上 下
46 / 121

46 私のお願いを

しおりを挟む
「モナちゃんはどうしてこんな国境にいるの?」

 アネーレさんがシチューを食べながら聞いてきた。その横でエクスさんは『美味しい美味しい』とシチューを口に掻き込んでいる。

「『雪華藤』を取りに来たのです」

「セッカトー?聞いたことないわね」

 アネーレさんが首を傾げなら、聞いたことがないと言う。あれ?おかしいな『雪華藤』は商品としてあったはず。そう思い、アネーレさんの隣にいるエクスさんを見る。

「『雪華藤』ね。あれは貴族に良く好まれるんだよね」

 エクスさんは『うんうん』と頷きながら、木の器を差し出してきた。

「なんです?」

「おかわり!ひめの料理は相変わらず美味しいね!」

 私はその木の器を受け取らずに手のひらを上にして手を差し出す。

「金貨1枚」

「シチュー、一杯が金貨1枚!ボッタクリ過ぎる!」

「大丈夫です。エクスさん価格です」

「え?何が大丈夫?それは安いってこと?そうじゃないよね?」

 別に熊からエクスさんを助け無くても良かったのだ。こんなところで時間を潰してしまったら、今日の行く予定であった廃墟の教会までたどり着けなくなってしまった。だから、エクスさんに助けた料金と予定を変更させられた迷惑料を払ってもらってもいいはずだ。

「代わりにテントでもいいですよ。『外見はテントだけど、中はロッジ風だよ』というネーミングセンスが残念な程にないテントでも」

 エクスさんは持っているはずだ。ゲームでは彼からしか購入できなかった拡張機能付きテント。どこでも泊まれて回復できる宿泊アイテムだ。
 そう、エクスさんもゲームに出てくる勇者の仲間だ。ゲームではアネーレという奥さんは出てこなかったけど、彼も仲間に出来る。こんな、回避能力しかない商人が何の役に立つかといえば、とあるダンジョンの罠の回避に役に立つのだ。本当ならレンジャーを仲間にすれば問題ないのだけど、そのレンジャーにも回避不可能な罠すら回避するのだ。流石、絶対回避スキルを持っているだけはある。

「あら?」

「それ、1ヶ月前に手に入れたばっかりの珍しいテントだよ。金貨1枚じゃなくて星貨1枚は欲しいよ」

 やはり持っていた。星貨1枚だってことぐらい知っている。それが、欲しくて課金したり、ダンジョンに潜ったりしたからね。

「エクスさん」

 私は神妙に話しかける。

「え?なに?」

 そして、エクスさんの目の前に指を1本立てた手を出す。

「エクスさんを助けるためにスノーベアーを倒した料金」

 2本目の指を立てる。

「アネーレさんを助けて欲しいとお願いされた料金」

 3本目の指を立てる。

「本当は今日2つ先の山の廃墟の教会に行く予定だったのに行けなくなってしまった迷惑料。これが200万Gガルって良心的な値段だと思いません?人の命はお金で買えませんよ」

 指が増えるたびにエクスさんの震えが酷くなっていく。そして、恍惚にほほえみ出した。何故だ。気味が悪い。

「流石ひめ様。その商人魂!見習わないといけない!」

 私に商人魂なんてない!
 反論しようと口を開こうと思えば、エクスさんがズズッと前に寄ってきて、私の差し出している手を掴もうと右手が出てきた。

「ひっ!」

 手を引っ込めるが、間に合わない。

「エクス!」
「うぐっ!」
「モナ殿大事ないか?」

 私が悲鳴を漏らした瞬間、隣にいるアネーレさんが前に体を傾けていたエクスさんの頭を雪の地面に押し付け、私はジュウロウザに後ろに引っ張られていた。そして、私はジュウロウザの膝の上に乗せられていた。
 あ、うん。ありがたいけど、恥ずかしい。

「アネーレ。酷いよ」

 絶対回避スキルがあるエクスさんをアネーレさんは難なく押さえ込んだ。
 アネーレさん!かっこいい!

 まぁ、村に迷い込んできたエクスさんを面白がって母さんは弓の的にしてみたり、フェリオさんは剣で斬りつけて、どれぐらい回避能力があるのか確認してみたりしていた中に、アネーレさんも混じって槍を突きつけていた。村のみんなは強くなるために向上心旺盛だった。

「モナちゃんに触るのは駄目って言っていたの忘れたの!」

「え?アネーレ嫉妬?大丈夫だよ。僕はアネーレ一筋だy····イダダダダ」

 顔を真赤にしたアネーレさんはゴリゴリと拳でエクスさんの頭を雪の地面に押し付けている。顔を真赤にした天使も美しい!

「エクス、もう口を開かずに大人しくモナちゃんが欲しがっているテントを出して」

 そして、大人しくなったエクスさんは背負っていた大きな荷物から、どう見ても荷物より長さがあるテントを出してきた。この事からわかると思うが、エクスさんの背負っている荷物も拡張収納機能付きだ。

 だから、私はもう一つ交渉材料を差し出す。

「アネーレさん。エクスさん。私のお願い聞いてもらえます?」

 そう言って、良質な大きめの魔石を鞄から取り出す。私の収納鞄に付いけている魔石よりも倍ほど大きな魔石。見た目は拳大ほどある物だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

【完結】若き最強のサムライ、異世界でも剣を振るう ~神威一刀流の秘剣を伝授された拙者、異世界に誘拐された婚約者を見つけるため剣鬼とならん~

岡崎 剛柔
ファンタジー
 片桐進之介は、江戸で最強の流派の1つと言われていた神威一刀流の正統継承者。  その進之介には剣の師匠の1人娘であり婚約者でもあった梓がいたのだが、ある日、梓は神隠しに遭ったように姿が消えてしまった。  進之介は行方不明の婚約者・梓を探すため、「神隠し」の噂が絶えない時坂神社へ向かう。  そこで進之介は異世界から来た謎の人物――クラウディオスと出会い、梓を攫った犯人だと思い戦いを挑む。  人間を超えた激闘の末、クラウディオスは進之介から逃げるように古池に飛び込んで姿を消してしまう。  進之介は驚愕しながらも、クラウディオスのあとを追って古池に飛び込む。  そして気づいたときには、進之介は見知らぬ異世界へ転移していた。  行方不明の婚約者・梓がいるかもしれない、南蛮国のような異世界へと――。  果たして進之介は、異世界で梓を見つけられるのか?  若き最強のサムライが、異世界で婚約者を見つけるために剣を振るう壮絶な冒険譚、ここに大開幕!

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました

hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。 そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。 「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。 王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。 ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。 チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。 きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。 ※ざまぁの回には★印があります。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

処理中です...