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108 『あの子怖いわ』

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「凄い。凄い。アハハハ。一度魔人に遭遇したことがあったけど、君、彼女より魔力が渦巻いているね。私なんて遭った瞬間からガタガタと震えるしかなかったけど、君なら彼女に勝てるのかな?あ、でも彼がいるから無理か。」
 
 何かよくわからないことを言って、自分で何かを納得したらしいが、魔人って本当に存在しているのか。そんなもの、昔話で聞くぐらいで、子供に言うことをきかすための作り話ぐらいにしか思っていなかった。そんな存在がいるのなら、この世界が滅んでいてもおかしくないような話の内容だからだ。

 しかし、余計に興味を持たれてしまったようだ。おかしいな。いや、目の前のマイアという少女に問題があるのか。

「で、教会に行くのか?」

「行くよ。行く。」

 マイアはそう言って立ち上がった。そして、何故か両隣のヴィーネとフェーラプティスも立ち上がった。お前たちも付いて来るつもりか!
 お布施という名の強奪にいくら払えばいいのだろうか。


 そして、中央地区の教会まで来た。ヴィーネもフェーラプティスも付いてきた。付いてくるなと言ってみたが、キアナとアルティーナから見張れと言われたらしい。一体誰を見張っているんだ?俺か?

「尊い神への祈りのための、お布施をお願いします。」

 教会の入り口で、来るたびに言われているお願いと言いながら、見下さいたような視線を向けているエルフの前に札束を積んでやると、表情がにこやかになり

「あなた方に神の加護がありますように」

 と言われた。本当にエルフは強欲だな。相変わらず祭壇がある前の方には祈りを捧げている人々がいるので、後ろの方に座る。

「マイア、好きなだけ神に祈れ、だが声には出すなよ。」

 そう言って俺は天井を見る。これで3度目だが、天井に絵が描かれていることに初めて気がついた。
 動植物が端に円状に描かれ、その内側に多種多様な種族、更に内側にエルフと思われる種族。そして中央に白い人物が描かれていた。これが白き神なのだろうか。しかし、白い人形ひとがたとしかわからない絵だった。
 ああ、神というモノをえがくというのは不敬だという考え方だろうか。

―あ、それは違うよ。―

 俺が一人でどうでもいい事を考えていたら、あの神という声が降ってきた。思わずビクリと体が動いてしまった。

 俺のどうでもいい独り言に答えなくていい。

―僕の姿をきちんと見ることができる子は殆どいないんだよ―

 おい、気にせず話を続けるな。

―隣の子に言っておいて、君には無理だからって―

 隣?マイアのことか?何が無理なんだ?神のアイの事か?それとも魔女の事か?

―両方、ナディアが『あの子怖いわ』って言っていたの聞いちゃったから、ナディアに嫌われちゃったら難しいね。じゃ、よろしく―

 ナディアって誰だ!おい!

 返事がない・・・。
 相変わらず言いたいことだけ言って去っていくんだな。で、ナディアって誰だよ。

 横をちらっと見ると、両手を組んで祈っている形はとっているが、人殺しでもそうな形相で前の祭壇を睨み付けているマイアがいた。
 怖ぇーよ。それはナディアってヤツも怖いって言うよな。

「おい、もう外に出よう。」

「まだ、神様のお声を聞いていない。」

 その表情のままこっちを向くな!

「諦めろ。祈って神が答えてくれないのなら、マイアに問題があるってことだ。」

「わ、私は愛されなければならない。」

 とても悔しそうな表情をしているが、神もドン引きだろ。あんな表情で祈られても。
 はぁ。それにしても、愛されなければならないか、まるで、神と言うものに魔女と言うものに囚われているようだな。

「また、増えてる。」

 後ろからライラの声が聞こえてきた。何が増えているんだ?

「ライラ。久しぶりだな。」

 振り返ってライラを見るが・・・半年ほど見ない間にまた背が伸びたようだ。俺は全く背が伸びなかったというのに。

 俺の膝の上に何かが乗ってきた。見てみると黒い猫だった。ああ、魔石から作った猫・・・なんか表現がおかしいな。
 撫でてみると本当に生きているように温かい。不思議なモノだな。

「エン。その子誰?」

 ライラがマイアを見て言ってきた。そのマイアは黒い猫をガン見している。

「マイアだ。神の声を聞きたいからと言うから連れてきたんだが、無理だった。」

 ん?そう言えば、光の神はどうなんだろうな。確か、ルーチェっていう名だったよな。

「ライラ。お願いなんだが、マイアにライラのおまじないをしてくれないか?嫌なら別にいいんだが」

「エンのお願いなら、いいけど。何で、ルノーが睨まれているの?」

 ルノー?ああ、黒猫の名前か。確かに睨んでいるように見えるな。俺はルノーと呼ばれた黒猫を掴んでライラに渡す。
 多分、おかしな生き物だとか思われているんだろう。作った俺にもわからんから、質問は受け付けん。
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