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137話 企み
しおりを挟む———「はぁ…」
キャロラインと話した翌日の昼過ぎ。
大変なことになったと、リンドは執務室の机に肘を突きながら、頭を抱えていた。
舞踏会は2ヶ月後…
ティアは、
他国の重鎮と話をするには、まずダンスをしっかり踊れないと話にならないということで、
今はダンスのレッスンにかかりきりだ。
孤児院で3年も過ごし、貴族としての勘を取り戻すことさえ大変だというのに。
ただ、ダンスは昔デビュタントの時にロズウェルに仕込んでもらったから、
勘さえ取り戻せば大丈夫だとは言っていたが…
心配だ…
あとは、他国と交渉までするとあっては、
ホスト側は相手国の言葉を多少話せないと、
通訳をつけるにしても、誠意が伝わらずに交渉はうまく行きづらくなる。
公爵家の子どもなら、皆幼い頃から叩き込まれ、
周辺国の何ヵ国語かは話せるようになっていて当たり前なのだから、
キャロラインも、もちろんそうだろう。
だからこそ、自分に有利なこんな勝負仕掛けてきたんだ。
ティアは、期間があまりに短い為、
交渉出来そうな相手国を1~2ヵ国に絞り、語学も特訓を開始しているが…
いくらティアが努力家とはいえ、そんな付け焼き刃でどこまで渡りあえるか…
…あの女!本当に卑怯なことを!
とリンドは歯噛みする。
勝負が平等でないならば…
こちらも少し手を打たせてもらおう…
リンドはニヤリと悪意を含んだ笑みを見せた。
その時、
ガチャリ
と、ノックもせずにキースがズカズカと入ってきた。
「なんだ、その悪い顔は?
何かやらかしたら、お前でも引っ捕えるからな?」
そういうと、ソファに腰を下ろした。
「で?今日はなんだよ?」
後ろに首だけ向けてリンドを見る。
今日はキースが勝手に来たのではなく、リンドの方から呼びつけていた。
「ああ…ちょっと面倒なことになってな。
精霊王がお前に助けてもらえばいいって言ってたの思い出してさ。
ちょっと頼みたいと思って」
そう言いながら席を立つと、リンドもソファの対面に腰掛ける。
「ああ、そうなの?
ってことは…精霊王様に会ったんだ⁉︎
…俺のこと、なんか言ってた?」
「?ああ、まぁ、なんだったかな…?
側近とか?デカくて強い獅子とか?」
リンドは上を見つめて、あの時のことを振り返る。
キースのニッコリ笑って喜んだ顔は忠犬のようだ。
あんな奴を慕ってるのか?
と訝しむようにリンドはその表情を見た。
「頼みって?」
精霊王に褒められたと思い、機嫌を良くしたキースはニコニコしながら聞いてきた。
「ああ、ちょっと調査してもらいたくてな。
ホーネット公爵家のことなんだが…
弱味があれば見つけてもらいたい。
俺がキャロラインと結婚しないと戦争するだとか、
代わりにティアと勝負させないと戦争するだとか、
あの女物騒なことばかり言うもんだから、
ちょっとお仕置きが必要かと思ってね」
リンドは悪巧みをしている顔をしてキースを見た。
「ああ、キティのことか…ははっ、あいつ激情型だからなぁ。」
4大公爵家の子どもたちは、将来諍いを起こさず、均衡を保つために、幼い頃から仲良くするよう、よく交流しているのだが、
それでも交流の機会には差があり、
リンドはキャロラインとはほんの小さな頃に会っただけだが、
キースはよく遊んでいたらしい。
よく知っていると言った風にキャロラインの性格をあてる。
「まぁ、ホーネット家のことはちょうど俺も調べないとなって思ってた件があったから、引き受けるよ。
なんかホコリ出てきたらまた教えるわ」
「ああ、頼んだ!」
本当に心底頼むと言った風に、真剣な目で言うと、
「俺にそんな顔するの珍しくて、気分いいな」
とキースは笑いながら出て行った。
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