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39 奴隷の首輪

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「エンは相変わらず規格外だな。無理だと言いながらこうもあっさりとサーベルマンモスを倒してしまうなんてな。」

 ゼルトが騎獣に乗ったまま話しかけてきた。

「全部は無理だ。あの魔物の魔石が欲しいから確保しておいてくれ、残りはゼルトのオッサンの好きにするといい。あと、なるべく離れてくれ、街の人たちには他の所の魔物の対処をするように言ってくれないか?」

「おおう。危険なのか?」

「うーん、失敗すると生き埋め?」 

 この、辺境都市は海に面している高台にある。いわゆる海岸段丘だ。そのため地盤が固く、都市を作るのには適していると言っていい。しかし、その地下を掘り進めて行くとしたら、かなりの重労働だろう。その地下道につながるところに巨大な穴を掘り、水を貯めると街の地下を通り抜ける地下水路の出来上がりだ。
 氷の精霊ならこれぐらいでどうもならないだろう。

 こういう海岸段丘と言われるところは、立地はいいのだが、水を確保するのに困ると聞いたことがある。雨水を貯める水路とすれば後々便利になると思うのだが、水路となるか生き埋めになるかは、これを掘り進めているヤツにしかわからんな。ただ、なぜかうまいこと地上に出るように斜めにほり進めて行っているようだから、流れると思うのだが・・・。

 『絶対真空』で地面に切れ込みを賽の目のように刻み入れ、その場所を魔力で覆い『絶対空間』を作り上げる。これもまた、歴史上口論されたものであるが、俺なりの解釈で作り上げた空間だ。座標を指定し、賽の目に切り刻んだ地面を動かして行く。絶対空間を使うことにより固い地面も滑るように指定座標に向かっていく。その結果、巨大な四角い穴と積み上がった土の塊が出来上がった。

 積み上がった土は、全てイベントリーの中に入れていき、巨大な穴には水魔術で水を入れていく。こちら側の準備は出来上がった。

 騎獣に乗り再び街の中に戻る。そして、コートドラン商会の頭取の屋敷に行き、屋敷の敷地の内側に先ほど穴を作る時に出た土の塊をイベントリーから出しながらグルリと並べて行く。いわいる土手だ。こっちの方の準備も終わった。随分時間が経ってしまったが、そろそろあちらの穴が水溜にたどり着くことだろう。

「エン。サーベルマンモスの件はここの冒険者ギルドに頼んできたからな。それで、何をしているんだ?」

 サーベルマンモスの魔石を確保してくれるように頼んでいたゼルトが用件が終わったために俺のところに来たらしい。

「ああ、やって来るの待ちだ。」

「何がだ?」

「来た。」

 地面から地響きが鳴り出し、小刻みに地面が揺れだしてきた。屋敷の扉が勢いよく開き、窓から水が溢れてくる。30セルメルセンチメートル程の深さの水辺になった。その、水溜まりの中には数人の人が浮かんでいる。ああ、いた。無事に出てきたようだ。ゼルトに浮かんでいる人の救助をまかせ、氷の精霊のところに向かう。

「おい。生きているか?」

 水に濡れた青みがかった白い髪に透き通るほどの白い肌に異様に映る真っ黒な首輪が目立つ。身動ぎをし薄く見開いた目には水色の瞳が垣間見える。
 俺を認識した瞬間、顔を歪め悲鳴を上げるように口を開けるが息が漏れるのみで、声が出ないようだ。

 この、首輪は悪いのか?止め金を外そうにも固くて外れそうにない。首輪に魔力を流して強引に壊そうとすれば、氷の精霊は苦しみだし暴れだした。
 なんだ?これは、普通に取れないようになっているのか。
 うーん。

「ゼルトのオッサン!この黒い首輪はどうすば取れるんだ?」

 水に浮いている人を土手に引き上げていたゼルトに尋ねる。

「ああ?奴隷の首輪か。そんなもん契約者しか取れんぞ。もしくは、聖魔術が使える人物か。」

 聖魔術?なんだそれは?

「光魔術じゃないのか?」

「聖女様とか聖剣様とか聖人と言われている人たちが使う魔術だ。」

 聖女とかいるのか。聖魔術か・・・ホーリーランスって攻撃魔術が浮かんできたな。って攻撃してるし!うーん。エクソシズム・・・浄化の魔術っぽいがアンデットの浄化魔術だな。試してみるか。

「『エクソシズム。』」

 魔術を施行すれば、黒い首輪から黒いモヤのようなものが出てきた。え?この魔術で浄化されるのか?この首輪すごく悪質なんじゃないのか。
 モヤが出終わった首輪は茶色の革の色の首輪になっていた。止め金は普通に外れ氷の精霊の首からするりととれた。
 氷の精霊は目を見開いて、俺と首輪を見比べており、口を開け、声を出そうとしたのか咳き込んでいる。大丈夫か?缶に入っている飴を取り出し、確か薄荷味の飴が入っていたので、クジを引く感じに缶を振り飴を出す。おお、一発目で薄荷味が出た。
 その飴を氷の精霊に渡し食べるように言う。

「あのさ、この缶の入った飴をあげるから、外にいるサーベルマンモスを下げてくれないか?」

 口の中で飴を転がしながら、今度は俺の顔と飴の缶を見比べている。言葉通じているのか?
 そう思っていると、氷の精霊がふわりと浮き上がり、空を飛んで外壁の外へ向かって行った。返事を聞かなかったが、魔物はもとのところへ帰してくれるのだろうか。

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