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69 老将 秦清

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 杖を武器代わりに振るっている老人。夏国の衣服である深衣を纏い、奇声を発しながら雨に濡れているボケ老人。
 その正体は夏国で将軍と呼ばれ、夏国を大国と呼ばれるまでに押し上げた夏王に仕えた将軍シンセイ秦清だ。通称”じぃ”と呼んでいた。これもゲーム情報にあった。

 このシンセイはとてもとても重宝した。自ら攻撃はできなかったが、全てカウンターで打ち返せるのだ。それもただの杖で。ただし、魔術の攻撃には反応できなかったのだが。
 そして、有る事無い事を常に話しているのだ。『ばぁさん飯はまだかいのぅ』のセルフが一番多かったな。しかし、その時に食事を渡さないと『虐待じゃ!老人に対する虐待じゃ!』と叫びだすのだ。困った爺さんである。

 私は足を止めず、杖を振り回している老人に近づくが、近づけなかった。後ろから肩を掴まれ、引き止められてしまった。後ろを振り向くと怒った顔のジュウロウザが···あっ、ごめん。

「モナ殿!」

「ごめんなさい。ちょっと、あのお爺さんと話がしたかっただけだから、放してもらえる?」

 しかし、ジュウロウザは放してくれない。

「理由を言えば離す」

「理由?失くし物の場所を教えてあげるため?」

「失くし物?」

 私はシンセイの杖を指差す。そう、ただの杖だ。

「あのお爺さんの大切な武器があるところ」

 そう言うと、ジュウロウザは手を放してくれた。シンセイの武器。先程叫んでいたげきだ。鉾と刀が一体化した槍と言えばいいのか。それがシンセイの武器だ。今は彼の手元にはないシンセイの魂と言っていい武器。

 私は杖を振るっているシンセイに近づき、杖が当たらない距離で足を止めた。

「腹が減っては戦はできませんよ。握り飯を一ついかがですか?」

 私は今日はパンではなくご飯にしようとあまり量がないお米を炊いていたのだ。それを塩で握って、抗菌作用のある葉で包んだ物をシンセイに差し出す。

「おお、かたじけない」

 先程からお腹がグーグーと鳴っているのが気になっていた。
 シンセイは包んでいた葉をむしり取って、二つ入っていたおにぎりを両手に持って口に押し込んでいた。それ、喉に詰まるって!
 おにぎりを食べ終わったところで、シンセイに話す。

「お爺さん。貴方の大切な戟はここのダンジョンの32階層の罠の中にありますよ」

 そう、罠の中。たまたま見つけてしまったのだ。ゲームで、ここのダンジョンの32階層から39階層に落ちる縦穴に落ちてしまったのだ。普通ならそのまま39階層に落ちてしまうのだけど、罠にハマった私はコントローラーを連打し続けていた。そして、偶然に横穴に入ってしまい、その横穴のすぐ脇にキランと光る物が刺さっていたのだ。それが、シンセイの武器の戟だった。
 この情報はネットには上がっていなかったからびっくりしたよ。杖が通常武器だと思っていたシンセイに本当の武器があったなんて。

「な、なんと夏王から下賜された吾が戟の在処を知っているのか!では、参ろうぞ!」

 と言われたところで、足が宙に浮いた。
 は?なぜに、私はシンセイに米俵のように担がれているのか?

「モナ殿を放してもらおうか」

 私は後ろ向きでわからないが、ジュウロウザの声がする。担がれている私は、シンセイの肩が刺さってお腹が痛い。痛い!

「断る!この者は吾が魂の居所を知っておるのだ!」

 お腹が!くっ!何か口から出そうだ。

「お、おじい··さ···に·ぎりめし·もうひとつ···いかが?」

 こちらの言い分を聞かない対処の仕方はリアンで鍛えられている。興味がある別の事に意識を持って行けばいいのだ。

 すると、シンセイは私を肩から降ろし手を差し出して来た。私は葉に包まれたおにぎりを渡して、速攻ジュウロウザのところに·····私が向かう前にジュウロウザに捕獲されてしまった。
 そして、なぜかジュウロウザの外套の内側に入れられてしまった。それだと私の外套で濡れてしまうよジュウロウザ。

 しかし、胃から何かが出てくることは避けされた。こんなところで、モザイクキラキラエフェクトを出すわけにはいかない。


「先程の小娘を出せ」

 おにぎりを食べ終わったのだろう。シンセイの声が聞こえる。

「断る」

 なんか、一瞬乙女ゲーム的ヒロインのセリフが降って来たけど、口には出さないよ。

「キトウさん。少しお爺さんとお話を「駄目だ」はぁ」

 断られてしまった。しかし、シンセイからすれば戟は己の命と同等いや、それ以上なのだ。これはシンセイに戟を手渡すと起こるイベントでわかることなのだが、ジュウロウザにどう説明すべきか。

「キトウさん。もし、キトウさんの刀が誰かに盗まれたらどうですか?いくら探しても見つからないのです。その手がかりがわかったとすれば、藁をも掴む思いではないのでしょうか?」

 するとジュウロウザの私を抱えている力が緩んだ。そして、私はジュウロウザの外套から顔を出し、シンセイを見る。怒っているような悲しんでいるような複雑な表情をしていた。

「お爺さん。私はとても弱いので、ダンジョンには行けないのです。ですから、私がお爺さんにしてあげることは言葉だけなのです。『シンセイよ。共に戦えぬ余にできることは限られておる』そうですよね」

 病に倒れた夏王が最後にシンセイに言った言葉だ。そして、夏王が使っていた武器を渡された。これは余の魂だと。

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