上 下
14 / 121

14 ちゃっかりハーレム作ってるよ

しおりを挟む
「そ、そうなのね」

 母さんが額の汗を拭う。美人はどんな姿でも絵になるね。

「で、母さん達がここにいる理由は何?」

 私の言葉に母さんは困ったような顔をする。え?何その顔?

「そのね。私達、勇者くんに冒険の指導をするように言われてね」

 ああ、リアンの指導ね。確かにベテラン冒険者が付いてダンジョンに潜るっていうイベントがあったけど、それってもっと先の話のだったような?王都で訓練でもするのだろうか。

「本当なら王都で指導を行うはずだったのだけど····」

 母さんが言いどもってしまった。どうしたのだろう。

「モナちゃんがリアンを鍛えてくれたんだって?」

 フェリオさんからそんな言葉が聞こえてきた。リアンを鍛えた?いや、鍛えるもなにも、村の周りにはスライムや一角兎しかいないから、鍛えるなんt·····あっ!
 やってしまった。ゲームではLv.30にならないと王都から出られないのだ。そこまでレベルを上げるのに掛かる歳月が2年。
 今のリアンのレベルは30だ。

 スライムでも倒していけばLv.300まで行けるなんていう私の戯言を本気にしたリアンは10年掛けてLv.30まで達したのだ。

 と、言うことは?

「今、ここにリアンがいる?先日、村を出たばかりのリアンがここに?」

 私はなんて怖ろしい事だと、恐怖する。一週間も経っていないけど?王都に着いて直ぐに出発したって感じじゃない?直ぐに村に帰ろう!こんな所には居られない!

「モナちゃんそれでね」

 母さんが意を決したように言葉を口にした。

「ここで、キールに会ってね。明日リリーちゃんと結婚式をするっていうじゃない?」

「ひっ!ま、まさか」

「村に寄ってから行こうって事になってね。今、モナちゃんへのお土産を買いに行っているの」

「いやー!!ムリムリムリ」

 もう、心臓がバクバク言っている。今の私はリアン対策を何もしていない。村人の私が唯一武器として持てるのが、家畜の調教用の鞭だ。
 ナイフでもいいのだけど、食材は切れるけど、スライムには刃が突き刺さらないという摩訶不思議現象が起きるのだ。
 Lv.20ともなれば、攻撃力は低いが鞭はそれなりに当てられるようになっている。

「今の私、リアンに会っても対抗できないよ。下手すると死ぬよ」

 ジュウロウザの影から訴える。これはもう生死に関わることだ。

「困ったわね。この3年で更に悪化していない?」
「リアンはいったい何をしたのかな?」
「おい、お前の息子だろ!」

 なんて親同士で話しているが、私は先に武器を調達するべきだろうか。

「そうね。モナちゃん、さっきの依頼を王都のギルドにも出さない?今王都には『翠玉の剣』と『金の弓』が居るわ。どうせ年越ししか帰らないでしょうから、こういう事がない限り村に顔を出さないでしょう?」

 母さんがとんでもない事を提案してきた。王都!王都に行くの?いや、遠すぎるでしょ。それにシルワリザードを借りっぱなしにもできないよ。

「母さん、無理があるよ。王都は遠いよ。それにシルワリザードを村長さんから借りているし、ソフィーとばぁちゃんだけにしておくのは心配だし、一人で王都に行くのは無謀ってものでしょ?」

「あら?リザードはキールに頼んでおけばいいわ。すごい荷物持っていたもの。きっと喜ぶわ。それに母さんとソフィーのことはトゥーリに頼んでおくわ。後、路線馬車に乗れば往復5日よ。キトーさんもいるし大丈夫でしょ?」

「は?」

 なぜ、ジュウロウザと一緒に行動する事が当たり前のように言われているんだ?
 母さんに言い返そうとすると、ギルドに入ってくる人の声で妨げられてしまった。

「父さん!お土産買ったから早く村に帰ろう!」

 ひっ!

 思わずジュウロウザを掴んでいる手に力が入ってしまった。

 心の準備も出来ていない。
 武器もない。

 私がここにいることが分かれば、猛犬のように突進してくることは分かりきっている。
 腕の骨が折れるか、肋骨が折れるか。恐怖でしかない。

「おじ様たち。早く行きましょ!プルム村でしたか?」

 ん?

「わたくし、聞いたことありませんでしたわ」

 んん?

「幼馴染みさんに会いに行くんだよね!」

 あ゛?

「私は何方かと申しますとダンジョンの方が興味あります」

 リアン!!お前、ちゃっかりハーレム作っているじゃないか!
 私は外套のフードを深く被り、ジュウロウザの後ろから伺い見る。

 桜色の髪をふわりとなびかせ、金色の瞳をリアンに優しく向けているのが、聖女(今は見習い)のフィーリア。

 情熱的な赤い髪をドリルの様に巻いて、ギルド内を珍しそうに赤い瞳で眺めているのがこの国の王女カテリーナ。

 ショートカットの緑髪が印象的な、元気いっぱいのボクっ娘が魔術師イリス。

 最後にダンジョンの方が気になると言った人物はフルプレートアーマーを着ているので姿はわからないが、騎士のミディアだろう。


 リアンの頭の中は腐っているのか?あれらを連れて本当にダンジョンに行く気なのだろうか。
 いや、母さんたちが居るから大丈夫だと思っているのだろうか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン
恋愛
前世、会社勤務のかたわら婚活に情熱を燃やしていたクロエ。生まれ変わった異世界では幼馴染の婚約者がいたものの、婚約を破棄されてしまい、またもや婚活をすることに。一風変わった集団お見合いで出会ったのは、その場に似合わぬ一匹狼風の男性。(…って本当に狼獣人!?)うっかり惚れた相手が生きる世界の違う男性だったため、番(つがい)やら発情期やらに怯え、翻弄されながらも、クロエは幸せな結婚生活を目指す。 シリアス―★☆☆☆☆ コメディ―★★★★☆ ラブ♡♡―★★★★☆ ざまぁ∀―★★☆☆☆ ※匂わす程度ですが、性的表現があるのでR15にしています。TLやラブエッチ的な表現はありません。 ※このお話に出てくる集団お見合いの風習はフィクションです。 ※四章+後日談+番外編になります。

【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス
恋愛
「え、ここって四つ龍の世界よね…?なんか体ちっさいし誰からも見えてないけど、推しから認識されてればオッケー!待っててベルるん!私が全身全霊で愛して幸せにしてあげるから!!」 乙女ゲーム「4つの国の龍玉」に突如妖精として転生してしまった会社員が、推しの悪役である侯爵ベルンハルト(通称ベルるん)を愛でて救うついでに世界も救う話。 本編完結!番外編も完結しました! ●幼少期編:悲惨な幼少期のせいで悪役になってしまうベルるんの未来を改変するため頑張る!微ざまあもあるよ! ●学園編:ベルるんが悪役のままだとラスボス倒せない?!効率の良いレベル上げ、ヒロインと攻略キャラの強化などゲームの知識と妖精チート総動員で頑張ります! ※推しは幼少期から青年、そして主人公溺愛へ進化します。

【完結】若き最強のサムライ、異世界でも剣を振るう ~神威一刀流の秘剣を伝授された拙者、異世界に誘拐された婚約者を見つけるため剣鬼とならん~

岡崎 剛柔
ファンタジー
 片桐進之介は、江戸で最強の流派の1つと言われていた神威一刀流の正統継承者。  その進之介には剣の師匠の1人娘であり婚約者でもあった梓がいたのだが、ある日、梓は神隠しに遭ったように姿が消えてしまった。  進之介は行方不明の婚約者・梓を探すため、「神隠し」の噂が絶えない時坂神社へ向かう。  そこで進之介は異世界から来た謎の人物――クラウディオスと出会い、梓を攫った犯人だと思い戦いを挑む。  人間を超えた激闘の末、クラウディオスは進之介から逃げるように古池に飛び込んで姿を消してしまう。  進之介は驚愕しながらも、クラウディオスのあとを追って古池に飛び込む。  そして気づいたときには、進之介は見知らぬ異世界へ転移していた。  行方不明の婚約者・梓がいるかもしれない、南蛮国のような異世界へと――。  果たして進之介は、異世界で梓を見つけられるのか?  若き最強のサムライが、異世界で婚約者を見つけるために剣を振るう壮絶な冒険譚、ここに大開幕!

【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました

hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。 そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。 「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。 王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。 ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。 チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。 きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。 ※ざまぁの回には★印があります。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...