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第0話 悪魔的な聖女
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「ねぇ、メイ。お願いがあるのだけど?」
黒髪の二十歳ぐらいの女性が春めいた庭でお茶をのみながら、直ぐ側で立っているメイドに向かって声をかけた。
「何でしょうか? マリエ様。お茶のおかわりでしょうか?」
「お茶はもういいわ」
「出されたお菓子が気に入りませんか?」
「そうね。ちょっと甘すぎ。そう言う事じゃなくて、ちょっとさぁ。今晩にでもあの王太子のところに夜這い行って子供作ってきてくれない?」
「かしこまりました」
お茶の話をしているのかと思えば、マリエと呼ばれた黒髪の女性はとんでもないことをメイドに言いつけている。
だが、そのメイドも表情を何一つ変えず、その主の命令が全てだと言わんばかりに受け止めていた。
「え? いいの? 私自身もめちゃくちゃなことを言っているなと思っているのだけど?」
「マリエ様がおっしゃっていることが、私にとって全てですから」
「メイのそういうところ怖いわね」
メイドの態度が怖いといいながらも、マリエはケラケラと笑っている。
問題発言をしている自覚がありながら、上に立つ人物としての態度は思われなかった。
「ということで、私に子種をください」
「メイ。何を言っているか理解しているのか?」
薄暗い寝室で金髪の男女がいるものの、男の方はベッドの上に仰向けになっており、女の方は男の首に刃物を突きつけて脅していた。それも真顔でだ。
「理解しております。マリエ様の言葉は絶対です」
「はぁ。ちょっとのいてくれ。まずは説明をしろ。これでも婚約者がいるのだ。このことがバレれば君も立場が無いだろう?」
金髪の男は上に乗っている女性を押しのけて、その身を起こした。
「マリエ様のためなら構いません」
「……これはマリエの嫌がらせか? いいから、説明しろ」
「わかりました。お馬鹿なヴィルヘルムでもわかるように説明してさしあげます」
「おい! テオ。お前の妹の教育をし直せ、王族に対する態度ではないと、子供のときから言っているよな」
ヴィルヘルムと呼ばれた男は天井に向かって声をかける。そこに誰かがいるかのようにだ。
『嫌ですよ。百倍ぐらい文句を無表情で淡々と言われるのですから』
天井裏に夜這いを仕掛けた妹の兄が居たようだ。しかも、妹の行動には手を出さないと宣言されている。もしかすると、この三人は仲がいいのかもしれない。
「ヴィルヘルム。マリエ様の尊い言葉を聞きなさい」
そう言ってメイは説明を始めた。
マリエはこの世界の未来を知っていると言った。それは物語としてマリエの世界では語り継がれているからだ。
マリエは数年後に子供を身ごもるのだが、その子供が問題だと言う。
「その子ってもう性格が悪くってね。悪いことを平気でやっちゃう子なんだよね」
「原因は、私が身体に封じた厄災ヴァリトラね。最初はヴァリトラが悪いように書かれているけど、ヴァリトラは聖女が作った檻からでられないの」
「そう、原因はその子の心。周りにね。その子に手を差し伸べる人がいなかったのよ」
「え? 私? 私はこの厄災を封じたことで、徐々に身体が蝕まれているから、その子が五歳の時に死ぬの」
「慌てないでメイ。今すぐじゃないよ。だから、それまでに私を残しておくの」
「意味がわからない? 私自身は死んじゃうけど、私が子どもに作ってあげられる料理とか愛情とかを別の子に移しておくの」
「だから、メイのグランディールの力とヴィルヘルムの力を持った子供が必要なのよ」
「男の子でもいいけど、私は女の子がいいわね」
「そこまでする必要があるのかって? だって私の子供が、魔王になっちゃうって嫌じゃない?」
「ということです」
「支離滅裂だ。そもそも人の心が移せるものなのか?」
マリエの計画には色々問題がある。己が死んでしまうからと言って、別の者に愛情というものを移せるのかという問題だ。
「それはグランディールの血が役に立ちます」
「はぁ、その聖女の子供と主従契約させて、擬似的に愛情を持たそうとしているのか? そんなもの何れは破綻する」
「大丈夫です。私の子供ですから」
どこから自信がくるのかわからないが、メイは自信満々で答える。それに対してヴィルヘルムはなんとも言えない顔をしていた。
「それから魔王ってなんだ? 厄災のことではないのか?」
「偉大なるマリエ様の力で封じられた小物など、大したことはありません。その人外を力を自由に使って、世界に復讐しようとするマリエ様のお子様が問題なのです」
「で、料理ってなんだ?」
「今まで私はマリエ様の側でマリエ様の料理を全て余すこと無く記憶しておりすので、それを子どもに全身全霊を持って、命をかけて教え込みます」
「おい! テオ。お前の妹の聖女崇拝度が異常になっているぞ」
『私に振らないでください』
メイのマリエ崇拝にヴィルヘルムも兄も肩を竦めるしかなかった。
「ですから、王城の端でいいので子供を育てる場所をください。いいえ。その前に私にヴィルヘルムの子種をください」
「言い方!! テオ。妹に性教育して出直して来い」
「わかりました」
そう言ってメイはベッドの上に立ち上がってヴィルヘルムを見下ろした。
「ヴィルヘルムを陥落させればいいということですね。一日だけ時間をください。出直してきます」
その言葉を残してメイの姿はその場から消え去った。元からこの場に存在しなかったように。
そして、この空間に二つのため息が重なる。
『ヴィルヘルム様。妹がやると言ったら、本気でやりますよ。気を付けてください』
だがヴィルヘルムはそんな言葉は聞こえていないように両手で頭を抱えていた。
「絶対にマリエの嫌がらせだ。俺がメイのことを好きだって一番バレたくないヤツにバレてしまったのが運の尽きだ。魔王どうこうと言っているが、絶対にマリエの悪魔的な性格の悪さを引き継いだだけだろう」
それから数年後。
「ふふふ。この子がメイの子ね。ヴィルヘルムそっくり」
マリエは金髪金眼の幼女を目の前にして、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「ねぇ。ヴァリトラどう? 君の好みじゃない?」
マリエは己の腕に抱えている黒髪黒目のあどけない三歳ぐらいの子どもに向かっていう。
すると、子供の目が黒から赤に一瞬で変化した。
「ふむ。子供としか思わぬな」
「えー? キラキラしたものが好きだと思ったのだけど?」
幼い子供から、やけに老成した老人のような声がでてきた。しかしマリエもそこにいるメイも当たり前のように何も反応を示さない。
ただ、金髪金眼の養女はビクッと震え、母親のメイの後ろに隠れてしまった。
しかし、そんな行動をメイは許さず、幼女を己の前に押し出す。
「名前を聖女様のお子様に捧げなさい」
母親のメイから言われた言葉に、幼女は何を言われたのか分からず、直ぐに反応ができなかった。
「こういう、どん臭いところも、ヴィルヘルムに似てしまいました。申し訳ございません」
「あら? 女は愛嬌よ。ふふふ。はじめまして私はマリエ。貴女に私の息子の護衛を任せたいの。貴女は王族だけど、グランディールなの。今の貴女には居場所はここにしかないわ。だけど、私の息子の護衛という立場なら、貴女は外の世界にでられるの。外の世界はとても美しくて綺麗なのよ。だから、私の息子の護衛をして貴女自身の立場を確立するのよ」
「マリエよ。幼子にそのようなことを言っても、分からぬであろう? こういうのはな」
そう言って老成した声の子供はマリエの腕から飛び降りた。三歳の行動とは思われない。
「あ~ゴッホン。僕の名前はシオンクラウス・アスティル。シオンだよ。仲良くして欲しいな。可愛い僕の黄金の姫様」
さっきまで嗄れていた声だったのだが、年相応の高く舌っ足らずな声で、幼い子供は金髪金眼の幼女に向かっていった。
「黄金のひめ?」
「そう君はお姫様。だけどここからはでられない。僕の手をとって初めて外に出られるんだよ」
幼い子供がそう言って手を差し出す。その顔は到底子供が浮かべられるとは思えないほどの悪どい笑みを浮かべていた。
そしてその背後にいるマリエもニヤニヤとした笑みを浮かべている。
後に魔王と呼ばれる厄災のヴァリトラと悪魔的な聖女マリエ。この二人の策略が金髪金眼の少女に手を伸ばさせることとなった。
彼女の愛情は本物なのか。それとも作られたものだったのか。今となっては、わからない。
なぜなら、彼女自身が護衛者を愛してしまっているからだ。そう、これこそメイから受け継いた血筋。グランディールという存在だ。
「我が聖女の策に乗った理由か? 一つは我の力だが、好き勝手に使われるというのは気持ち悪いからであるな。もう一つは……秘密だ」
黒髪の二十歳ぐらいの女性が春めいた庭でお茶をのみながら、直ぐ側で立っているメイドに向かって声をかけた。
「何でしょうか? マリエ様。お茶のおかわりでしょうか?」
「お茶はもういいわ」
「出されたお菓子が気に入りませんか?」
「そうね。ちょっと甘すぎ。そう言う事じゃなくて、ちょっとさぁ。今晩にでもあの王太子のところに夜這い行って子供作ってきてくれない?」
「かしこまりました」
お茶の話をしているのかと思えば、マリエと呼ばれた黒髪の女性はとんでもないことをメイドに言いつけている。
だが、そのメイドも表情を何一つ変えず、その主の命令が全てだと言わんばかりに受け止めていた。
「え? いいの? 私自身もめちゃくちゃなことを言っているなと思っているのだけど?」
「マリエ様がおっしゃっていることが、私にとって全てですから」
「メイのそういうところ怖いわね」
メイドの態度が怖いといいながらも、マリエはケラケラと笑っている。
問題発言をしている自覚がありながら、上に立つ人物としての態度は思われなかった。
「ということで、私に子種をください」
「メイ。何を言っているか理解しているのか?」
薄暗い寝室で金髪の男女がいるものの、男の方はベッドの上に仰向けになっており、女の方は男の首に刃物を突きつけて脅していた。それも真顔でだ。
「理解しております。マリエ様の言葉は絶対です」
「はぁ。ちょっとのいてくれ。まずは説明をしろ。これでも婚約者がいるのだ。このことがバレれば君も立場が無いだろう?」
金髪の男は上に乗っている女性を押しのけて、その身を起こした。
「マリエ様のためなら構いません」
「……これはマリエの嫌がらせか? いいから、説明しろ」
「わかりました。お馬鹿なヴィルヘルムでもわかるように説明してさしあげます」
「おい! テオ。お前の妹の教育をし直せ、王族に対する態度ではないと、子供のときから言っているよな」
ヴィルヘルムと呼ばれた男は天井に向かって声をかける。そこに誰かがいるかのようにだ。
『嫌ですよ。百倍ぐらい文句を無表情で淡々と言われるのですから』
天井裏に夜這いを仕掛けた妹の兄が居たようだ。しかも、妹の行動には手を出さないと宣言されている。もしかすると、この三人は仲がいいのかもしれない。
「ヴィルヘルム。マリエ様の尊い言葉を聞きなさい」
そう言ってメイは説明を始めた。
マリエはこの世界の未来を知っていると言った。それは物語としてマリエの世界では語り継がれているからだ。
マリエは数年後に子供を身ごもるのだが、その子供が問題だと言う。
「その子ってもう性格が悪くってね。悪いことを平気でやっちゃう子なんだよね」
「原因は、私が身体に封じた厄災ヴァリトラね。最初はヴァリトラが悪いように書かれているけど、ヴァリトラは聖女が作った檻からでられないの」
「そう、原因はその子の心。周りにね。その子に手を差し伸べる人がいなかったのよ」
「え? 私? 私はこの厄災を封じたことで、徐々に身体が蝕まれているから、その子が五歳の時に死ぬの」
「慌てないでメイ。今すぐじゃないよ。だから、それまでに私を残しておくの」
「意味がわからない? 私自身は死んじゃうけど、私が子どもに作ってあげられる料理とか愛情とかを別の子に移しておくの」
「だから、メイのグランディールの力とヴィルヘルムの力を持った子供が必要なのよ」
「男の子でもいいけど、私は女の子がいいわね」
「そこまでする必要があるのかって? だって私の子供が、魔王になっちゃうって嫌じゃない?」
「ということです」
「支離滅裂だ。そもそも人の心が移せるものなのか?」
マリエの計画には色々問題がある。己が死んでしまうからと言って、別の者に愛情というものを移せるのかという問題だ。
「それはグランディールの血が役に立ちます」
「はぁ、その聖女の子供と主従契約させて、擬似的に愛情を持たそうとしているのか? そんなもの何れは破綻する」
「大丈夫です。私の子供ですから」
どこから自信がくるのかわからないが、メイは自信満々で答える。それに対してヴィルヘルムはなんとも言えない顔をしていた。
「それから魔王ってなんだ? 厄災のことではないのか?」
「偉大なるマリエ様の力で封じられた小物など、大したことはありません。その人外を力を自由に使って、世界に復讐しようとするマリエ様のお子様が問題なのです」
「で、料理ってなんだ?」
「今まで私はマリエ様の側でマリエ様の料理を全て余すこと無く記憶しておりすので、それを子どもに全身全霊を持って、命をかけて教え込みます」
「おい! テオ。お前の妹の聖女崇拝度が異常になっているぞ」
『私に振らないでください』
メイのマリエ崇拝にヴィルヘルムも兄も肩を竦めるしかなかった。
「ですから、王城の端でいいので子供を育てる場所をください。いいえ。その前に私にヴィルヘルムの子種をください」
「言い方!! テオ。妹に性教育して出直して来い」
「わかりました」
そう言ってメイはベッドの上に立ち上がってヴィルヘルムを見下ろした。
「ヴィルヘルムを陥落させればいいということですね。一日だけ時間をください。出直してきます」
その言葉を残してメイの姿はその場から消え去った。元からこの場に存在しなかったように。
そして、この空間に二つのため息が重なる。
『ヴィルヘルム様。妹がやると言ったら、本気でやりますよ。気を付けてください』
だがヴィルヘルムはそんな言葉は聞こえていないように両手で頭を抱えていた。
「絶対にマリエの嫌がらせだ。俺がメイのことを好きだって一番バレたくないヤツにバレてしまったのが運の尽きだ。魔王どうこうと言っているが、絶対にマリエの悪魔的な性格の悪さを引き継いだだけだろう」
それから数年後。
「ふふふ。この子がメイの子ね。ヴィルヘルムそっくり」
マリエは金髪金眼の幼女を目の前にして、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「ねぇ。ヴァリトラどう? 君の好みじゃない?」
マリエは己の腕に抱えている黒髪黒目のあどけない三歳ぐらいの子どもに向かっていう。
すると、子供の目が黒から赤に一瞬で変化した。
「ふむ。子供としか思わぬな」
「えー? キラキラしたものが好きだと思ったのだけど?」
幼い子供から、やけに老成した老人のような声がでてきた。しかしマリエもそこにいるメイも当たり前のように何も反応を示さない。
ただ、金髪金眼の養女はビクッと震え、母親のメイの後ろに隠れてしまった。
しかし、そんな行動をメイは許さず、幼女を己の前に押し出す。
「名前を聖女様のお子様に捧げなさい」
母親のメイから言われた言葉に、幼女は何を言われたのか分からず、直ぐに反応ができなかった。
「こういう、どん臭いところも、ヴィルヘルムに似てしまいました。申し訳ございません」
「あら? 女は愛嬌よ。ふふふ。はじめまして私はマリエ。貴女に私の息子の護衛を任せたいの。貴女は王族だけど、グランディールなの。今の貴女には居場所はここにしかないわ。だけど、私の息子の護衛という立場なら、貴女は外の世界にでられるの。外の世界はとても美しくて綺麗なのよ。だから、私の息子の護衛をして貴女自身の立場を確立するのよ」
「マリエよ。幼子にそのようなことを言っても、分からぬであろう? こういうのはな」
そう言って老成した声の子供はマリエの腕から飛び降りた。三歳の行動とは思われない。
「あ~ゴッホン。僕の名前はシオンクラウス・アスティル。シオンだよ。仲良くして欲しいな。可愛い僕の黄金の姫様」
さっきまで嗄れていた声だったのだが、年相応の高く舌っ足らずな声で、幼い子供は金髪金眼の幼女に向かっていった。
「黄金のひめ?」
「そう君はお姫様。だけどここからはでられない。僕の手をとって初めて外に出られるんだよ」
幼い子供がそう言って手を差し出す。その顔は到底子供が浮かべられるとは思えないほどの悪どい笑みを浮かべていた。
そしてその背後にいるマリエもニヤニヤとした笑みを浮かべている。
後に魔王と呼ばれる厄災のヴァリトラと悪魔的な聖女マリエ。この二人の策略が金髪金眼の少女に手を伸ばさせることとなった。
彼女の愛情は本物なのか。それとも作られたものだったのか。今となっては、わからない。
なぜなら、彼女自身が護衛者を愛してしまっているからだ。そう、これこそメイから受け継いた血筋。グランディールという存在だ。
「我が聖女の策に乗った理由か? 一つは我の力だが、好き勝手に使われるというのは気持ち悪いからであるな。もう一つは……秘密だ」
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