上 下
70 / 121

70 吾が仕えし姫

しおりを挟む
 はい、私は何故か薄暗く壁に囲まれた道を進んでいます。何故でしょう?それもジュウロウザに抱えられています。

 その前には杖をつきながら歩いているお爺さんがいます。

 私、否定したよ。無理だって。駄目だって。なんでこんな事になっているんだ!!



 あの雨の中、私はシンセイに夏王の最後の言葉を言ったのだ。人には出来ないこともあるという意味を込めて、しかし、シンセイは別な方向に捉えてしまった。

 雨に打たれながら、水が溜まった地面に跪くシンセイ。

「ここにおいでにありましたか姫君。探し申しておりました」

 ん?何のこと?ボケ老人の戯言?

「このシンセイ。陛下の命により血を分けし妹を探してまいれと言われ、各地を巡り探し申しておりました」

 なんか、この話はおかしいな。確かゲームで今の夏王は一族を皆殺しにして王位についたはず、それも前王の一番末の子だったはず。妹なんていやしない。

「その王の妹さんの特徴はなんですか?」

「陛下は会えばわかると」

 駄目だ。これは絶対に駄目な部類だ。ちらりとジュウロウザを伺い見る。これ、絶対にジュウロウザと同じで国を追い出されたパターンだ。

 ゲームではボケ老人のシンセイが国を出ている理由が語られることはなかったが、先の夏王に重宝され、己の武器まで与えられた人物だとすれば、現王にとっては鬱陶しい存在だったのだろう。下手に扱えば、周りの者が黙ってはいない、古参の老人の言葉を無視することは出来ない、そんなところか。

「はぁ。わからない人を探すのは大変でしょうが、私には父も母もいますので、その姫君ではありませんよ」

 すると、シンセイは老人とは思えないぐらい素早く、すくっと立ち上がり、私を見て言った。

「姫君は姫君であります。吾が仕えし姫であります」

 その姿に若かりし頃の黒髪のシンセイの姿が私の目に映った。姿は老いぼれても魂は己が仕えた夏王と共に戟を振るい、戦った頃のままだと言わんばかりに。

「モナ殿。この御仁は俺と同じだったりするのか?」

 私とシンセイとの会話でジュウロウザも気がついてしまったようだ。

「仕える主を失った老将の居場所など限られているでしょうから」

 私はジュウロウザの言葉に肯定も否定もしない。私はシンセイがここにいる経緯を知らないのだから。

 ジュウロウザは何かを考えているのか黙ってしまった。

「お爺さん。私はただの村娘ですよ。村は穏やかな時が流れていて、争い事なんてありません。私に仕える意味なんてありませんよ」

「仕える意味を見出すのは吾にあり」

 えー。困るし。村にシンセイが居ても····いや、みんな嬉々として戦いを挑んでいそう。何故か冒険者をしている皆は向上心が旺盛なのだ。恐らくシンセイも村の結界を普通に通ることができるだろう。仕える新たな王に存在しない人物の捜索を命ぜられたのだ。それはもう戻ってくるなと言われたのと同意義。

「モナ殿。ダンジョンにあの御仁の武器を取りに行かないか?」

「は?キトウさん何を言っているのですか?」

 無理だし。私の駄目具合をジュウロウザは百も承知のはず。

「いや、32階層の突き当りというのなら、あの御仁一人で行けるかもしれないが、モナ殿は罠の中と言った。それは、普通では見つけられないということではないのだろうか」

 はっ!確かに!私も偶然見つけてしまっただけだし、普通なら39階層に真っ逆さまだ。
 ん?ということは、私も罠の中に飛び込まないと行けないわけ?7階層分を落下しろと?いや、あの神殿のフリーフォールもどきと比べれば、まだ、高さが低い方か。しかし、でも、そもそも私がダンジョンに入るということ自体無理がある。

「キトウさん。私、ダンジョンで生きていけませんよ?」

「抱えて行けば問題ない」

「なら、吾が先鋒を勤めよう」

 なに普通にシンセイが話に混じってきているんだ!ジュウロウザ!そこで頷かないで!


 そして、翌日私はジュウロウザに抱えられ、薄暗い道を進んでいる。その前には杖をついた老人がいる。すれ違う冒険者達に奇異な目で見られつつ進んでいる。
 ベルーイは流石にダンジョンの中に入れないので、宿でお留守番だ。

「シンセイさん。そこ右です」

 私は時々行く道を指示している。最初は進む道がわからないと思っていたが、レベリングするために何度もダンジョンに潜っていたので、段々思い出してきていた。

「真ん中に落とし穴があるので、壁側を通ってください」

 前方を行くシンセイは杖をついてはいるものの足取りはしっかりしており、飄々とした感じで進んでいく。本当にこれがあのボケ老人なのだろうか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン
恋愛
前世、会社勤務のかたわら婚活に情熱を燃やしていたクロエ。生まれ変わった異世界では幼馴染の婚約者がいたものの、婚約を破棄されてしまい、またもや婚活をすることに。一風変わった集団お見合いで出会ったのは、その場に似合わぬ一匹狼風の男性。(…って本当に狼獣人!?)うっかり惚れた相手が生きる世界の違う男性だったため、番(つがい)やら発情期やらに怯え、翻弄されながらも、クロエは幸せな結婚生活を目指す。 シリアス―★☆☆☆☆ コメディ―★★★★☆ ラブ♡♡―★★★★☆ ざまぁ∀―★★☆☆☆ ※匂わす程度ですが、性的表現があるのでR15にしています。TLやラブエッチ的な表現はありません。 ※このお話に出てくる集団お見合いの風習はフィクションです。 ※四章+後日談+番外編になります。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス
恋愛
「え、ここって四つ龍の世界よね…?なんか体ちっさいし誰からも見えてないけど、推しから認識されてればオッケー!待っててベルるん!私が全身全霊で愛して幸せにしてあげるから!!」 乙女ゲーム「4つの国の龍玉」に突如妖精として転生してしまった会社員が、推しの悪役である侯爵ベルンハルト(通称ベルるん)を愛でて救うついでに世界も救う話。 本編完結!番外編も完結しました! ●幼少期編:悲惨な幼少期のせいで悪役になってしまうベルるんの未来を改変するため頑張る!微ざまあもあるよ! ●学園編:ベルるんが悪役のままだとラスボス倒せない?!効率の良いレベル上げ、ヒロインと攻略キャラの強化などゲームの知識と妖精チート総動員で頑張ります! ※推しは幼少期から青年、そして主人公溺愛へ進化します。

【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました

hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。 そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。 「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。 王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。 ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。 チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。 きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。 ※ざまぁの回には★印があります。

【完結】若き最強のサムライ、異世界でも剣を振るう ~神威一刀流の秘剣を伝授された拙者、異世界に誘拐された婚約者を見つけるため剣鬼とならん~

岡崎 剛柔
ファンタジー
 片桐進之介は、江戸で最強の流派の1つと言われていた神威一刀流の正統継承者。  その進之介には剣の師匠の1人娘であり婚約者でもあった梓がいたのだが、ある日、梓は神隠しに遭ったように姿が消えてしまった。  進之介は行方不明の婚約者・梓を探すため、「神隠し」の噂が絶えない時坂神社へ向かう。  そこで進之介は異世界から来た謎の人物――クラウディオスと出会い、梓を攫った犯人だと思い戦いを挑む。  人間を超えた激闘の末、クラウディオスは進之介から逃げるように古池に飛び込んで姿を消してしまう。  進之介は驚愕しながらも、クラウディオスのあとを追って古池に飛び込む。  そして気づいたときには、進之介は見知らぬ異世界へ転移していた。  行方不明の婚約者・梓がいるかもしれない、南蛮国のような異世界へと――。  果たして進之介は、異世界で梓を見つけられるのか?  若き最強のサムライが、異世界で婚約者を見つけるために剣を振るう壮絶な冒険譚、ここに大開幕!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...