上 下
90 / 121

90 夏の神殿

しおりを挟む
「「浮島?」」

 浮島ということに二人の声が揃った。見た目は対岸か、ただの島だ。まさか浮いているとは、思わないだろう。

「と、言うことはこの泉は見た目以上に巨大であるということか?普通では渡れなさそうな感じであるのぅ」

「モナ殿どうすれば行けるのか?」

 いや、行かなくていいし、それに普通では行けない。呼ばれない限りは

「キトウさん行かなくていいですよ。浮島が移動して岸まできてくれればいけますが、そんなこと早々に···」

 ギギギギギと怪しい音が何処からともなく響き渡ってきた。
 泉の中央を見ていると、島が動いている!!!よ、呼ばれている!そんなはずは···私は勇者じゃないよ。

「行けるようであるな」

 そう言ってシンセイが泉の方に足を向けた。いや、行けば恐らく、数日は地上に戻ってこれない。

 ドンッという地響きを立てながら浮島が接岸した。

「では、参ろうか」
「モナ殿。如何した?」

 シンセイはサクサクと足を進め、浮島の上に乗ってしまった。その姿を見て私はうなだれる。

「浮島に入れば最低5日は出てこれないです」

 私の言葉に『なんじゃと!』と言って浮島から出ようとして、透明な何かに弾かれているシンセイがいる。

「浮島に入って5日後に神殿の何処かに生る自分にしか見えない果実を食すれば、出られます」

 そう、神殿の地下の一部がジャンルのような密林になっている。そこの何処かに自分にしか見えない果実を食べれば、出られるという仕組みだ。

「はぁ。入りましょうか」

 シンセイと頭の上の幼竜を置いて行くことはできない。ベルーイは5日の間も食料魔物がない神殿の中に拘束しておくことは可哀想なので、手綱を外して自由にさせておいた。5日後には戻ってくると言っておけば、賢いベルーイならわかってくれるだろう。そのベルーイは『キュキュ』と鳴いて木々の中に消えて行った。
 ほ、本当に帰って来るよね。私は歩いてサイザールまで行けないよ。

 そして、私は浮島に一歩····ジュウロウザ、なんで、私を抱えているのでしょうか?浮島に足を取られて泉に落ちたら大変だ?
 そう言われてしまったら、何も言えない。
 雪にでさえ顔面から突撃した私のことだ。浮島から転がり落ちることは否定できない。

 ジュウロウザに子供のように抱えられ、浮島の上に生えている木々の間を抜けていく、その先には冬の神殿と同じように白い建物が垣間見えてきた。近づいていくと、浮島の上にも関わらず、建物の手前には水が満たされた大きな水の庭と言っていいところがある。それが水鏡のように白く美しい神殿を映し出していた。

「キトウさん。そこの神殿の入口を映した水鏡が入口です」

 そう、ここは普通に白い建物の中に入っても、夏の神を祀った像しか存在しない。本来の神殿は水鏡の中にあるのだ。

「水鏡が入口なのか?」
「これはこれは奇妙な空間であるのぅ」

 シンセイは奇妙な空間と言いながら、なんの躊躇もなく足を水に付けて進んでいく。段々足を進めるごとに、シンセイの体は水の中に沈んで行っている。そして、完全にシンセイの姿も頭の上にいたノワールの姿も見えなくった。

「では、俺たちも行こうか」

 ジュウロウザがそう言って、水鏡の入口から足を進め、水の中に入ってく。私の足先も水が浸かる位置にきたが、全く濡れている様子がない。まるで、水があるように幻覚を見さられているようだ。

 一階分ほどの階段を降りたあとには、篝火の光が満たされた空間に降り立った。何処を見ても濡れている様子がない。ゲームではなんとも思わなかったけれど、実体験をすると不思議な感じだ。

「この先はいくつも道が別れておるが、どう、いたそうか?」

 石の壁に囲まれた広い空間の先には5つの通路が見える。まずは、挨拶に伺うのは普通だろう。

「中央の広めの通路の先に祭壇がありますので、そこで夏の神エスターテ様に挨拶をしましょう」

 私がそう言うとシンセイが進み出し、その後ろからジュウロウザが進みだした。
 あのー私歩いても問題ないと思うのですが?滑ると大変?
 いや、ここは普通に石の通路ですよね。
 でもですね。私も歩かないと駄目だと思うのですよ。

 ジュウロウザと押し問答をしている内に祭壇のある空間までたどり着いてしまった。祭壇の上部には夏の神をかたどったと思われる白い像があり、更に上に視線を向けると、水の中から空を見上げているような天井があった。
 とても、涼やかな空間だ。

 ジュウロウザに石の床の上に下ろしてもらい、床に膝をついて右手を左の胸に添えて、左手は床に添える。

〘この神殿にお招きいただきまして夏を司るエスターテ神に感謝申し上げます。無事にロズワードに行って村に帰れますように〙
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

【完結】若き最強のサムライ、異世界でも剣を振るう ~神威一刀流の秘剣を伝授された拙者、異世界に誘拐された婚約者を見つけるため剣鬼とならん~

岡崎 剛柔
ファンタジー
 片桐進之介は、江戸で最強の流派の1つと言われていた神威一刀流の正統継承者。  その進之介には剣の師匠の1人娘であり婚約者でもあった梓がいたのだが、ある日、梓は神隠しに遭ったように姿が消えてしまった。  進之介は行方不明の婚約者・梓を探すため、「神隠し」の噂が絶えない時坂神社へ向かう。  そこで進之介は異世界から来た謎の人物――クラウディオスと出会い、梓を攫った犯人だと思い戦いを挑む。  人間を超えた激闘の末、クラウディオスは進之介から逃げるように古池に飛び込んで姿を消してしまう。  進之介は驚愕しながらも、クラウディオスのあとを追って古池に飛び込む。  そして気づいたときには、進之介は見知らぬ異世界へ転移していた。  行方不明の婚約者・梓がいるかもしれない、南蛮国のような異世界へと――。  果たして進之介は、異世界で梓を見つけられるのか?  若き最強のサムライが、異世界で婚約者を見つけるために剣を振るう壮絶な冒険譚、ここに大開幕!

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました

hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。 そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。 「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。 王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。 ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。 チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。 きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。 ※ざまぁの回には★印があります。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

処理中です...