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58 黙らせてこよう(十郎左 side)

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 先程から、外が騒がしい。
 泉の水を溶かして、モナ殿に飲ませて、安心したのもつかの間、モナ殿は高熱に魘されている。やはり、無理をさせてしまっていたのだろう。安静に休ませなければならないのに、外が騒がし過ぎる。

 黙らせて息の根を止めてこよう

 暖炉の側から少し離れるため、骸炭を焚べてから立ち上がる。顔が赤く、息が荒いモナ殿の側を離れるのは心配だが、仕方がない。ついでに外から氷を少々取ってこよう。

 刀を抜き、テントから外にでる。数人の人がベルーイに向かって攻撃をしていた。
 騒がしい原因はこいつらか!

 柄をギリリと握り、上段から思いっきり振り下ろす。衝撃波が走り、ベルーイと騒がしい者たちと分断する。

「騒がしいぞ。貴様ら」

 こいつらはなんだ?カツカツとベルーイがこちらにやってきた。

 5人だ。武器を携えた雪山装備の服装から、冒険者のようだ。

「一人か」
「一人だな」
「アレを殺せばこれはオレたちの手柄になるんっじゃないっすか?」
「おお、ドラゴンスレイヤーになれるのか!」

 そうか、ただ名声というモノを求めて氷竜を倒しにきた奴らか。

「リーダー!ヤッちまいましょう!」

 ああ、さっさと殺ってしまおう。邪魔だ。
 刀を鞘に納め、構える。五人の躯など一瞬で出来上がる。

「ま、待て!俺たちはドラゴンの素材を分けてもらいたいだけだ!そ、そうだ。下にあったドラゴンの角を分けて貰えないだろうか」

 リーダーと呼ばれた体格の良い人物が、仲間をかばうように前に出てきて言ってきた。ドラゴンの素材?そんなもの好きに持って行けばいい。

「リーダー!こいつ一人に何を」

「バカヤロー!見てわかんないのか!あいつはSランクのジューローザだ!俺たちが束になっても敵わないヤツだ!」

「ジューローザ?あの噂の?」
「いや、ただの噂だろ?ワイバーン5体は流石に誇張し過ぎだよな」
「噂が独り歩きしたって感じッスか?」
「ああ、それなら納得だ!」

 喧しい奴らだ。骨まで残らずに燃やし尽くした方がいいか。

「お前ら黙れ!死にたくなかったら黙れ!すまない。依頼でドラゴンの角が必要なんだ。分けてくれないだろうか」

 リーダーと呼ばれた男は慌てて仲間を諌め、氷竜の素材を分けてほしいと言う。素材なんていくらでも取っていけばいいが、ここに居られても騒がしいだけか。なら。

「下の氷竜を丸ごとくれてやるから、さっさとここを去れ!」

 殺気を乗せてそう言えば、5人は脱兎の如く、背を向けて去って行った。
 これで静かになったか。あと、氷を取って戻ろう。




 氷竜が作ったと思える氷を砕き、テントの中に持って入ろうとすれば、この山頂に近寄って来ようとする人の気配を感じた。下の氷竜を丸ごとやると言ったのに、何をしに戻ってきたのかと、ベルーイが溶かした氷壁の隙間を睨みつける。

「ヒッ!」
「あ!ジューローザ!お手伝いに来たけど、これは凄いわね」

 アネーレ殿が手を振り氷の壁の隙間からこちらにやってきた。その後ろから大きな荷物を背負っているエクス殿はビクビクしながらついてきている。
 確か、エクス殿は旅商人と言っていたか。それなら骸炭を持っているだろうか。

「すまないが、骸炭を売ってもらえないだろうか」

 アネーレ殿に隠れるように近づいてきたエクス殿に尋ねる。アネーレ殿は『ガイタン?』と首を捻っている。この国では別の言い方なのだろうか。しかし、エクス殿はビクビクしながら

「あるよ」

 と言った。

「火化石のことだよね。どうしたのかな?」

 やはり、別の呼び名だったのか。

「モナ殿が高熱で動かせないから、ここに留まらなくてはならいのだが、備え付けられていたものでは心もとないと思っていたのだ」

「あ、そういうk「モナちゃんが熱!」」

 エクス殿の言葉を遮ってアネーレ殿が詰め寄ってきた。

「大変!サリさんがいないのに、守護者のサリさんを連れてくる?」

 サリさん?確か、モナ殿の祖母殿の名だったな。サリ殿が守護者?薬師のサリ殿がモナ殿の守護者というのは頷ける。あの幼児並のステータスなら薬師は必要だろう。
 しかし、あの御老体でこの雪山は些か無理があるのではないのだろうか。

「祖母殿がこの山にくるのは難しいだろう」

「そ、そうね」

 アネーレ殿は何かを思い出そうと、考えるように唸っている。その横でエクス殿はマイペースに何やらたくさんの物を荷物から出しているが、どうするつもりなのだろう。

「はっ!薬!薬をモナちゃん持っていなかった?熱が出た時は定期的に体力を回復しないといけないってシアさんが言っていたわ!」

 薬は確かにモナ殿の荷物には入ってはいた。

「ある。傷薬の説明はされたが、他の薬の説明はされていないので、何を使っていいかわからない。アレーネ殿はわかるか?」

「私達が使っている薬はわかるけど、恐らくモナちゃんはモナちゃん専用の薬のはずだから、わからないわ」

 わからないか。しかし、定期的に体力を回復する必要があるのなら、神殿の泉の水がある。後はモナ殿の意識が戻ってから聞くしかないか。

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