上 下
26 / 121

26 大丈夫まだ生きている

しおりを挟む
 その後、順調に進んでいき、夕刻の日が沈む頃に水の都ラウリーにたどり着き、翌昼には王都に着いた。

 しかし、随分ゆっくりとした速度で馬竜は移動していたのにも関わらず、路線馬車の予定と変わらなかった。それも、王都にたどり着いたのは路線馬車とほぼ変わらず、前方に馬車の姿を確認できる距離だった。
 不思議だ。

 王都の外にある馬車留めにたどり着いた草臥れた姿の御者や護衛の冒険者たちを横目に私達は王都の中に入っていく。

 王都も高い石壁で囲まれており、金属製の大きな外門が今は大きな口を開け、人々を出迎えていた。そこでは検問があり、犯罪歴を調べる水晶に手をかざし問題がなければ中に入れるという仕組みだ。


 そして、検問も問題なく終わり私は王都の中に一歩踏み入れる。そこは今までの通ってきた街以上に活気に溢れた世界だった。

 ああ、まるでゲームの街に入り込んでしまったみたいだと感じてしまったが、ゲームの世界だった。

 なんとなくゲームの王都の中を思い出してきた。あそこの果物屋ではミニゲームがあったなとか、時々現れる露天商の婆さんに王都の地下の依頼を受けたなと頭の中をぎってくる。

「モナ殿。これからどうするんだ?」

 ジュウロウザが馬竜の手綱を引きながら声をかけてきた。私はというとフードを深く被って、ジュウロウザの左腕を掴んで歩いている。こんな人が多いところではぐれたら、ゲームでの知識で迷子にはならないが、人攫いに会えば村に戻れなくなるのは確実だ。
 というか、人が多すぎる。まるで、休日の某テーマパークのようだ。

「先に今日、泊まるところを探しましょう」

 こんなに人が多いところで馬竜がいると行動範囲が限られてしまう。今日、泊まるところを見つけて、預かってもらうのが先決だ。




 しかし、全く条件の合う宿がない。いや、王都だから高級な宿屋はあるのだ。しかし、そこがことごとく埋まっている。

 どうやら、勇者のお披露目パーティーがあったらしく、王都にタウンハウスを持ってない貴族やこの国の有力者などが泊まっており、ついでに王都観光をして帰ろうと連泊をしているため空きがないようだった。

 妥協に妥協をして、私から言うとビジネスホテルぐらいの部屋に妥協した。
 ベッドが2つと二人がけのソファがローテーブルを挟んで2つ。それだけでいっぱいになる部屋だ。食事も付いておらず、宿の人に食べたければ外で食べるように進められた。まぁ、食べるところはたくさんありそうだからいいけど。

 なぜ、この宿に決めたかというと、馬竜が入るような騎獣舎を持っていて、空きがあるのがここぐらいしかなかったからだ。そう、凶暴な馬竜を連れていると言った時点で断われ続けたのだ。

 昼に王都に入ったにも関わらず、今は夕刻になっている。昼からずっと探し続けて今の時間だ。流石に疲れた。しかし、冒険者ギルドに行かないといけない。そして、『翠玉の剣』と『金の弓』に依頼を出すのだ。

「モナ殿、明日でもいいのではないのか?」

 ジュウロウザが心配そうに声を掛けてくれたが、はっきり言って人が多い王都には居たくない。明日の朝にはさっさと王都を出発して村に戻りたい。なんだが、心の中がモヤモヤとする。『ここは私の居場所じゃない』そんな感じだ。

「キトウさん。やることをさっさと終わらせましょう。ついでに夕食も食べてしまいましょう」

 と言いつつ私は宿のソファで項垂れている。疲れた。宿探しがこんなに大変だとは思わなかった。それも騎獣が受け入れられないなんて!私のLUK無限大はどこに行った!きちんと仕事をしろ!

 はぁ。わかっていますよ。そんなステータスに頼ってもサイコロのゾロ目が出る確率が上がるようなものだってぐらい。

 私は重い体を起こして立ち上がる。このままだと本気で寝てしまいそうだ。

「冒険者ギルドに行きましょう。確か、東門の方でしたね」

 そして、宿を出て東門の方に向かて行く。冒険者ギルドがあるのもゲームと変わりない。
 はぁ。しかし、人が多すぎだ。勇者が選ばれてお祭り騒ぎなのはわかるけど、あのリアンだし、そんなに浮かれることはないと思うのだけど。

 その時、背中に何かがぶつかった衝撃があった。

「あっ。わりー」

 そんな声が耳をかすめる。
 その瞬間、ある風景がフラッシュバックした。

 人々の驚愕する顔。
 私を照らす白い光。
 手から離れてしまった1通の手紙。
 宙を舞う私の体。

 そして、強烈な衝撃。


 思わず座り込む。多くの人が往来する中、立っていられなくなった。

 心臓がバクバクしている。
 大丈夫まだ生きている。
 深呼吸をして息を整え、右手を開いたり閉じたりしてみる。
 大丈夫、私は息をして生きている。まだ、生きている。大丈夫。

 そう、自分自身に言い聞かす。大丈夫。大丈夫。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

【完結】若き最強のサムライ、異世界でも剣を振るう ~神威一刀流の秘剣を伝授された拙者、異世界に誘拐された婚約者を見つけるため剣鬼とならん~

岡崎 剛柔
ファンタジー
 片桐進之介は、江戸で最強の流派の1つと言われていた神威一刀流の正統継承者。  その進之介には剣の師匠の1人娘であり婚約者でもあった梓がいたのだが、ある日、梓は神隠しに遭ったように姿が消えてしまった。  進之介は行方不明の婚約者・梓を探すため、「神隠し」の噂が絶えない時坂神社へ向かう。  そこで進之介は異世界から来た謎の人物――クラウディオスと出会い、梓を攫った犯人だと思い戦いを挑む。  人間を超えた激闘の末、クラウディオスは進之介から逃げるように古池に飛び込んで姿を消してしまう。  進之介は驚愕しながらも、クラウディオスのあとを追って古池に飛び込む。  そして気づいたときには、進之介は見知らぬ異世界へ転移していた。  行方不明の婚約者・梓がいるかもしれない、南蛮国のような異世界へと――。  果たして進之介は、異世界で梓を見つけられるのか?  若き最強のサムライが、異世界で婚約者を見つけるために剣を振るう壮絶な冒険譚、ここに大開幕!

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました

hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。 そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。 「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。 王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。 ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。 チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。 きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。 ※ざまぁの回には★印があります。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

処理中です...