくわからないな。

─主の意を汲むことを望んだ者よ、仁の意を授けよう─

 ん?呪じゃなくてイ?はぁ、神のお言葉は難しいな。

─そして、久しく我が神殿を訪れた、そなた達に極の逆転を授けよう─

 なんだって!

「マジですか!」

 驚きのあまり、思わず下げていたこうべを上げて、上を仰ぎ見た。そこには宙に漂っている赤き衣を纏い、海の青を映したような鮮やかな青い髪が印象的な男性が存在していた。そして、そのエスターテ神はニヤリと笑った顔を私に見せ、泡のように姿を消していった。

【極の逆転】

 ネット上では噂には上がっていた。そのスキルを使うと一定の時間を巻き戻せるのだ。そう、終末を変えることができるという意味の極の逆転。死んだ者も死んだ事にならず、生きたまま存在できる未来を作れるある意味チートスキル。

 え?というかここでそんな物もらえた?夏の神殿って5日後に発生する果実を食すればランダムで基本ステータスのいずれかがアップするだけのものだったはず。

「モナ殿如何したのだ?」

 私が上を見たまま固まっているので、ジュウロウザが心配でもしたのだろう。しかし、私は興奮したままジュウロウザに答える。

「いかがしたも何も【極の逆転】のスキルですよ!こんな時間の逆行が行えるスキルなんて普通は貰えないです!」

「時間の逆行?」

「そうです!今の時間軸を起点に一定時間が戻せるのです。····まぁ、使うことが無いことが一番いいことなのですけど」

 冷静に考えれば、使わないことの方が一番いい。時間を巻き戻すなんて、どれだけリスクがあるかわからない。

「気にしないでください。思ってもないスキルを戴いたので、驚いてしまっただけです。ここで、あと5日ほど時間を潰さないといけないので、私は白亜の間に行きたいです」

「モナ殿が行きたいところに行けばいい。それで、白亜の間というところはどこに行けばいい?」

「先程の道を戻って一番左の細い道です」

 私がそう答えると同時にジュウロウザに抱えられてしまった。だから、私は歩けますよ!


 ジュウロウザに言っても抱えられているのは変わりがないので、私はステータスを確認する。先程エスターテ神から言われた【輿図と移動の呪】だ。

 ステータスを開くとスキルの欄が増えている。マップスキルと転移のスキルだ。え?転移?個人で転移が行えるの?

 取り敢えずマップスキルを使ってみる。
 すると突然、目の前に立体的な地球儀が浮かんできた。

「ふぉ!」

 驚きのあまり思わず声がもれてしまった。

 よく見ると、正確には地球ではない。なぜなら、その地球儀には、ユーラシア大陸もアメリカ大陸も見当たらず。薄っすらと記憶の海に没しているゲームの世界儀に見える。

 で、これをどうしろと?拡大してみる?
 見慣れた現在地を示すマークのところを親指と人差し指を広げる動作をしてみる。うん、微妙に拡大された。それをそのまま拡大してみる···こ、これは航空写真?すごく鮮明に木々が見られ、神殿を囲っている泉がキラキラしている。キラキラ?これはLIVE映像?ど、何処から撮っているの?

 あ、木々の間に黒い馬が自分の倍程の大きさの何かの死骸を食べてい··見なかったことにしよう。ベルーイは元気そうだった。

 神殿のところをダブルクリックしてみるとピンが落ちてきた。

〘ここに転移しますか?〙

「へ?」

 なんか表示が現れた。もしかして、ピンが落ちた所に転移ができる?な、何ていうことだ!ゲームの時に転移のスキルがあったらもう少しスムーズに進められたんじゃないのか?

「モナ殿どうかしたのか?」

 私があまりにも怪しい行動をして、怪しい声を発していたから、頭がおかしくなったと思われたのかもしれない。 

「え?あの、戴いたスキルが思ったよりも凄かったので、驚いてしまったのです。この世界地図があるだけでも凄いのに、そこで示した所に転移ができるのです!ん?これって何人まで転移ができるんだろう」

 転移装置は5人だ。ということはそれよりも少ない?わからない。私の目でもそこまで詳しくは視えない。

 そして、そのままジュウロウザを見てしまった。ジュウロウザの新たに発生したスキルはというと。

【星結界スキル】

 おお!結界の中でも上から2番目の強固な結界だ。これは極級の魔術を受けてもびくともしない強度がある結界だ。でも、なぜに結界?まぁ、いいか。


「それで、白亜の間とはここでいいのか?」

 細い廊下を通り抜けると、突然青い空が広がった。その先には白い美しい宮殿が水の上に浮かんでいるように見える。
 しかし、水は石の通路の上を流れるようにあるだけで深さはない。これは白い宮殿を引き立てる水なのか涼を求める水なのかわからないが、この空間は美しいとしか表現ができない。

「ええ、奥の宮殿に行ってください」

「これはいつの間にか外に出たのであろうか?」

 シンセイが青い空を見ながら言った。

「室内ですよ。この神殿はあと3つこのようなところがあります。ここは世界のすべての知識があると言われている書物の数々と世界の始まりを記した【世界の書】があるのです」

 そう、ゲームではこの宮殿を訪れても、天井まである本を調べても、〘ただの本〙としか示されず、【世界の書】を調べても〘世界の始まりが書かれている〙としかなかった。

 んな訳あるか!本がこれでだけあって、目ぼしい情報が得られないなんておかしすぎる!

 と、画面に向かって叫んだことが、思い出されて、気になっていたのだ。何が書かれていたのだろうって

 そして、私達は5日間という時間を膨大な書物がある白い宮殿ですごし、後ろ髪を引かれながら、果実を探し、夏の神殿を後にしたのだった。

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