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79 ワタシ、シヌカモ

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「別に忘れてないよ。でもねソフィー。人の命が掛かっているなら、頑張らないといけないと思うんだ。心配してくれてありがとうね。ソフィー」

 ソフィーにそう言うとソフィーは頬を膨らまして、不満を表している。でもこればかりは何回言われようが変わらないと思うよ。
 そんなソフィーに父さんが声をかける。

「ソフィーがモナの心配しているのはわかるが、モナのおかげで病が治ったのは事実だ。そこはモナにありがとうと言うべきだろ?」

「むー」

 父さんの言葉にソフィーは納得をしていないようだ。納得ができないソフィーが口を開こうとしたとき、玄関の扉がバンッと開いた。

「モナちゃん!お母さんに任せておきなさい!」

 ん?何の話?
 いきなり入ってきた母さんがそんな事を言っているけど、母さんが相談に行く経緯も理解できなかったのに、どこをどうしたら母さんに任せるという流れの話しになったのか私にはさっぱり理解できなかった。




 季節は流れ、夏の日差しがサンサンと降り注ぐ季節になった。飛びすぎだって?まぁ、色々あった。
 あの後、元気になったリリーに突撃されたり、エクスさんがシンスイって何!と、突撃されたり、フェリオさんにも····いや、近づかないでください。
 そんなふうに徐々に日常を取り戻していった。

 今、私は自分の畑で夏野菜の収穫をしている。瑞々しいトマト。青々としたピーマン。緑の皮を剥けば黄r····虫に食べられたトウモロコシ····今年もか!
 野菜の名前は私が勝手に呼んでいるだけなので、本当の名は別にある。

 そんな食べ頃の野菜を収穫していっている。麦わら帽子のツバから差し込む日差しに目を細めた。本当に2ヶ月前のことが嘘のように穏やかな日々だ。
 しかし、後ろにいる巨体が嘘でなかったという事を示している。後ろの巨体。
 父さんが日傘を持って立っているのだ。ウザい、鬱陶しい、圧迫感あり過ぎと文句を言っても私が畑に出ていると日傘を差して背後に立っているのだ。

「父さん、暇ならどこか依頼でも受けに行ったらどう?」

「これが父さんの仕事だ」

 いや、これは仕事でもなんでもないし。

「それに手伝いに行っても邪魔って言われるから仕方がないよな」

 手伝い。それは私が依頼をしていた水路と水車の作業のことだ。厳つい体をしている父さんは溝と言っていい水路を掘る作業に適さず、細かい作業になる水車作りも適していなかった。
 今は手が空いている村人で手分けして水路と水車を作ってもらっている。

「それに冒険者稼業は少しお休みだ」

 冒険者としての活動を休止する。これは1月前に村で決められたことだ。なんでも隣国イルマレーラが消滅したらしい。父さんたちが受けるはずだった依頼を出した国だ。あの遺跡ダンジョン都市『ルルド』の調査依頼。

 どうやら、別の冒険者に頼んだらしい。そして、ゲームと同様に廃墟都市になってしまったようだ。

「モナ殿。村長殿が呼んでいるのだが」

 農作業をしていたジュウロウザが戻ってきた。水田の草抜きを農作業の重鎮グランじぃに頼まれ、手伝いに行っていた。

「村長が?」

 一体何の用だろうと首を傾げてしまう。取り敢えず村長のところに行けばいいか。
 収穫した野菜が入った籠を後ろで突っ立っている父さんに渡す。すると、日傘を渡された。差して行けと。

「キトウさん、お疲れさまです。汚れを落としたら、キッチンに昼食を用意しているので食べてくださいね」

「かたじけない」

 そう言ってジュウロウザは真新しい家に入って行った。真新しい家。そう、母さんが任せておきなさいと言ったのは家の新築の事だった。私には意味がさっぱりわからなかったが、守護者とは共に暮らさなければならないという、風習があるらしい。今でも私は理解できないでいる。

 今まで住んでいた家はばぁちゃんとソフィーの作業場に改装され、その横には今までの倍程の大きさの真新しい家が建っている。そこに私達家族とジュウロウザとシンセイが共に暮らしているのだ。


 私は村長が恐らくいる南の水路を作っているところに向かっていく。家々が建ち並んでいるところを過ぎると、少し拓けた空間がある。そこではシンセイが子どもたちに棒術を教えていた。5歳から15歳ぐらいまでの男の子と女の子10人程が一列に並んで棒を振っているのが見える。
 シンセイは直ぐに村の人たちに受け入れられたっというか、腕に自信がある人たちがこぞってシンセイに手合わせを申し込んでいた。

 うん、みんな大きな声で掛け声を出して、元気いっぱいでいいね。その中に混じっていたルードが私に気がついて手を振ってくれた。
 私に手を振らなくていいから、前を向きなさい。

 さて、あまり村長さんを待たせるといけないよね。そう思い、訓練をしている子どもたちから目を離し、行き先の方に視線を向けると、キラキラが視界をかすめ、日傘が風に飛ばされ、私の手から離れていった。そして、ガシリと捕獲されたような圧迫感。

「モナ、ごめんね」

 ワタシ、シヌカモ。

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