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32話 カイルの葛藤
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小屋に着いて疲れきった2人は、朝になるまでお互い少し横になった。
———「ふわぁ」
朝日の光で目が覚めたアイリスは大きなあくびをしながら体を起こした。
アクアが眠っていたベッドの下を見る。
既に起きているのか、姿がなかった。
「アクア?」
アイリスは声をかけたが何の反応もない。狭い家なのでどこにいてもその声は聞こえるはずなのだが。
不思議に思ったアイリスは、キッチンを覗いたりバスルームをノックしたが、アクアの気配はどこにもなかった。
「…?出かけたのかしら?魚は昨日獲ったのがあるし…山菜でも採りに行ったの?」
いつも一緒に朝食を摂っていたのにおかしいと思いながらも、そういうこともあるかとあまり深く考えずに、アイリスはいつも通り朝食を作った。
すぐ戻ってくると思って2人分作った朝食が、いつの間にか冷めてしまい、アイリスは少し心配になる。
同じように昼食も作ったが、また冷めてしまった。
アイリスはいよいよ不安になってきて、外の方をうろうろ探しに行ったが、結局見つからなかった。
(アクア…記憶が戻って帰っちゃったの?)
今まで1人でも平気だったのに、2人の生活を知ってしまい、アクアがいないととてつもなく不安で寂しいということに気づいてしまったアイリスは、心細くなって小屋に戻った。
アクアは夕方になっても戻らず、アイリスの目にはとうとう涙が溢れ始めた。
もう夕食を作る気にもならず、けれどアクアがいつ帰ってくるかもわからないのでベッドに入る気にもならずにキッチンのテーブルの前に座ると、起きてずっとアクアを待った。
やがて夜になり、起きていようと思っていたのにいつの間にかテーブルにうつ伏せになって寝てしまった。
そのまますっかり寝入ってしまった頃、アイリスのワンピースの裾が、ぐいっと引っ張られた。
驚いて、ガタンッと立ち上がったアイリスは、目の前に狼姿のアクアがいて、驚きと喜びで、その首に思い切り抱きついた!
「アクア‼︎どこ行ってたの⁉︎心配したじゃない‼︎
知らない間にいなくならないでよ‼︎」
抱きつきながらそう叫んだアイリスは泣いていた。アクアはクゥーンと鳴きながらアイリスの頬を伝う涙を舐めて慰めた。
ひとしきり泣いたアイリスは、ささっと部屋の奥へ行くと、パタパタと早足で戻って来た。
その手には包帯を持っていた。
アクアが、傷はもう治ったんだけどな?ときょとんと見ていると、抵抗する間もなく、アクアの首に素早く包帯を巻きつけ、少しゆとりを持たせて縛ると、反対の端を自分の腕に巻きつけた。
(なんだこれは⁉︎犬みたいじゃないか⁉︎)
「ワフっワフっ!」
「ごめんね?アクア。でも知らない間にいなくなる方が悪いんだからね?明日人の姿になったら解くから今だけ許して?」
そう言ったアイリスは、怒らないで?と言ってそっとアクアを撫でた。
人間じゃないと話もできないので、アイリスはとにかくアクアが人の姿になって何があったのか聞くまで絶対出て行かせないようにしたかった。
それでも安心しきれなかったアイリスは、ベッドには行かず、自分の布団も床に引き摺り下ろして下に敷くと、アクアが逃げないように抱きつきながら眠った。
(…こんなに引き止めようとするなんて…
勝手に居なくなって悪いことをしたな…)
カイルはそっと尻尾を巻き付け、アイリスを優しく包み込んだ。
(狼姿じゃないと王宮に戻るのに時間がかかり過ぎるから、狼から人に変わる前にここを出たんだが、一度話してから行くべきだった…
しかし…何て言えばいい…
兵士に変装して王宮に潜り込んだら、あの逃がそうとしてくれたアルバートにうまく出会えて、色々聞けたまでは良かったが…
…状況は最悪だ。
僕が居なくなったのは罪を認めたからだということになっていた。
次期王候補はマクロスになり、それは別に構わないが、やはり思った通りマリーサがその妃になろうとしていた。
誰の子かもわからないお腹の子を抱えて…
腹が目立つ前に成婚の儀を執り行うと言っていたから、あと2ヶ月も無さそうだ。
…マリーサの証拠はまだ何も押さえられていない。
そんな状況で訴え出てもまた捕まるだけだ。
急いで決定的な証拠を掴んで戻らないと…
しかし…それはどうなんだろうか…
マクロスは何も知らない方が幸せなのかもしれない
マリーサの罪を暴けば、苦しい思いをするのはマクロスなんじゃ…
このまま自分が戻らずマクロスが王になり、愛するマリーサと一緒になった方が幸せなのかもしれない…
でも、戻らなければ僕はアイリスと婚約も結婚もできない…
…僕が戻ることができた時、それはつまりマリーサが罪に問われ、マクロスとの婚約が破棄になることを意味する。
マクロスが幸せなら、…このまま精霊になってしまっても、僕は別に構わない…
その方がむしろアイリスも僕から解放されるわけだしな…
だが、あのマリーサで本当にマクロスが幸せになれるのか…)
考えても一向に答えが出ないカイルは、寝ているのにしっかり自分を抱えながら眠るアイリスを見て、自分もアイリスと幸せになりたいな…と、ふと思ってしまった。
しかし、それは誰かを傷つけてしまう結果になりそうで、首を横に振り、アイリスの頬にそっと自分の頬を寄せて眠った。
———「ふわぁ」
朝日の光で目が覚めたアイリスは大きなあくびをしながら体を起こした。
アクアが眠っていたベッドの下を見る。
既に起きているのか、姿がなかった。
「アクア?」
アイリスは声をかけたが何の反応もない。狭い家なのでどこにいてもその声は聞こえるはずなのだが。
不思議に思ったアイリスは、キッチンを覗いたりバスルームをノックしたが、アクアの気配はどこにもなかった。
「…?出かけたのかしら?魚は昨日獲ったのがあるし…山菜でも採りに行ったの?」
いつも一緒に朝食を摂っていたのにおかしいと思いながらも、そういうこともあるかとあまり深く考えずに、アイリスはいつも通り朝食を作った。
すぐ戻ってくると思って2人分作った朝食が、いつの間にか冷めてしまい、アイリスは少し心配になる。
同じように昼食も作ったが、また冷めてしまった。
アイリスはいよいよ不安になってきて、外の方をうろうろ探しに行ったが、結局見つからなかった。
(アクア…記憶が戻って帰っちゃったの?)
今まで1人でも平気だったのに、2人の生活を知ってしまい、アクアがいないととてつもなく不安で寂しいということに気づいてしまったアイリスは、心細くなって小屋に戻った。
アクアは夕方になっても戻らず、アイリスの目にはとうとう涙が溢れ始めた。
もう夕食を作る気にもならず、けれどアクアがいつ帰ってくるかもわからないのでベッドに入る気にもならずにキッチンのテーブルの前に座ると、起きてずっとアクアを待った。
やがて夜になり、起きていようと思っていたのにいつの間にかテーブルにうつ伏せになって寝てしまった。
そのまますっかり寝入ってしまった頃、アイリスのワンピースの裾が、ぐいっと引っ張られた。
驚いて、ガタンッと立ち上がったアイリスは、目の前に狼姿のアクアがいて、驚きと喜びで、その首に思い切り抱きついた!
「アクア‼︎どこ行ってたの⁉︎心配したじゃない‼︎
知らない間にいなくならないでよ‼︎」
抱きつきながらそう叫んだアイリスは泣いていた。アクアはクゥーンと鳴きながらアイリスの頬を伝う涙を舐めて慰めた。
ひとしきり泣いたアイリスは、ささっと部屋の奥へ行くと、パタパタと早足で戻って来た。
その手には包帯を持っていた。
アクアが、傷はもう治ったんだけどな?ときょとんと見ていると、抵抗する間もなく、アクアの首に素早く包帯を巻きつけ、少しゆとりを持たせて縛ると、反対の端を自分の腕に巻きつけた。
(なんだこれは⁉︎犬みたいじゃないか⁉︎)
「ワフっワフっ!」
「ごめんね?アクア。でも知らない間にいなくなる方が悪いんだからね?明日人の姿になったら解くから今だけ許して?」
そう言ったアイリスは、怒らないで?と言ってそっとアクアを撫でた。
人間じゃないと話もできないので、アイリスはとにかくアクアが人の姿になって何があったのか聞くまで絶対出て行かせないようにしたかった。
それでも安心しきれなかったアイリスは、ベッドには行かず、自分の布団も床に引き摺り下ろして下に敷くと、アクアが逃げないように抱きつきながら眠った。
(…こんなに引き止めようとするなんて…
勝手に居なくなって悪いことをしたな…)
カイルはそっと尻尾を巻き付け、アイリスを優しく包み込んだ。
(狼姿じゃないと王宮に戻るのに時間がかかり過ぎるから、狼から人に変わる前にここを出たんだが、一度話してから行くべきだった…
しかし…何て言えばいい…
兵士に変装して王宮に潜り込んだら、あの逃がそうとしてくれたアルバートにうまく出会えて、色々聞けたまでは良かったが…
…状況は最悪だ。
僕が居なくなったのは罪を認めたからだということになっていた。
次期王候補はマクロスになり、それは別に構わないが、やはり思った通りマリーサがその妃になろうとしていた。
誰の子かもわからないお腹の子を抱えて…
腹が目立つ前に成婚の儀を執り行うと言っていたから、あと2ヶ月も無さそうだ。
…マリーサの証拠はまだ何も押さえられていない。
そんな状況で訴え出てもまた捕まるだけだ。
急いで決定的な証拠を掴んで戻らないと…
しかし…それはどうなんだろうか…
マクロスは何も知らない方が幸せなのかもしれない
マリーサの罪を暴けば、苦しい思いをするのはマクロスなんじゃ…
このまま自分が戻らずマクロスが王になり、愛するマリーサと一緒になった方が幸せなのかもしれない…
でも、戻らなければ僕はアイリスと婚約も結婚もできない…
…僕が戻ることができた時、それはつまりマリーサが罪に問われ、マクロスとの婚約が破棄になることを意味する。
マクロスが幸せなら、…このまま精霊になってしまっても、僕は別に構わない…
その方がむしろアイリスも僕から解放されるわけだしな…
だが、あのマリーサで本当にマクロスが幸せになれるのか…)
考えても一向に答えが出ないカイルは、寝ているのにしっかり自分を抱えながら眠るアイリスを見て、自分もアイリスと幸せになりたいな…と、ふと思ってしまった。
しかし、それは誰かを傷つけてしまう結果になりそうで、首を横に振り、アイリスの頬にそっと自分の頬を寄せて眠った。
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