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41 ここを出ましょう

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 翌朝は昨日と打って変わって、晴天だった。しかし、部屋の暖炉の火を一晩中燃やしていたが、寒い。部屋の中がとてつもなく寒いのだ。その中で私は朝食を作り、出発準備を整える。
 ジュウロウザは今ここには居ない。後始末に行ってもらっているのだ。

 なんの後始末か。昨日の夜中に襲撃されたのだ。恐らく昨日後を付けていたという者たちだったのだろう。




 昨晩、ベッドに入って寝ようと布団を被ったところで、とてつもない不安感が襲ってきた。こんなに不安感が襲ってきたのは、じぃちゃんが南の森の先にある塩湖に塩を取りに行ってくると言って、物言わぬ姿で帰って来たとき以来の不安感だ。
 その時は泣いてじぃちゃんを止めたけど、誰も信じてくれず、子供の言うことだと笑って、じぃちゃんは行ってしまった。

 同じ様な不安感襲われ、居ても立っても居られず、ベッドを飛び出し暖炉の火の番をすると言っていたジュウロウザの元に向かった。

「キトウさん。ここを出ましょう」

「は?」

 それは『は?』と言われるだろう。しかし、この不安感をどう伝えたらいいのか。

「死が迫ってます。なんと言っていいかわかりませんが、じぃちゃんが死んだ時以来の不安感が襲ってきているのです」

「しかし、モナ殿。休まないと体力が回復しないし、明日は雪山に登ることになる。それとも一日伸ばすか?」

 ジュウロウザの言葉に私は膝から崩れ、よつん這いになる。正論だ。
 私の体力は完全に回復するには休まないといけない。一日伸ばす?それは駄目だ。高熱が出て一週間が経ってしまう。体力のない老人や子供は保たない。

「これ以上、日を伸ばすのは駄目です。休まないと私が雪山で死んでしまうのも確かです。·····詰んでる」

 これ詰んでるよー!ん?あれ?

 私は立ち上がって、後ろ向きに下がってジュウロウザから距離を取る。立ち止まる。一歩前に出る。

 境界線がある。不安感の境界線。これ以上後ろに下がると、ものすごい不安感に襲われる。

「キトウさん。もしかして、キトウさんの間合いってここまでだったりします?」

 目測で3メルメートル強。

「モナ殿は凄いな。そのとおりだ」

 そうか、私は振り返る先程までいたベッドを見る。確かに間合いの外だ。しかし、ジュウロウザの間合いの外で私が不安感に襲われるというのは相当だな。それは、ジュウロウザが動けない状況に陥るということだ。この勇者以上のステータスを持ったジュウロウザがだ。

 背に腹は代えられぬ。暖炉の前に座っているジュウロウザのところに赴き、その前に膝をつく。

「キトウさん。一緒に寝てください」

「え?」

「キトウさんの間合いの外は駄目なんです。不安感がものすごく襲ってくるのです。なので、明日雪山に登るには一緒に寝てもらうのが····」

 私は一体何を言っているのだろう。はぁ。

「そういうことなら、さっと休まないとな」

 ジュウロウザは暖炉に長時間燃える石の燃料を焚べて、私を抱えて先程いたベッドに向かった。

「何があっても目をつぶっておけばいい」

 そう言って私の頭を撫で、ベッドに潜った。



 ふと、嗅いだことのある異様に甘ったるい匂いで目が覚めた。これはいけない。

 空気の換気に使う『微風』の魔術を私中心に使う。ほんの少ししか魔力を使わないが空気を動かす魔術だ。魔術の消費が少ないので、魔術を使ったと認識されない。
 なぜ、このような『微風』が必要だったかと言えば、ばぁちゃんやソフィーが集中して作業をしているところで、気を散らさないように、部屋の異臭を外に出すのに必要だったからだ。

 この異様に甘ったるい匂いは、魔物を眠らすのに使う強力な眠り香だ。ばぁちゃんも良く作って隣町に売っている。その時は常時、私がこの魔術を使わされているのだ。
 これはジュウロウザでも体を動かすことができなくなるだろう。


 窓が壊される音が耳に響く。ふと私の頭を撫でる手があるのに気がついた。
 ああ、目をつぶっていろってことか。
 私は目をつぶったまま、近づいてくる数人の足音を聞く。

 ベッドの近くで止まる足音。

 ジュウロウザが私を抱え、その場を離れた。その瞬間、うめき声が耳に刺さる。

「モナ殿。もう大丈夫だ」

 目を開けると、倒れた人の姿が見える。刀で斬ったように思えなかったけど、どうしたのだろう。

 ジュウロウザは私を火が燃え続けている暖炉の前に置いて、侵入達を引きずって割れた窓から外に放り出した。
 外を見ると猛吹雪だ。これ凍死するんじゃない?


 そして、朝まで暖炉の側で毛布を被って寝ていた。できれば、クッションが欲しかったなぁ。

 日が昇ってからジュウロウザは外に放置した人たちを憲兵に出しに行ったのだ。あの猛吹雪中、誘拐犯(仮)は生きてはいたらしい。雪国の人は強いな。まぁ、恐らくあの手の人たちは外で待機する為に保温の魔術でも掛けていたのだろう。

「モナ殿。待たせてしまって、すまない」

「ご苦労様でした。キトウさん」

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