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59 天津先生の言葉を聞こうか

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 なぜか俺は役所に行った後、冒険者ギルドの二階に連れて来られていた。例の書類が散乱した汚部屋だ。以前来たのはいつだ?そんなに経っていないような気がするが。

「お?ルギア。エンと戻ってきたのか。エン、丁度いいから書類を手伝ってくれ。」

 ギルドマスターの部屋の奥にはなぜかソルが書類と格闘していた。もしかして、二人でやっても、この状態なんだろうか。

「俺の休みは今日じゃない。」

「じゃ、なんでここに来たんだ?」

 この状況で、なぜ俺が自分で来たと思われるんだ?未だにルギアの小脇に荷物の様に抱えられているというのに

「ルギアに聞いてくれ。」

 当のルギアは道中も何も話さず黙々とここまで歩いてきた。

「ソル、コレを見てくれ。」

 そう言って、ルギアは先程貰ってきた戸籍謄本をソルに見せる。それを見たソルは

「やっぱり、ルギアと親子だったじゃないか。エンはあれほど否定していたのになぁ。」

 ソル、ルギアは多分そこじゃないところを見てほしかったと思うぞ。

「違うここ!」

 やはり、違っていたようで、紙を指しながらソルに言っている。

「ああ、アマツが籍を入れたと言っていたのは知っていたぞ。」

 ルギアは固まってしまった。やはり、書類関係が苦手なルギアに早急にサインしてほしいとでも言ったのだろう。

「え?本人が知らなかったのか?ハハハ。アマツらしいな。」

「くっ。それで、ソル。自衛団を作らないか?この国の驚異は魔物だけじゃない。エルフ族もマルス帝国もだ。それらの驚異から国の民を守るための自衛団だ。」

「お、それは面白そうだが、いきなりどうしたんだ?」

「エンがな。アマツが作りたかったのは何だ。この国に王がいないのはなぜだ。と言ったんだ。」

「ほう。」

「獣人も人族も誰もが幸せに暮らせる国だ。だから、だから・・・俺は」

「アマツの夢のような国を完成させようってか?いいね。俺も手伝ってやるよ。まぁ。エンが成人するまでは、側にいろよ。」

「分かっている。」

 この国の歴史が一つ動いた。傭兵団の前身となる自衛団が作られることが今この時、決定したのだった。これも変革をもたらす者であるエンが起こした歴史の一つである。


 そして、俺はルギアから長の血族である証をギルドタグに付けられ解放された。やはり、自分で歩くのが一番いい。
 今日は休みではないので、早足でフィーディス商会へ戻っていく。

「エン。発見なの!」

「グッ。」

 声と共に横から衝撃がやって来た。この声はヴィーネか!

「なんだ!毎回毎回。ぶつかって来るのは!」

「え?愛情表現。」

 なに、そのあたり前ですけど、みたいな顔は!そんな愛情表現はいらん。

「普通に声をかけろ。で、何だ?」

「ジェームズが探して来いって、探し出してきたらエンからアイス貰っていいって言われたの。」

 それは、違うと思うぞ。俺は急いでフィーディス商会へ戻り、ジェームズの執務室の扉を叩く。

「入れ。」

 扉を開き中に入ると以前、商業ギルドで見たギルドマスターがいた。俺はそのギルドマスターを横目で確認しつつジェームズの前に行き

「俺を探していたとヴィーネから聞いたが、何かあったか?」

「ああ、そこに座れ。」

 なぜかギルドマスターが座っている向かい側のソファを示された。

「一度会っていると思うが、ミレーテの商業ギルドのギルドマスターだ。」

 ああ、知っている。かなり食い下がられたからな。

「今回の事で多くの商会が被害を受けてな。荷馬車の運用から荷袋と騎獣の運用に変えようと言う話になったのだ。」

 すればいいと思うが、俺に何の関係があるんだ?

「それで使用料はいくらがいいのか聞いておきたくてな。」

「・・・何の使用料だ?」

「荷袋のだ。」

 意味がわからん。なぜ、荷袋に使用料が掛かるんだ?レンタル制か?

「ジェームズ。悪いがなぜ使用料が掛かるか分からん。」

「特許と言うやつだ。」

 トッキョ?特許・・・。収納袋は始めから存在したぞ。あれか、また天津の鶴の一声か。

「多分、特許の定義が違う。俺のおこなった事に対しての使用料は発生しない。自由に使ってくれればいい。」

 二人は顔を見合わせ、俺に詰め寄ってきた。

「「特許とは何だ!」」

「その前に天津先生の言葉を聞こうか。」

 それに対してジェームズが答える。

「『新しい物を作った人には使用料を払うべきよね。』」

 ジェームズ。天津の口真似までしなくていい。オッサンが『よね』とか言っても可愛くない。
 それにしても、定義の幅が広すぎる。それだと確かに鞄に収納拡張機能を付けたのは新しい物と言えばそうかもしれないが、これでいいのか?

「で、エンの知る特許とは何だ?」

「簡単に言うと、発明者に対して発明のレシピの公開を代償として、その発明を使用する権利だ。この特許権は国が一定期間認めたものだ。期間を過ぎれば誰でも自由にその発明を使える。まぁ。発明を保護する制度だ。」

 二人して目が点になっている。今の運用状況と異なっているんだろう。

「今回件で言えば、収納拡張機能を施した袋が存在しなかった場合、その収納袋を作った人に対して特許権の申請ができるが、申請して国が査定し認められなければならない。そして、申請が中々通らない厳しいものだ。」

 二人して頭を抱えだした。天津、思いつきで言うのはいいが、きちんと説明はするべきだったんじゃないのか。
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