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131話 一緒に帰ろう
しおりを挟む「ねえ、ティア、おぼえてる?」
自分がまたがる前方にティアを乗せた馬を、
公爵家に向かって走らせながらリンドは聞いた。
———ティアが公爵家に帰ると聞いて、孤児院の子たちは寂しがっていたが、
「ティアがいなくて1番寂しいのは俺だから許してくれ」
と、子ども相手に言い切って、
クールな公子がおかしくなった…
と、みんなをポカンとさせている間に、
ティアには、
荷物などはまた視察に訪れた時に取りに行けばいいと言ってのけると、
さっさと馬に乗せ、拐うように連れてきたのだ。
ティアは文字通り、身ひとつで公爵家に嫁ぐことになった。
ラムは、リンドが手配していた馬車に乗って一緒に公爵家に向かい、
ロズウェルは大事な妹の結婚の準備をしなければ、と急いで自領へ帰って行った。———
「え?」
なんのことかわからなくて聞き返した。
「ティアが初めてここへ来た日のことだよ。
一緒にこうやって、俺の走らせる馬で公爵邸まで行ったよなぁって、思い出してた」
人間界に無事戻れたことがあまりに感慨深く、
あの日のことを思い出さずにはいられなかったリンドは、
ティアにも一緒に思い出して欲しくなって、思わず聞いた。
「ふふっ、そうでしたね。随分前のことですけど、よく覚えてますわ。
あの時は、私本当にリンド様のことがよくわからなくて、
とても不安だったのに、この胸に包まれているのがとても心地良くて、
ずっとくっついていたい、なんてはしたない事を考えていたように思います。」
若気の至りを話すように、少しはにかむと、ふふっと恥ずかしそうにティアは笑った。
でも真剣な表情に変わって…
「リンド様、いつ記憶が戻られたんですか?
私と出会った時からの記憶、…全部が戻られているのでしょうか?」
ティアは、不安気にリンドを見上げた。
こんなに温かい腕に抱かれていても、まだ少し心配だった。
そう思わせるほどに、リンドから冷遇された3年は想像以上に長く感じるものだった。
「大丈夫、全部思い出しているから。
だってこんなにティアのこと大好きで愛してるんだから、間違いないってティアもわかるだろ?」
そう言いながら、ティアに頬ずりする。
ティアはくすぐったそうに身をよじるが、
表情はとても嬉しそうにしていたので、リンドも安心する。
「ええ、本当に嬉しいです。
リンド様…本当に、ずっとずっとお会いしたかった…」
ティアはしっかりとリンドに抱きついて言った。
リンドは何かを思い出して、はっとする。
「そういえば、反対に記憶を失っている間の自分を覚えていないんだ。
だから、ティアにさっき会いに行った時、近づく俺を見て怯えていたように思ったから、
俺に…ひどいことされてたのか?」
「えっ、いえ、ひどいことなんて…
その、少し避けられていたくらい…です。
その、…リンド様は私と出会う前はひどい女性嫌いだったようでして、
そちらのリンド様になってしまわれましたから、
女性である私のことも、同じく避けておいでだったんです。
でもリンド様が今こうして思い出してくださって、
もうそんなことはどうでも良いことで、
全てリンド様のそのお優しいお顔を見たら消し飛んでしまいました。」
と、ニコッとティアは微笑んだ。
リンドはその顔を見て、
たまらなくキスをしたい衝動に駆られたが、
馬を走らせているのでひたすらに我慢した。
「そういえば、リンド様。ご結婚のご予定があるとお聞きしておりましたが、大丈夫ですの?」
ティアはまた不安気に戻ってしまう。
「あ?あっ、ああ、問題ないよ!母上に断ってもらっておいたから、ティアは心配しないで」
そういうと、ティアのおでこに軽くキスを落とした。
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